39 / 41
マキシミリアン視点 ためらいがちに伸ばされる手
しおりを挟む
そして、僕は卒業の前にディアナの両親に結婚を打診することになった。
シュナウザー侯爵は僕の目をまっすぐに見ていった。
「君は両親をどう思っているのだね」
「母のことは痛ましいと思っていました、父はもうとても遠い人です」
侯爵は難しい顔をしていた。
「君の父親の後ろ暗い商売には陰でそう言う噂自体はあった。しかしあまり感心しない連中の中での噂だ。そのような噂を信じるなんてまともな貴族のすることではないというのが我々の言い分だ」
「そうですか」
「だが、君の父親は全く評価するところはないが、君の親族は全く持って立派な貴族ではないか」
侯爵はそう言ってにっこりと笑う。
「誇りを捨ててはいけない、悪は悪と判断し、それが家名に傷をつけると分かっていてもそれを自らの手で裁く、実に見事な自浄を行うそのような立派な親族がいるのは君は誇るべきことだ」
そして侯爵は僕の手を取った。
「あれだけのことをした父親の息子は次代の侯爵にできない。それはそうだろう、だが君のことは罪はないと思っているようだ、あちらの親戚も君のことをよろしくと言ってきたよ」
僕はすべてを失ったわけではないのか。
「そういえば、弟はどうなるのでしょうか」
あの弟は全く変わらずに暮らしている。なんでもあくどいことをして資産を蓄えている男爵家の令息と何やら後ろ暗い金のやり取りをしているという情報も入ってきていた。
弟が両輪の悪徳の影響下にあるのは間違いないのだ。
「辺境に領地を与えて、そこで生涯を過ごさせるそうだ。そうすれば監視もしやすいし、あくどい連中も近寄りづらいだろうという向こうの判断だ」
だとすれば、弟は学園を卒業したら二度と会うことは無いのだ。
邪悪の代償と思えば仕方ないのかもしれないが。
弟はそのような将来が待っていると分かっていないのだろうか。辺境で幽閉同然の身になると聞けばもっと取り乱すのではないだろうか。
「お父様、わかってくださってうれしいわ」
ディアナは涙を流しながら祈るように指先を胸元で組んだ。
「そうだな」
侯爵はディアナから視線を逸らす。
「あの子はちょっと頼りない子だ、君のようなしっかりした男性に支えてもらいたい。それに君は悪徳の中にあってもそれに染まらなかった。そこに可能性を見出したい」
侯爵の真摯な言葉に僕は頷いた。
そして、ディアナの妹たちが部屋に入ってきた。
ディアナそっくりだが、セレスはよく見るとディアナより少しだけ身長が高く、目鼻立ちもほんの少しだけだが大ぶりだ。
そして、小さなルナ。
「セレス、お前は次代グレイハウンド侯爵チャールズフォックステリア卿に嫁ぐことになる。フォックステリア家は悪とみなせば当主にも裁きをと求める貴族の中の貴族だ、そのような素晴らしい方をお前の婿にできること誠に光栄と思う」
セレスの顔に一切の表情はなかった。だがルナは満面の笑みを浮かべていた。
「よかったわね、お姉様、これで全部決まったのね」
「ルナ、祝福してくれるの」
「もちろんよ、セレスお姉様、本当におめでとう」
ルナはそっとセレスの手を取った。
「私とっても嬉しいわ」
だけどどうしてだろう、ルナの手には小さなみみずばれがあった。どうしてそんなところにけがをしたのか。
シュナウザー侯爵は僕の目をまっすぐに見ていった。
「君は両親をどう思っているのだね」
「母のことは痛ましいと思っていました、父はもうとても遠い人です」
侯爵は難しい顔をしていた。
「君の父親の後ろ暗い商売には陰でそう言う噂自体はあった。しかしあまり感心しない連中の中での噂だ。そのような噂を信じるなんてまともな貴族のすることではないというのが我々の言い分だ」
「そうですか」
「だが、君の父親は全く評価するところはないが、君の親族は全く持って立派な貴族ではないか」
侯爵はそう言ってにっこりと笑う。
「誇りを捨ててはいけない、悪は悪と判断し、それが家名に傷をつけると分かっていてもそれを自らの手で裁く、実に見事な自浄を行うそのような立派な親族がいるのは君は誇るべきことだ」
そして侯爵は僕の手を取った。
「あれだけのことをした父親の息子は次代の侯爵にできない。それはそうだろう、だが君のことは罪はないと思っているようだ、あちらの親戚も君のことをよろしくと言ってきたよ」
僕はすべてを失ったわけではないのか。
「そういえば、弟はどうなるのでしょうか」
あの弟は全く変わらずに暮らしている。なんでもあくどいことをして資産を蓄えている男爵家の令息と何やら後ろ暗い金のやり取りをしているという情報も入ってきていた。
弟が両輪の悪徳の影響下にあるのは間違いないのだ。
「辺境に領地を与えて、そこで生涯を過ごさせるそうだ。そうすれば監視もしやすいし、あくどい連中も近寄りづらいだろうという向こうの判断だ」
だとすれば、弟は学園を卒業したら二度と会うことは無いのだ。
邪悪の代償と思えば仕方ないのかもしれないが。
弟はそのような将来が待っていると分かっていないのだろうか。辺境で幽閉同然の身になると聞けばもっと取り乱すのではないだろうか。
「お父様、わかってくださってうれしいわ」
ディアナは涙を流しながら祈るように指先を胸元で組んだ。
「そうだな」
侯爵はディアナから視線を逸らす。
「あの子はちょっと頼りない子だ、君のようなしっかりした男性に支えてもらいたい。それに君は悪徳の中にあってもそれに染まらなかった。そこに可能性を見出したい」
侯爵の真摯な言葉に僕は頷いた。
そして、ディアナの妹たちが部屋に入ってきた。
ディアナそっくりだが、セレスはよく見るとディアナより少しだけ身長が高く、目鼻立ちもほんの少しだけだが大ぶりだ。
そして、小さなルナ。
「セレス、お前は次代グレイハウンド侯爵チャールズフォックステリア卿に嫁ぐことになる。フォックステリア家は悪とみなせば当主にも裁きをと求める貴族の中の貴族だ、そのような素晴らしい方をお前の婿にできること誠に光栄と思う」
セレスの顔に一切の表情はなかった。だがルナは満面の笑みを浮かべていた。
「よかったわね、お姉様、これで全部決まったのね」
「ルナ、祝福してくれるの」
「もちろんよ、セレスお姉様、本当におめでとう」
ルナはそっとセレスの手を取った。
「私とっても嬉しいわ」
だけどどうしてだろう、ルナの手には小さなみみずばれがあった。どうしてそんなところにけがをしたのか。
36
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる