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第二章
小さな守護者
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「どこかで魔力を補充しないとね」
「わかりました。ちょっと食材を貰ってきます」
お付きのメイドのアリーがそう言ってグランジエの館に走っていった。すぐに走って帰ってきてジョアンが来るという。
「エマ様、いいところに行きましょう」
ジョアンが樹に訊ねる。
「エマ様を連れて行っても?」
さわさわと葉っぱが揺れる。ジョアンもエマもそれを肯定と受け取った。否定の時はざわざわと五月蠅い感じに歯が揺れる事まで二人は覚えた。
「まぁ、これはすごいわ」
馬車に揺られて来たのは公衆の浴場で領民用の奥にグランジエ家用の建屋があった。
「今日は濃度も濃い目にしてもらってます」
その浴場は魔力の素が恐ろしく濃く漂っていた。
「魔力枯渇にも効果あるんです」
ジョアンとエマは香りのよい木で作られた浴室でゆっくり手足を伸ばす。
「ここ、美肌にも効果ありますの」
ジョアンが湯を両手で掬いあげながらいう。二人で雑談をしながら、二日に一度はこの湯へ通うという事になった。
「食事もこちらで用意しましょう」
「いえ、その……あの場所での野営で作るという事も銀の葉の樹のエネルギーになってるんです。人の営み、というのですか?」
「そうなんですか。……あの場所でピクニックとかしても?」
「いいですね。後は出来たらこの地で採れた食材が欲しいですわ。ここの土に銀の葉の樹が馴染む為に」
「わかりましたわ。明日の昼は楽しみにしてくださいね、エマ様」
翌日、この地で取れた鹿を捌いたものをメインにこの地の野菜やフロランが森で採った野草や茸を串に刺したものをジョアンたちはたっぷり用意した。
この術式中はたっぷり食べるとエマから聞いていたし、持て余してもクロードもフロランもいるので大丈夫とジョアンは言う。
「あら、凄い御馳走」
エマが喜ぶ。厚手のフライパンがいくつか用意されているし鉄鍋の中にはシチューの材料が入れられている。鉄鍋はすぐに蓋をされ、石で組んだかまどの上に乗せられる。蓋の上にも火が付いた薪が乗せられている。
シチューがぐつぐつ煮え、肉串も焼け始めたころ、マリアンヌがデザートの焼きリンゴを仕込んだ鉄鍋を持ってやってきた。マリアンヌはぺこりと挨拶をすると走ってすぐに屋敷に戻っていった。
「マリアンヌ嬢は……」
「あいつ人見知りするんですよ。マダムが気さくだって知らないと思う」
「そういえば夜会でお見かけしないわね」
「……前よりもましなんですけどね、あれでも。一番ひどい時期はマドレーヌがいないと外にも出られなくて。マドレーヌが騎士を目指したのはそういうのもあるかも」
フロランの視線が銀の樹を動いている。見ると小さな小さな守護者がそこにいた。掌程の大きさも無いような状態だった。ふいっとエマが気が付いたのに守護者は気が付きエマの膝の上にきた。エマが訊ねる。
「鹿?」
守護者は頷き、エマは小さく切ったパンに鹿を挟んだものを皿の上に置く。皆は気にしないがフロランだけは守護者の動きをじっと見ていた。
「マダム……それ、精霊?」
「やっぱり見えてるのね?」
フロランは頷く。周りは賑やかなのでフロランがマダムに話しかけているだけに見えている。
「この方をお呼びしたくてこの儀式をしていたの」
フロランはキラキラした目で守護者を見ている。
「わかりました。ちょっと食材を貰ってきます」
お付きのメイドのアリーがそう言ってグランジエの館に走っていった。すぐに走って帰ってきてジョアンが来るという。
「エマ様、いいところに行きましょう」
ジョアンが樹に訊ねる。
「エマ様を連れて行っても?」
さわさわと葉っぱが揺れる。ジョアンもエマもそれを肯定と受け取った。否定の時はざわざわと五月蠅い感じに歯が揺れる事まで二人は覚えた。
「まぁ、これはすごいわ」
馬車に揺られて来たのは公衆の浴場で領民用の奥にグランジエ家用の建屋があった。
「今日は濃度も濃い目にしてもらってます」
その浴場は魔力の素が恐ろしく濃く漂っていた。
「魔力枯渇にも効果あるんです」
ジョアンとエマは香りのよい木で作られた浴室でゆっくり手足を伸ばす。
「ここ、美肌にも効果ありますの」
ジョアンが湯を両手で掬いあげながらいう。二人で雑談をしながら、二日に一度はこの湯へ通うという事になった。
「食事もこちらで用意しましょう」
「いえ、その……あの場所での野営で作るという事も銀の葉の樹のエネルギーになってるんです。人の営み、というのですか?」
「そうなんですか。……あの場所でピクニックとかしても?」
「いいですね。後は出来たらこの地で採れた食材が欲しいですわ。ここの土に銀の葉の樹が馴染む為に」
「わかりましたわ。明日の昼は楽しみにしてくださいね、エマ様」
翌日、この地で取れた鹿を捌いたものをメインにこの地の野菜やフロランが森で採った野草や茸を串に刺したものをジョアンたちはたっぷり用意した。
この術式中はたっぷり食べるとエマから聞いていたし、持て余してもクロードもフロランもいるので大丈夫とジョアンは言う。
「あら、凄い御馳走」
エマが喜ぶ。厚手のフライパンがいくつか用意されているし鉄鍋の中にはシチューの材料が入れられている。鉄鍋はすぐに蓋をされ、石で組んだかまどの上に乗せられる。蓋の上にも火が付いた薪が乗せられている。
シチューがぐつぐつ煮え、肉串も焼け始めたころ、マリアンヌがデザートの焼きリンゴを仕込んだ鉄鍋を持ってやってきた。マリアンヌはぺこりと挨拶をすると走ってすぐに屋敷に戻っていった。
「マリアンヌ嬢は……」
「あいつ人見知りするんですよ。マダムが気さくだって知らないと思う」
「そういえば夜会でお見かけしないわね」
「……前よりもましなんですけどね、あれでも。一番ひどい時期はマドレーヌがいないと外にも出られなくて。マドレーヌが騎士を目指したのはそういうのもあるかも」
フロランの視線が銀の樹を動いている。見ると小さな小さな守護者がそこにいた。掌程の大きさも無いような状態だった。ふいっとエマが気が付いたのに守護者は気が付きエマの膝の上にきた。エマが訊ねる。
「鹿?」
守護者は頷き、エマは小さく切ったパンに鹿を挟んだものを皿の上に置く。皆は気にしないがフロランだけは守護者の動きをじっと見ていた。
「マダム……それ、精霊?」
「やっぱり見えてるのね?」
フロランは頷く。周りは賑やかなのでフロランがマダムに話しかけているだけに見えている。
「この方をお呼びしたくてこの儀式をしていたの」
フロランはキラキラした目で守護者を見ている。
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