205 / 212
第五章
マリアンヌの思うところ
しおりを挟む
「私の命、もってあと10年は無理ってエリク神官長に言われたんだ。だから領地に居たいと思ってる」
これはマドレーヌもクロードもフロランも知っていた。祖父も知った上でマリアンヌにある程度厳しくしている。健康なマドレーヌを見ていたら心の奥にあるマドレーヌへの嫉妬がいつ顔を出すかわからないし、孫娘二人をそういう感情で苛まさせたくはないと思っていたのだ。孫娘二人は『母親対策だろうなぁ』と思っている。
「ふーん、みんな聞いてたんだ?」
マドレーヌとクロードは正直に頷く。
「フロラン兄様も?」
クロードが正直にうなずいた。
「……フロラン兄様と仲良くするのはもう無理かな」
マリアンヌはさばさばと一人納得したように頷く。
「仕方ないから折々に手紙でも書いて渡す」
マリアンの手紙はマリアンヌの死後にフロランに渡された。そこにあった一文にフロランは怒りを再燃させる。『この手紙を受け取って会えなかったこと後悔してくれるといいな』という一文だった。フロランは『絶対!後悔なんかしねぇ』と言った。
「マリアンン……」
「マドレーヌにあれこれやらせてたのも、……その話を聞いた八つ当たりもあったと思う。エリク様に母親の事を相談したら正直に命の残りの話をされたの。その時に嫌な事は嫌っていうのはわがままじゃないよって」
マリアンヌはテーブルの上のマドレーヌの手を取った。
「それはマドレーヌにも言える事よ。いつもさらっと流しちゃうのはもうやめて、ちゃんと考えて……好きなことたくさんやってね。秋とか春の気候のいいときには森を一緒に歩きましょ。まだ普通の体調を保ってられるうちは森に季節の果物を摘みに行きたいしね」
マリアンヌは話を聞いてから考えに考えて自分の命の残りを受け入れたのだ。その中で母親を思いやり、過ごしていた。
ロクサーヌの学年の卒業式の日となった。前日からジョアンとメイド長は神殿に連れられて行った。マリアンヌの帰郷はジョアンたちの様子を見てからということになったらしい。
今日はフロランはアルの側近として正装でアルに着き従っている。マドレーヌは制服の騎士服で同じ学年の女子たちの手で長い銀髪を高い位置でポニーテールにしている。これは卒業式の開始の合図で騎士科による行進の時に綺麗に見えるようにという女子の配慮であった。式典の間は騎士科の生徒は遅れてくる来賓の相手や連れてこられた子供の相手など細々とすることがあった。
「足りないものありますか?」
今回はレアとジュストという王族がいるので王族専用の控室があった。マドレーヌは指名されて御用聞きをしている。
「今のところ大丈夫」
レアが言い、マドレーヌは礼をして部屋を出た。ジュストが少しまぶしそうにマドレーヌを見ていた。マドレーヌが出て行ってからジュストが
「婚約早まったかも」
とおどける。レアがさらっと告げる。
「だめよ。アル兄さんが口説いてる人だから」
ジュストは心底驚いた顔でアルを見る。
「兄上。が……?」
「そう」
アルはきまり悪そうにしている。
「その話はおいておいてくれ……」
アルの弱弱しい様子を見てジュストがあからさまに話を変える。
「そういえばネイサンは落第だって?」
「単位とれてないらしいよ。今はアランと一緒にベルティエ公爵家で単位取れるように叩き込まれているそうよ」
「……アラン・アルノーといて大丈夫か、ネイサン」
「勉強の時しか接触なしらしいよ。……なんだかんだってネイサンの最初の友達だから公爵様が甘いと思ってる」
レアがジュストに正直な感想を告げる。
「あの方も甥の不憫さを嘆いてたから」
ジュストが母親から聞いた話を思い出してレアに言った。
「そういえばミシェル妃はいらっしゃるの?」
「来るって。アルノー夫人から贈られたショールを見せびらかす機会だからって」
「ああ、お店出す前にミシェル妃個人のために作ったやつね」
「そう。ドレス自体は以前のものなんだけど、それのリメイクをお願いしたらショールがついいてきたってわけ」
外からノックが聞こえる。
「お時間です。会場に向かってください」
これから学内のホールで陛下からの挨拶がある。それが終わればレアとアル、ジュストと婚約者の二組でのファーストダンスでアルはその時に自分が紹介されることは完全に頭になく、ただひたすらにファーストダンスに向けて緊張していた。
