お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon

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首都を遠く離れて

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 俺は国境の端にほど近い街で暮らしている。
 この街はいわゆる旅籠街というやつだ。
 土地はあまり豊かではないし、気候も寒いが隣国との交易の要衝なのでそれなりにはぶりは悪くない。
 俺はこの街で一番大きな屋敷に住んでいる。侯爵家と比べればかなり小さいが、今の俺の爵位は子爵なので、これが分相応というやつだ。
 跡取りになれなかった次男や三男が下の爵位を持つのは普通のことだし。
 そして、ルーファスの実家サーヴァルの支店もある。
 全国展開であちらこちらに支店を開いているらしい。おかげで遠い首都にいる仲間との連絡を取るのに不都合はない。
 あちらの事情は最初の方だけ聞いた。チャールズはもうグレイハウンド侯爵になったそうだ。父親は一番小さな別荘に押し込められているそうだ。俺でも兄でも自分の子が後を継げば跡取りの父親としてそれなりに暮らせると思っていたらしいが。
 兄はシュナウザー侯爵を継いではいないが、最近子供が生まれたらしい。お幸せで結構なことだ。
 セレスの猫はまだはがれていないのだろうか、そういう噂はまだ聞こえてこない。
 そして俺の隣に何故かルナがいた。
「なんでお前がいるんだろう」
「ああ、懲罰ってやつなんじゃないの」
 ルナはけろっとした顔でそう言った。
 すっかり慣れて丁寧な口なんぞきかなくなったほどの時間が俺たちの間に流れている。
 俺が卒業して長旅に備えて準備をしていると何と出発する場所にルナが来ていた。てっきり見送りかと思ったが、なんと俺と一緒についてくるという。
「懲罰されたの」
 どうやらセレスがいろいろと動いたらしい。ディアナは無理でもせめてルナには一矢報いたいと動いたんだとか。
 それをルナは黙ってみていた。どうも姉たちの泥沼を見ていて実家にいたくないと思ったらしい。
 遠い場所に一人で行くのは怖いが知り合いと一緒ならそれほど抵抗はない。
 セレスはざまあ見ろと笑っていたらしいが、ルナはうつむいて嗚咽を漏らすふりをして笑っていたらしい。
 そしてたどり着いたこの場所で俺たちが最初にした仕事が二人の結婚式の準備だった。
 それに半年かかったのはやはり慣れない仕事と平行にしていたからだろう。
 ご近所の領主と土地の有力者を集めて顔をつないだのでそれなりに有益だったと思うことにする。
「まあ、ここも結構いいところじゃない」
 子爵家ということで使用人にかしずかれて暮らすことには変わりない。
 領地の税金の計算と収入を俺がやり、その金で家政をやりくりするのがルナで役割分担はできている。
 そして俺は細々とだが絵は続けていた。サーヴァルの支店の人間はたまにやってきて何点か絵を持ち出す許可をもらいに来る。
 そして絵を渡すと次の月には金を持ってやってくる。
 ある程度この金がたまったので俺は今まで考えていた事業を実現させることにした。
「でも、これって事業なのかしら」
 ルナは首をかしげる。
「いいんだよ、俺は馬鹿だからね、賢い人間にいろいろ考えてもらいたいんだ。下手な考えよりいいと思う」
 俺の考えていた事業は学校を作るというやつだ。それも格安の。
 絵を渡した金はもともとあぶく銭だ。だからと言って贅沢をしたいわけじゃない。それに上等なドレスもルナはそれほど欲しがらない。
「賢い人間が増えればいい考えを出す人間も増えるだろう。将来の投資だよ」
 俺は郊外に建てられた小さな雨風をよけるだけの建物を眺める。貧しい子供は読み書きもできない。でも読み書きができれば収入のいい仕事に就ける。
 最初は授業が終わったらパンを一つ渡すことにする。パン目当てでも読み書きを覚える利点をわかってもらえれば定期的に文字を覚えようとする子供は増えるだろうし。
 それにある程度読み書きを覚えたら子供の将来がとか有能な人間を雇えるとかそういう利点で商売をやっている人間も巻き込めるかもしれない。
 機会があるかないかって結構大きいと思う。まあ将来の話だし、俺は領主としての仕事と絵の両立を頑張らないとと思う。
「今日もいい天気だな」
 俺は大きく伸びをした。
 
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