悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

文字の大きさ
上 下
191 / 212
第五章

公爵邸での日々 4

しおりを挟む
 「マドレーヌちゃんは花には興味はない?」

アルノー夫人は刺繍の見本帳を見繕いながらマドレーヌに尋ねる。

「嫌いじゃないんですけど。森の花とか見るのすきですし」

「そう……、んー、果物とか好き?」

「好きです!」

マドレーヌが元気に答えるのでエマとアルノー夫人は微笑んだ。

「なら、リンゴから始めましょう。ネイサン殿下は決まりましたか?」

ネイサンはうなずく。

「兄上用の普段使いのタイには獅子を。ほかの兄弟にもハンカチを、と思って」

ロクサーヌは自分の『聖属性の力』をこめて皆の使う布のふちをかがっていた。

「ロクサーヌちゃんは焦らないでゆっくりとね。四隅にかかったら言ってね。見ててあげるから」

ロクサーヌは真面目な顔でうなずく。かなり真剣だ。エマとアルノー夫人は少年少女たちよりまったりと過ごしている。アルノー夫人は長いリボンにいくつも小さな刺繍を施している。その刺繍をポイントにする髪飾りを作るのだ。近い将来開く店のための準備だ。ほかにも何色かのブラウスに同じ色で刺繍を施したものや、ハンカチなどの小物を作っている。

「これで売れなかったら悲惨ね」

などと笑っているが、ブラウスなどそういう興味がないマドレーヌが見ても見事なものであった。エマはパーティ用のドレスの刺繍を頼んだという。

「私は結婚式用のドレス頼みたかったけど、ベルティエ代々のやつあるからそれを着ることになっててちょっとつまんない」

ロクサーヌは言う、そのドレスは正妃も着たもので正妃の息子のネイサンを『娶る』ロクサーヌとしては仕方がないことであった。

「おじいさまが元気なうちに、って卒業後早かったら3カ月で式なの」

ネイサンもロクサーヌもにっこり笑う。エマはこの二人は夫婦みたいだなと思った。

「そこにお母様のスケジュールがいろいろあるから……パズルみたいになってるわ」

ロクサーヌは力なく笑う。

「ベルティエの奥方はソフィア妃の参謀だからねぇ」

エマがおっとりとそういう。

「ロクサーヌちゃんはそれのあとは継がないの?」

「私は無理ですね。職に就くなら、レア様の護衛騎士が一番現実的です。そのために騎士科での成績も上げてますから」

ロクサーヌは手を止める。

「うちの領地経営、どうしようかとおもって。父上が引退してから、あの人と同じように経営できるか自信ないし」

「親戚でお任せできる人いらっしゃらないの?」

「エリク様の甥っ子たちはほとんど聖騎士目指してるし」

アルノー夫人が口を挟む。

「エリク様の末の妹様が領地経営課を優秀な成績で卒業されたはずですよ」

「そうか。あの方がいらっしゃったか!」

ロクサーヌはわが意を得たり、という風情でうなずいてる。

「ロクサーヌちゃん、まずはお父様と話し合ってね?それで納得いかなかったら相談しに
いらっしゃい」

ロクサーヌはうなずく。皆が話している間、マドレーヌは口をへの字にまげて真剣に刺繍をしていたようだが、あまりに形がいびつで本人も嫌陰あったようであった。

「マドレーヌちゃん、落ち着いて。いったん布と針を手から離して。目を瞑って深呼吸よ」

アルノー夫人は慌ててマドレーヌに指示を出した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...