これはマドレーヌもクロードもフロランも知っていた。祖父も知った上でマリアンヌにある程度厳しくしている。健康なマドレーヌを見ていたら心の奥にあるマドレーヌへの嫉妬がいつ顔を出すかわからないし、孫娘二人をそういう感情で苛まさせたくはないと思っていたのだ。孫娘二人は『母親対策だろうなぁ』と思っている。
「ふーん、みんな聞いてたんだ?」
マドレーヌとクロードは正直に頷く。
「フロラン兄様も?」
クロードが正直にうなずいた。
「……フロラン兄様と仲良くするのはもう無理かな」
マリアンヌはさばさばと一人納得したように頷く。
「仕方ないから折々に手紙でも書いて渡す」
マリアンの手紙はマリアンヌの死後にフロランに渡された。そこにあった一文にフロランは怒りを再燃させる。『この手紙を受け取って会えなかったこと後悔してくれるといいな』という一文だった。フロランは『絶対!後悔なんかしねぇ』と言った。
「マリアンン……」
「マドレーヌにあれこれやらせてたのも、……その話を聞いた八つ当たりもあったと思う。エリク様に母親の事を相談したら正直に命の残りの話をされたの。その時に嫌な事は嫌っていうのはわがままじゃないよって」
マリアンヌはテーブルの上のマドレーヌの手を取った。
「それはマドレーヌにも言える事よ。いつもさらっと流しちゃうのはもうやめて、ちゃんと考えて……好きなことたくさんやってね。秋とか春の気候のいいときには森を一緒に歩きましょ。まだ普通の体調を保ってられるうちは森に季節の果物を摘みに行きたいしね」
マリアンヌは話を聞いてから考えに考えて自分の命の残りを受け入れたのだ。その中で母親を思いやり、過ごしていた。
ロクサーヌの学年の卒業式の日となった。前日からジョアンとメイド長は神殿に連れられて行った。マリアンヌの帰郷はジョアンたちの様子を見てからということになったらしい。
今日はフロランはアルの側近として正装でアルに着き従っている。マドレーヌは制服の騎士服で同じ学年の女子たちの手で長い銀髪を高い位置でポニーテールにしている。これは卒業式の開始の合図で騎士科による行進の時に綺麗に見えるようにという女子の配慮であった。式典の間は騎士科の生徒は遅れてくる来賓の相手や連れてこられた子供の相手など細々とすることがあった。
「足りないものありますか?」
今回はレアとジュストという王族がいるので王族専用の控室があった。マドレーヌは指名されて御用聞きをしている。
「今のところ大丈夫」
レアが言い、マドレーヌは礼をして部屋を出た。ジュストが少しまぶしそうにマドレーヌを見ていた。マドレーヌが出て行ってからジュストが
「婚約早まったかも」
とおどける。レアがさらっと告げる。
「だめよ。アル兄さんが口説いてる人だから」
ジュストは心底驚いた顔でアルを見る。
「兄上。が……?」
「そう」
アルはきまり悪そうにしている。
「その話はおいておいてくれ……」
アルの弱弱しい様子を見てジュストがあからさまに話を変える。
「そういえばネイサンは落第だって?」
「単位とれてないらしいよ。今はアランと一緒にベルティエ公爵家で単位取れるように叩き込まれているそうよ」
「……アラン・アルノーといて大丈夫か、ネイサン」
「勉強の時しか接触なしらしいよ。……なんだかんだってネイサンの最初の友達だから公爵様が甘いと思ってる」
レアがジュストに正直な感想を告げる。
「あの方も甥の不憫さを嘆いてたから」
ジュストが母親から聞いた話を思い出してレアに言った。
「そういえばミシェル妃はいらっしゃるの?」
「来るって。アルノー夫人から贈られたショールを見せびらかす機会だからって」
「ああ、お店出す前にミシェル妃個人のために作ったやつね」
「そう。ドレス自体は以前のものなんだけど、それのリメイクをお願いしたらショールがついいてきたってわけ」
外からノックが聞こえる。
「お時間です。会場に向かってください」
これから学内のホールで陛下からの挨拶がある。それが終わればレアとアル、ジュストと婚約者の二組でのファーストダンスでアルはその時に自分が紹介されることは完全に頭になく、ただひたすらにファーストダンスに向けて緊張していた。
7
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。
音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日……
*体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる