スキル、訳あり品召喚でお店始めます!

猫 楊枝

文字の大きさ
上 下
6 / 9
第一章 開店準備

五話 訳あり品召喚スキル?

しおりを挟む
 あれから薄暗いダンジョン内で、どれぐらいの時間が経過しただろう。

 私は不安に押しつぶされそうになりながらも、やる事がないのでパッドからもらったバッジを手の平に乗せてしげしげと眺めていた。

 見れば見る程、カルちゃんに似ているそのイラストを眺めてほほ笑む。

 カルちゃんは今頃どうしているだろうか。ご主人様に会えただろうか。危険なモンスターに出会って怪我をしていないだろうか。

 考えていると悪い方向に思考が進んでしまうので、ぶんぶんと首を振って目を閉じる。
 その時だ、カチャッ、カチャっ、と爪が地面に擦れる音が聞こえてくる。私はその場で身構える。

 心臓がドキドキと鼓動を早める。
 でも、その姿を確認して安堵の息を吐く。
 カルちゃんがトボトボと元気のないおぼつかない足取りで戻ってきたのだ。

「……カルちゃん」

 元気のないしゅんとした落ち込んだ表情のカルちゃんに、ためらいながらも声をかける。

「……いなかったワン。ご主人様がどこにもいないワンよ……。捨てられちゃったんだワン、ボク、ボクは……クゥゥンッ」

 カルちゃんが切なそうに鳴く。私は居た堪れなくなってカルちゃんを抱きしめる。
 黒目がちな目からポロポロと涙の粒が零れ落ちる。
 
 クゥンッ、キュゥーッ、とカルちゃんが繰り返し小さく鳴く。
 私はカルちゃんを抱きしめながら頭を優しく撫でる。

「よしよし、泣かないで。頑張ったねカルちゃん」

 そうカルちゃんを撫でると悲しそうに、クゥンクゥンと鳴く。

 私は本当に切なくてもらい泣きしてしまう。涙が滲んで視界がぼやけたけど、カルちゃんに心配をかけないようにぐっと堪える。

(泣いている場合じゃない。しっかりしなきゃ!)

 そう自分に言い聞かせて涙を拭う。

 ――訳アリ品召喚のスキルを取得しました。

「え?」

 洞窟内に響く機械音声の様な声に、驚いて思わず声が出る。
 鳴いていたカルちゃんが、その様子を不思議そうに見てくる。

「……リコおねえしゃん、どうしたんだワン」
「今、声が聞こえたの。スキルを取得しただか、なんだかって」
「それはきっと、リコおねえしゃんのスキルが発動出来る準備が整ったんだワンよ!」

 子犬の様にクーン、クーン鳴いていたカルちゃんの瞳に光が灯る。
 それは私が初めて出会った時のカルちゃんの瞳だ。好奇心旺盛で人懐っこい表情にほっとする。

――右手を前に突き出し『訳アリ品召喚!』と大きな声で叫んで下さい。

「えぇぇー! そんな恥ずかしい事言えません」

――では訳アリ品召喚スキルを没収しますがよろしいですか?

「そんな……それも困ります」

――では右手を前に突き出し『訳アリ品召喚!』と大きな声で叫んで下さい。

 私と機械音声のやり取りを不思議な顔で眺めていたカルちゃんと目が合う。

 (何か、カルちゃんを元気づける事が出来るかもしれない)

 私は意を決して右手を前に突き出す。
 もうどうにでもなれだわ。

「訳アリ品召喚!」

 私の手の平から眩い光が溢れ出す。眩しくて目を細める。

「ちょっ、な、何これ!?」
「リコおねえしゃんのスキルが発動したワンよ!」

 驚く私を他所に、カルちゃんが嬉しそうな声を出す。

 クラッカーを鳴らした時の様な乾いた空気音が鳴ると、手を差し出した空間に突如プレゼントボックスが現れる。

「!?」

 私は驚いて目を見開いて固まる。プレゼントボックスが無情にも落下していくが、地面に届く寸前でカルちゃんが口にくわえてキャッチする。

 カルちゃんはウインクして、おめでとうと言わんばかりの表情で尻尾をフリフリ、プレゼントボックスを地面に置いた。

「リコおねえしゃん、しゅごいワン! プレゼントボックスの召喚なんてしゅごいワン!」

 カルちゃんが興奮気味に飛び跳ねる。
 私は未だに何が起こったのか良く解らず、茫然とその場に立ち尽くしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。

立坂雪花
恋愛
夏休み、小日向美和(35歳)は 小学一年生の娘、碧に キャンプに連れて行ってほしいと お願いされる。 キャンプなんて、したことないし…… と思いながらもネットで安心快適な キャンプ場を調べ、必要なものをチェックしながら娘のために準備をし、出発する。 だが、当日簡単に立てられると思っていた テントに四苦八苦していた。 そんな時に現れたのが、 元子育て番組の体操のお兄さんであり 全国のキャンプ場を巡り、 筋トレしている動画を撮るのが趣味の 加賀谷大地さん(32)で――。

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

蓮華

釜瑪 秋摩
ファンタジー
小さな島国。 荒廃した大陸の四国はその豊かさを欲して幾度となく侵略を試みて来る。 国の平和を守るために戦う戦士たち、その一人は古より語られている伝承の血筋を受け継いだ一人だった。 守る思いの強さと迷い、悩み。揺れる感情の向かう先に待っていたのは――

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...