悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第三章

夜明けを待つ時間

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 聖水漬けになっている包みの中をアランが見ればバスチエ男爵夫人の元夫だと証言しただろう。腹から飛び出た夢魔はバスチエの元夫の顔をしていたが、この部屋の人間は誰もその顔を知らなかった。

「こいつどうするかな」

エリクが呟く。

 マリアンヌは意識は戻らない。ルカのヒールで一応の血は止まっている。

「母さんはなんで夢魔落としの事知ってたんだ?」

ウージェーヌに訊かれマドレーヌたちの祖母は溜息をついた。

「私の実家の領地で夢魔が憑いた人が出てね。……それはそれはひどかったの、みさかいなく男性を求めて。未婚のお嬢さんで、その家の父親が屋根裏へ閉じ込めて女性だけに世話をさせていたけど……。そんな時、流れ者が来てね。夢魔落としを目の前でやってくれて。母のお腹を食い破った夢魔を捕まえると高笑いして……霧になって消えたらしいの」

かわるがわるマドレーヌにヒールをかける。夜明けが近い。

「朝一番の光と共に行動するよ。マドレーヌ嬢とロクサーヌ嬢を起こす。僕がロクサーヌ嬢から魔力を貰って、ネイサン殿下の中の活性化してる悪いものを落ち着かせる。殿下、動かないで下さいね」

 アルは弟がなにかいらいらしているようなのには気が付いていた。アルがそっと弟の手を握ると一瞬苦痛を感じたようだった。

「ふむ、アル殿下もネイサン殿下のそれを少し祓えるようですね。ネイサン殿下、どこが楽になりましたか?」

「胸が……、あと少しいら立っていたのがましに」

「子供みたいであれですが、アル殿下とネイサン殿下は手を繋いでいてください。アル殿下は……ちょっと耐えてくださいね」

ロゼがふっとアルを見る。顔の周りに黒い靄がみえる。またいら立っているんだなと思うが口を出さない。あの破格な神官と聖なる力を使う狼人は見えているだろうから。
 使用人たちは皆必死にマドレーヌを看病している。マドレーヌの母親ジョアンはずっとマドレーヌの左手を握り魔力を送っている。右側のウージェーヌはそれを受け取り自分の魔力を乗せてマドレーヌに戻す。ピクリとマドレーヌが動き、ぶわっとよろしくない匂いを噴き出した。ルカが冷静に聖水でマドレーヌを濡らす。

「ウジェ、ジョアン夫人、そろそろクロードとフロランに代わって」

何も言わず兄弟は両親と代わる。

「いいかい、マドレーヌにまとわりつく瘴気はさっきのルカの聖水でほぼなくなった。もし精霊様に協力いただけるなら癒しの粒をフロランの魔力に乗せて欲しい」

エリクの言葉を精霊は了承したらしくフロランが同意を告げる。

「フロラン、……お前心配してるか?」

クロードが低い声で呟く。

「心配半分、……森で盛るなよ、っていうこの馬鹿に対する怒り半分」

フロランはあの森がいつでもうっすら魔の森の中心の黒い霧が覆っているのが見えていた。そしていつでもあそこで長時間過ごすなとマリアンヌに怒っていた。
 無防備で盛ってこの結果だろ、とフロランは情けない顔になる。

「複数回の睦合いで無防備な所をあの黒い霧に乗った淫魔に入り込まれたんだろうって精霊様が」

ウージェーヌが眉間に皺を刻む。

「もしかしてあの森の中心にでも敵が潜んでいる?」

「大当たりかも」

エリクが難しい顔になった。

「聖騎士と、神官と魔法師団の手配だな……」

「王都も同時になにか起こってるかもね」

ジェラールの言葉にエリクが不吉な言葉を返した。
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