猫が湯ざめをする前に

くさなぎ秋良

文字の大きさ
17 / 50

風呂に粘度はいらぬ

しおりを挟む
 世の中には『誰かに話してもなんのメリットもなく、むしろ敵を増やすだけだ』ということがある。

 だが、あえて言おう。くさなぎは世界で最も有名なネズミが率いる、あの夢の国が生み出す映像作品が苦手である。

 理由は『液体の描写が粘っこいから』だ。

 どうして夢の国の液体はあんなに粘るのか。「その涙やビールはスライムか」と訊きたくなるし、人間の仕草や表情まで粘っこく見えてくる。
 どんな料理や飲み物も、雨すらもなんだか不気味に見えてくるのだ。それらがどれも同じ粘度に見えて仕方ないのが、ますます不気味である。あんなに粘った水があるだろうか。

 昔、ある友人は「夢の国の作品は食べているシーンがどれも汚い」と苦言を呈した。びちゃびちゃと粘った食べ物が飛び散るシーンが多いというのだ。

 しかし考えてみよう。たとえば宮崎駿の作品にも食事シーンが数多く登場するが、お行儀のいい綺麗な場面ばかりではない。

 『天空の城ラピュタ』では男たちがシータの料理をものすごい勢いでかっこんでいるし、『千と千尋の神隠し』でも何度か食べるシーンがあるが、千はいずれもきちんと席についてお行儀よく食べているわけではない。席について食べた両親はあの有様である。ルパンと次元はスパゲッティを取り合い、ハウルの家ではマルクルがワイルドな食べっぷりを披露している。

 それなのに何故、くさなぎは宮崎作品に嫌悪感を抱かないのか。

 マナーの悪さがかえって「がむしゃらにかぶりつきたくなる美味さ」を想像させるし、映像の色彩の良さ、湯気や照りの力もある。『耳をすませば』の雫が鍋焼きうどんを食べるシーンは、すする鼻水が効果的である。
 なにより、粘度が絶妙なのだ。ハイジのチーズ、紅の豚のワイン、アシタカの粥、そういったものの描写が丁度いい。
 食べ物だけではない。ナウシカの浄化された世界に流れる水、トトロの田舎の小川、いろんな液体が必要以上に粘っこくない。

 テレビ関係の仕事をしていた友人は「食べ物を美味そうに撮るのは大変だ」と言っていた。断面を見せたり、湯気や照りにこだわったり、いい映像を撮るのは多くの労力と時間が必要らしい。
 同じ映像でもアニメの場合、粘度も大きな要素なのではないかと思う。

 と、こんなこだわりを熱く語る相手もいないので、くさなぎは今夜も湯船の中で湯を繰り返しすくいながら、ぼんやり考えているのだ。
 そういえば『あしながおじさん』でレモンゼリーのプールという一文が出てくるらしい。それはそれで素敵な空想ではあるが、やはり浸かるならサラッとしたお湯がいいとしみじみ思う湯船の国の人なのであった。

 ちなみに私も粘度のある湯船に入るより、またたび入り湯船につかってみたいのであった。

 さて、今宵はここらで風呂を出よう。

 猫が湯ざめをする前に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

Web小説のあれやこれ

水無月礼人
エッセイ・ノンフィクション
 沢山の小説投稿サイトが存在しますが、作品をバズらせるには自分と相性が良いサイトへ投稿する必要が有ります。  筆者目線ではありますが、いくつかのサイトで活動して感じた良い所・悪い所をまとめてみました。サイト選びの参考になることができたら幸いです。 ※【エブリスタ】でも公開しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...