【完結】年下王子のお嫁様 

マロン株式

文字の大きさ
8 / 56

ヒロインは片思いをしている

しおりを挟む
 初めまして、私の名前はユリシア・モントリア。モントリア伯爵家の長女で、今年12歳になる。
 私には前世の記憶があって、此処は私が前世で読んでいた恋愛小説の世界。私は小説のヒロインとして生まれていた。

 小説のヒロインである私は、王子と、王子の12歳の誕生祭で出会い恋愛をして、すれ違いを重ねた末に結ばれるとか。

 それが運命で、正直生まれてから前世の記憶があった私はそれをラッキーとさえ思っていた。
 
 あの時までは。

 私は、父の友人の息子が伯爵位を受け継ぐ事になった時に挨拶に来た彼と出会ってしまった。

 ヴォーレン・バウセラム ミストロイア辺境伯爵。出会った当時私は7歳。彼は17歳だった。およそ10歳差の私を向こうは当然ながら恋愛対象として見ていなかったけど。

 私は違う。一目惚れだった。

 彼の雰囲気も、綺麗で優しげなペリドットの瞳。話していて明るくしてくれる喋り方。

 私は辺境伯にまた会えるようにごねにごねた結果、私が懐いていると思った父が、親同士が仲が良いのもあって良くミストロイア辺境伯と私を会わせてくれた。

 会うたびに私だけが、素敵すぎて惹かれてゆく。


 でも、ふと我にかえるのだ。私は10歳になったら、王子と出会う予定だ。
 もし王子と出会ってしまったら。この恋心はどうなるのだろう。

 消えてしまうのだろうか?

 その方が良いに決まってる。だって、王子の方が年の頃も丁度良いし、辺境伯は私を子供としてしか見ていない。
 彼の為にも、この恋を、消してしまった方が良いに決まってる。

 
 そう思いながら迎えた王子の誕生祭、私は王子を遠目から見て思った。

 とても整った顔立ちで、誰もを魅了する笑顔の物語通り素敵な王子様。

 それが、私のものになるなんて幸運だ。

 だけど……。

 私は横に視線をやった。その先には他の貴族と談話している辺境伯が人懐っこい笑顔を浮かべている。

(だけど、この気持ちは消えなかった…。)

 そして、この日気が付いた。辺境伯の視線の先に、マーガレット様がいる事を。

(ぁあいう、おっとりした豊満な女性がタイプなわけね。)

 見向きもされないはずだ。
 私は今年やっと10歳になる。当然ながら胸なんかまだぺったんこだ。きっと成長したら凄い筈。だって私はヒロインだから。
 
(まぁでも、マーガレット様が辺境伯様のタイプでも、マーガレット様は王子の……ん?)

 通常なら王子の妃に恋慕してもどうにもならないから安心出来るところだ。だけど、ここは小説の世界でマーガレットは王子と離縁していた。

 その後は確か…

「ー…!」

  
 マーガレットは小説で再婚していた。
 物腰柔らかで、大型犬のように人懐こい雰囲気。ペリドットの瞳を持つ辺境伯のもとで溺愛される。
 まんまヴォーレン・バウセラム ミストロイア辺境伯爵の特徴だ。そう言えば、辺境伯でペリドットの瞳を持つ人は彼しか見た事ない。

 
(……、いや…そんなの、いや!)


 そう思った私は物語を変えるため、誕生祭で王子と会話するのを避けた。取り敢えず出会いそうになるのを避けた。
 そのくらいしか私には出来なかった。


 だけど、相手の気持ちは変えられない。それからこうして王家が出てくるパーティーでの辺境伯を見ていて、分かってしまった。

 確実に、ヴォーレン・バウセラム ミストロイア辺境伯爵はマーガレットに恋愛感情を抱いていると。

 

 
 
しおりを挟む
感想 190

あなたにおすすめの小説

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...