悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第五章

グランジエ領の日々 1

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 エリクの指がマリアンヌの額から外れた。

「これで封印できた」

封印は完全で、家の空気は正常になっている。なのにマドレーヌの祖母と母親ジョアンの空気は変わらない。ショコラをはちみつで漬けたように甘い。もう一人娘がいるようにも見えない。一人だけいる子供をかわいがっているようだった。エリクは10日ほど滞在し、その中でこの家族を外から見ていた。エリクは守護者の樹の下でマドレーヌの祖父と静かに話す。

「失礼ですが……、奥様とジョアンさんのあの感じは?」

「ずっとだよ。……マドレーヌを妊娠中からあんな空気だ。一時は堕胎の相談をウジェにしとったようだ。あの頃はウジェもちょっと病んでたな。生まれてすぐにマドレーヌだけは母親の乳で育てんかった。冒険者から乳母を雇ってたな」

エリクはリンゴ酒を一口飲む。アルコール度数が低いこの酒をエリクは好んでいる。

「マドレーヌ嬢が4つまでそんな空気でしたか……」

5歳で神殿の属性判定に行くのがこの国の習わしで、マリアンヌはそこで魅了の力があると判定された。
 ウージェーヌ父親とマドレーヌの祖父は薄々それを予感はしていた。その時いた領地の神殿の長がマリアンヌの未了の力を封印したのだが、アレンが通い始めた時期にその元神殿の長は死亡しマリアンヌの封印は解けたのだ。今回は人による封印ではなく守護者様の力を借りた封印である。国中の守護者様の樹を枯らさなければ封印は解けないはずである。

「ずっとだよ。ただしゃべるようになってからマリアンヌがマドレーヌをかわいがったからか、ジョアンたちもそなりにかわいがるようにはなった。メイド長の『意地悪』も減ったな。マドレーヌにマリアンヌがご飯を食べさせたりするようになったから、マドレーヌに変な食べ物を与えることはなくなった」

マドレーヌの祖父は遠い目をする。

「ジョアンと妻はマリアンヌが新生児の時からマリアンヌの魅了の力を浴びてたからな」

「ジョアンさんは体の内側から浴びてたから」

エリクの言葉にマドレーヌの祖父は同意する。

「そうだな」

エリクがぼそっとつぶやく。

「魅了の解呪がここまで難しいとは思いませんでしたよ。フロランは精霊がずっと守ってたし、基本グランジエの血は魅了にかかりにくい。あなたもウジェもほぼ影響がない。クロードは話してみたら魅了されているわけじゃなくて、言い方は今一つよくないですが弱いものに対する庇護というところですね」

「妻もジョアンも外から嫁してきたからな」

エリクは目をつぶる。この場所に置かれた椅子は座っていると心地がいい。

「今度、ここに小屋というか屋根を作ろとか」

「東屋というか小屋の一角を開放して泊まるのを小屋で、小屋から続いて屋根を長くして雨でも外というか守護者様の樹に近く居られるような感じのものだな。……アル殿下とフロランが基本ここで過ごす。その近くに殿下のおつきが泊まる小屋も用意する。……殿下がいらっしゃらない時はウジェかわしが管理だな」

「そこに公爵領からの転移場所を設置、と」

エリクの言葉にマドレーヌの祖父はうなずく。

「家に設置して万が一勝手に稼働したら、な」

「無属性の魔力は研究が進んでませんからね」

エリクの言葉にマドレーヌの祖父は苦笑する。今のところグランジエの血族の中から研究者が出たことはない。マドレーヌの祖父は先日グランサニュー公爵に持って行った地酒を飲んでいる。

「飲んでみるか?この酒はグランジエの地元産だぞ」

「では一口。あんまり強い酒はのめないもので」

「ワインより少し強いくらいかな」

エリクは神殿に入ってから酒で意識を手放さないように軽いリンゴ酒しか飲まなくなっている。ほんの少しの地酒をのどで香りを楽しむようにしてエリクは飲む。

「少し精霊の気配がしますね」

「魔の森の近くの畑で少しだけ作っているブドウで作ったものだ」

エリクはいつもは白いほほをほんのり色づかせて目を瞑る。

「今の私には少し強かったようです」

「半刻でもねるがいいよ」

「ええ……ここは守護者様の結界が貼ってあるので安心できます」

そういいながらエリクは他愛なく眠りに落ちた。




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