117 / 212
第三章
夜明けを待つ時間
しおりを挟む
聖水漬けになっている包みの中をアランが見ればバスチエ男爵夫人の元夫だと証言しただろう。腹から飛び出た夢魔はバスチエの元夫の顔をしていたが、この部屋の人間は誰もその顔を知らなかった。
「こいつどうするかな」
エリクが呟く。
マリアンヌは意識は戻らない。ルカのヒールで一応の血は止まっている。
「母さんはなんで夢魔落としの事知ってたんだ?」
ウージェーヌに訊かれマドレーヌたちの祖母は溜息をついた。
「私の実家の領地で夢魔が憑いた人が出てね。……それはそれはひどかったの、みさかいなく男性を求めて。未婚のお嬢さんで、その家の父親が屋根裏へ閉じ込めて女性だけに世話をさせていたけど……。そんな時、流れ者が来てね。夢魔落としを目の前でやってくれて。母のお腹を食い破った夢魔を捕まえると高笑いして……霧になって消えたらしいの」
かわるがわるマドレーヌにヒールをかける。夜明けが近い。
「朝一番の光と共に行動するよ。マドレーヌ嬢とロクサーヌ嬢を起こす。僕がロクサーヌ嬢から魔力を貰って、ネイサン殿下の中の活性化してる悪いものを落ち着かせる。殿下、動かないで下さいね」
アルは弟がなにかいらいらしているようなのには気が付いていた。アルがそっと弟の手を握ると一瞬苦痛を感じたようだった。
「ふむ、アル殿下もネイサン殿下のそれを少し祓えるようですね。ネイサン殿下、どこが楽になりましたか?」
「胸が……、あと少しいら立っていたのがましに」
「子供みたいであれですが、アル殿下とネイサン殿下は手を繋いでいてください。アル殿下は……ちょっと耐えてくださいね」
ロゼがふっとアルを見る。顔の周りに黒い靄がみえる。またいら立っているんだなと思うが口を出さない。あの破格な神官と聖なる力を使う狼人は見えているだろうから。
使用人たちは皆必死にマドレーヌを看病している。マドレーヌの母親ジョアンはずっとマドレーヌの左手を握り魔力を送っている。右側のウージェーヌはそれを受け取り自分の魔力を乗せてマドレーヌに戻す。ピクリとマドレーヌが動き、ぶわっとよろしくない匂いを噴き出した。ルカが冷静に聖水でマドレーヌを濡らす。
「ウジェ、ジョアン夫人、そろそろクロードとフロランに代わって」
何も言わず兄弟は両親と代わる。
「いいかい、マドレーヌにまとわりつく瘴気はさっきのルカの聖水でほぼなくなった。もし精霊様に協力いただけるなら癒しの粒をフロランの魔力に乗せて欲しい」
エリクの言葉を精霊は了承したらしくフロランが同意を告げる。
「フロラン、……お前心配してるか?」
クロードが低い声で呟く。
「心配半分、……森で盛るなよ、っていうこの馬鹿どもに対する怒り半分」
フロランはあの森がいつでもうっすら魔の森の中心の黒い霧が覆っているのが見えていた。そしていつでもあそこで長時間過ごすなとマリアンヌに怒っていた。
無防備で盛ってこの結果だろ、とフロランは情けない顔になる。
「複数回の睦合いで無防備な所をあの黒い霧に乗った淫魔に入り込まれたんだろうって精霊様が」
ウージェーヌが眉間に皺を刻む。
「もしかしてあの森の中心にでも敵が潜んでいる?」
「大当たりかも」
エリクが難しい顔になった。
「聖騎士と、神官と魔法師団の手配だな……」
「王都も同時になにか起こってるかもね」
ジェラールの言葉にエリクが不吉な言葉を返した。
「こいつどうするかな」
エリクが呟く。
マリアンヌは意識は戻らない。ルカのヒールで一応の血は止まっている。
「母さんはなんで夢魔落としの事知ってたんだ?」
ウージェーヌに訊かれマドレーヌたちの祖母は溜息をついた。
「私の実家の領地で夢魔が憑いた人が出てね。……それはそれはひどかったの、みさかいなく男性を求めて。未婚のお嬢さんで、その家の父親が屋根裏へ閉じ込めて女性だけに世話をさせていたけど……。そんな時、流れ者が来てね。夢魔落としを目の前でやってくれて。母のお腹を食い破った夢魔を捕まえると高笑いして……霧になって消えたらしいの」
かわるがわるマドレーヌにヒールをかける。夜明けが近い。
「朝一番の光と共に行動するよ。マドレーヌ嬢とロクサーヌ嬢を起こす。僕がロクサーヌ嬢から魔力を貰って、ネイサン殿下の中の活性化してる悪いものを落ち着かせる。殿下、動かないで下さいね」
アルは弟がなにかいらいらしているようなのには気が付いていた。アルがそっと弟の手を握ると一瞬苦痛を感じたようだった。
「ふむ、アル殿下もネイサン殿下のそれを少し祓えるようですね。ネイサン殿下、どこが楽になりましたか?」
「胸が……、あと少しいら立っていたのがましに」
「子供みたいであれですが、アル殿下とネイサン殿下は手を繋いでいてください。アル殿下は……ちょっと耐えてくださいね」
ロゼがふっとアルを見る。顔の周りに黒い靄がみえる。またいら立っているんだなと思うが口を出さない。あの破格な神官と聖なる力を使う狼人は見えているだろうから。
使用人たちは皆必死にマドレーヌを看病している。マドレーヌの母親ジョアンはずっとマドレーヌの左手を握り魔力を送っている。右側のウージェーヌはそれを受け取り自分の魔力を乗せてマドレーヌに戻す。ピクリとマドレーヌが動き、ぶわっとよろしくない匂いを噴き出した。ルカが冷静に聖水でマドレーヌを濡らす。
「ウジェ、ジョアン夫人、そろそろクロードとフロランに代わって」
何も言わず兄弟は両親と代わる。
「いいかい、マドレーヌにまとわりつく瘴気はさっきのルカの聖水でほぼなくなった。もし精霊様に協力いただけるなら癒しの粒をフロランの魔力に乗せて欲しい」
エリクの言葉を精霊は了承したらしくフロランが同意を告げる。
「フロラン、……お前心配してるか?」
クロードが低い声で呟く。
「心配半分、……森で盛るなよ、っていうこの馬鹿どもに対する怒り半分」
フロランはあの森がいつでもうっすら魔の森の中心の黒い霧が覆っているのが見えていた。そしていつでもあそこで長時間過ごすなとマリアンヌに怒っていた。
無防備で盛ってこの結果だろ、とフロランは情けない顔になる。
「複数回の睦合いで無防備な所をあの黒い霧に乗った淫魔に入り込まれたんだろうって精霊様が」
ウージェーヌが眉間に皺を刻む。
「もしかしてあの森の中心にでも敵が潜んでいる?」
「大当たりかも」
エリクが難しい顔になった。
「聖騎士と、神官と魔法師団の手配だな……」
「王都も同時になにか起こってるかもね」
ジェラールの言葉にエリクが不吉な言葉を返した。
7
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。
音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日……
*体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。


【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる