悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第三章

聖なる眠り、夢魔の悪夢

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 「実際の所は……夢魔か夢魔まで堕ちた神か。悪いが予後はよくないぞ。男を咥えこんでも満足できなくて色んな男を渡り歩いた挙句という道筋か男と全く接さない修道院か。……それとも正妃達と一緒にアレンと二人離宮にほりこんであとは……、か。マリアンヌに普通の幸せが待ってると思ってはいけない」

エリクがきっぱりグランジエ家の人々に言い渡す。マリアンヌの母親、ジョアンは項垂れている。身持ちも堅く躾けたと思っていた娘が家にいるまま妊娠してしまったことに衝撃を受けていた。エリクは夢魔落としのたった一つの方法を使えたが残酷すぎてここでの使用は控えたかった。やるならこの朝を越えてウージェーヌと相談だと思っていた。

「アルノーの家は断絶、か」

ジェラールが厳しい表情だ。

「いや、取り潰すと父から伝言が来ました」

アルが発言した。

「そんな、アレンは家を継ぐって」

マリアンヌが悲鳴じみた声を上げている。そのまま真夜中までずっとうっすらと呪詛を吐き続けたが聖なる結界の中に触れては呪詛が雲散霧消していく。
 皆が多少うとうとしかけた時にかしゃん、とかすかにガラスが割れるような音がした。

「来たか」

「よし、最初の結界を閉じた」

ルカが言い、エリクが眉間に皺を寄せている。がその皺がゆるんだ。

「今はトリモチの結界にひっかかったな。……一番玄関に近いところだ」

その間もじたばたとマリアンヌが暴れているので娘とロゼが辛そうだとジェラールはマリアンヌの肩を抑える。背中側のジェラールにはみえなかったが反対側にいる使用人達の中からひっという声が上がる。マリアンヌがにたり、と笑った様がどう見ても妖魔にみえたからだ。ルカは慌てて手を聖水で湿らせて肩を抑える役を変わろうとしたらマドレーヌたちの祖母がつつっと寄ってきた。

「失礼」

マリアンヌの前で首の付け根辺りを抑える。

「聖なる眠りを」

「今の状態でそれをかけると……」

夢魔落としの方法だった。エリクが一瞬躊躇する。

「いいのよ。この娘の為なの」

マリアンヌが怯える。そう、聖なる眠りは夢魔、淫魔に侵された人間にかけると苦しんで解脱するか死ぬかのかけであった。

「あなたならかけられるわよね」

祖母が離れたらマリアンヌの意識は飛んでいた。

「今の内ならかけても大丈夫。眠りに落ちる意識もない」

祖母がぼそりと呟いた。ウージェーヌも頷いた。

「仕方ないだろう。腹にいるのが夢魔、淫魔の類ならましだが」

エリクはごくり、と頷いた。ルカはじっとそれを見ている。『聖なる眠り』は夢魔の悪夢と呼ばれる術だった。ただし術をかけられる相手に多大は負担がかかる上に女性の場合は二度と妊娠も出来なくなる。夢魔が子宮を食い破って出てくるのだ。男性の場合は精を撒き散らしてその体力が追いつかず亡くなる事が多い。女性の場合は夢魔や淫魔がそこから逃れる為に腹を食い破って出てくる時の出血と痛みで命を落とす事が多い。

「……男性とそういう事をした事のない女性は離れて。夢魔淫魔の類は未経験女性の腹を狙うからね。椅子と、ブランケットを貸して。ルカ、マリアンヌ嬢を隠すようにして。お嬢さんたちはこちらへ」

エリクは皆が座ってられるようにとブランケットを何枚か広げその四隅に手早く何かを聖水で描く。そうしてマドレーヌとロクサーヌに普通の眠りの術をかける。

「さて、とこの子達を結界に持たせかけてやって欲しい」

と使用人の少女に頼むと少女たちが首を横に振る。

「お嬢様達はちゃんと寝てもらいます。私たちが大人しく座ってればいいので」

ルカは水の入った瓶を何本か渡す。そしてエリクは結界を高くして外の様子が判らないようにした。

「気持ちいいものではないからね」

エリクは厳しい顔で呟きルカは頷いた。


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