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第7章

99 夜会

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「レティシア様、こちらへどうぞ」


ドレスを着直して準備を済ませたレティシアは、エメリアに案内され、会場脇の控室へとやって来た。
開宴してまだ15分も経っていない。会場からは、賑やかな音楽とざわめく人々の声が漏れ聞こえてくる。


「会場内の映像をご覧になりますか?」

「見れるんですか?…はい、見てみたいです」


エメリアがガラスのような透明な板に魔力を流して触れると、パッと明るくなって映像が映し出された。会場全体やメインとなる舞台など、画面は大小七分割されていてズームも可能。

レティシアの目に最初に飛び込んで来たのは、大広間の中心に設置された巨大な装飾噴水。


「わっ!室内なのに噴水…?!」

「本物の水が流れているそうですよ」


楕円形をした噴水の周りは、薔薇や色とりどりの実った果実などで華やかに飾られ、アルティア王国の緑豊かで美しい大地を表現している。

噴水の真ん中には、巨大な虎に女神が寄り添うオブジェがドン!とそびえ立っていた。土台も含めると、高さは三…いや四メートルを超えているだろう。天然石の素材に細かな彫刻がなされており、存在感が凄い。

ひと目見ただけで“神獣サハラと聖女サオリ”をイメージして制作されたものだと分かる。さらに、このオブジェから噴き上がる水が強い照明光に照らされキラキラと虹色に輝き、噴水全体が異彩を放っていた。

豪華な室内噴水を左右から挟むように並べられた長いテーブルには美味しそうな料理が運ばれ、そのテーブルの外側から舞台の前辺りまでの空間に、貴族たちが大勢集まっている。女性の色彩豊かなドレスは、サオリの言っていた通りかなり露出度が高い。

会場の後方では、楽団が生演奏中…かと思いきや、魔法にかかった楽器が独りでに音楽を奏でていた。今夜は、奏者もパーティーを楽しめる。


「明日は舞踏会がございますので、かなり広い大会場を使用しております。その分、今宵はお食事しながらゆったりとお寛ぎいただけます」

「本当に別世界。こんなに人が多いだなんて…これが貴族のパーティー」


エメリアの話によると、大広間の高い天井は一部がステンドグラスになっていて、昼間に開催される舞踏会では太陽の光が差し込んで大変美しいのだとか。
パーティーの規模は、レティシアの予想を遥かに上回っていた。


「年に一度、王国の守護神にお会いできる貴重な機会を逃すわけにはまいりませんから、皆さま感謝祭にお越しになるのですよ」


(サハラ様は、超レアキャラですものね)


聖なる集まり“感謝祭”は、王国を護る神獣サハラへの感謝を形にして表そうと…聖女サオリが始めたもの。元々は、贈り物が溢れ返る聖女宮の管理をするために“志”を受け取るのは年一回だけと決めた日だった。


「聖女様は、国民が幸せであることこそ“贈り物”であるとお考えです。その返礼として明日を『国民の祝日』に制定なさいました」

「今日は贈り物を貰う日で、明日はお返しをする日なのかしら…だから、感謝祭は二日続けて行われるのですね」

「左様でございます。明日は、無料のお料理が街の至るところで振る舞われます」

「素晴らしいわ」



    ♢



舞台上を映す映像内の中心には、すでにサハラやサオリ、クオンの姿が見える。
サハラとクオンも、サオリと同じく真っ白な衣装で正装していた。今日のサハラは肌の露出が少なくて、レティシアとしては一安心。黄金に輝く大きな椅子にどっしりと腰を据え、右隣の小ぶりな椅子に大人しく座るクオンと手を繋いでいる。

現在舞台の中央に立っているサオリが座る場所は、サハラの左隣が相応しい。しかし、椅子自体がどこにも見当たらない。まさか、公の場でもサハラの膝の上が定位置だなんてことは…ないと願いたい。


(私は、今からここへ出て行かないといけないの?)


高まる緊張感を散らしつつ画面に見入っていると、舞台の上手側から国王クライスが金髪の若く美しい女性をエスコートして現れた。


「あっ、国王陛下…お隣はお妃様?」

「王妃ソフィア様でございます」


沸き起こる拍手の振動が、床を伝って控室まで響いて来る。
貴族たちにとって神獣一家は勿論のこと、国王をはじめとする王族もまた…滅多に会えない雲の上の存在に違いなかった。次々と舞台上に現れる王族の姿に、徐々に興奮していく様子が映像から見て取れる。
突然、ドッと一際大きく地鳴りのように拍手とどよめきが起こった。


(……殿下……)


涼しげな表情のアシュリーが、颯爽と舞台へ登場する。胸に手を当ててサハラへ一礼すると、長めのコートをヒラリと翻して華麗に着席、準備されていたシャンパングラスを手にした。
歩いて、頭を下げて、座っただけなのに格好いい。令嬢たちの黄色い声が止まないのも当然に思える。


「…すごい…」

「大公様は初めてのご参加です。ここ半年程は、公の場に出ていらっしゃいませんでした…」


女性に対して嫌悪感を抱くアシュリーの苦痛を誰よりも知っているサオリは、今まで感謝祭への不参加を容認していたのだ。

そもそも、催事へ参加しても必要最低限の挨拶と役目を果たせば帰ってしまう。大公となった直後、ラスティア国で大祝宴会の主役を務めて以降は、多忙を理由にユティス公爵を代理に立て、アシュリー本人は一度もパーティーへ顔を出さなかった。


(殿下も…レアキャラだったわ)


未婚のアシュリーは全ての貴族令嬢に狙われている。そう思うせいか、甲高い歓声がやたらと耳障りに感じた。この場へアシュリーを引き込んだのは、他でもないレティシアだというのに…責任転嫁も甚だしい。

エメリアは何かを察したように、話を続ける。


「大公様が降壇されますと、すぐご令嬢方に取り囲まれてしまいます。レティシア様が不安にお感じになるのも…無理はございません」

「…やっぱり、そうなるのでしょうか…」

「この機会に、お二人の仲睦まじいお姿をご披露なさるのもよろしいかと思います。公認の恋人同士の間に割り込むことは、無粋な行いとされておりますから」

「………え?」


(“公認の恋人”…また出たな!)










────────── next 100 夜会2

次は…とうとう100話になります。
ここまで読んで頂きまして、誠にありがとうございます!

          ─ miy ─





    
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