81 / 212
第二章
黒い靄
しおりを挟む
アルの訓練から湯あみという短い時間でベッドのシーツが真新しくなっていた。
「濡れてたから変えてもらったぞ」
部屋にいたエディが告げる。
「そろそろマドレーヌたちも戻って来るから先に食堂に言ってるぞ」
エディはアルに声をかけて食堂に向かった。
アルは煮凝ったような重い疲れを首筋に感じつつ、食堂へ行くと既にある以外のメンバーが席に座っている。アルがそんな事で気分を悪くしていたらエディから声がかかる。
「こっちだ、アル」
そんな声で少しだけ気分が軽くなる。
「エドも帰ってたんだ」
「本屋で捕まえて帰ってきたの」
マドレーヌが邪気なく笑う。アルはなにかもやっとしたものを感じている。モイラはそんなアルを気づかわし気に見ている。あとで判ったがこの時ロゼは『平穏な気持ちになる声』を出していたらしい。ロゼは声に魔力を込めて話す技量の持ち主だった。風の精霊と契約していて、遠くまで声を運べるようにもしているらしい。
「あの、アル様……ちょっと外まで来てもらえますか」
「何故?」
アルが気分を悪くする。
「アル、ちょっとモイラに付き合ってあげて。エディはロゼをもてなしといて。エドも一緒に」
ロゼは眉間に皺を寄せている。
「布、ある?」
モイラは頷いて立ち上がった。アルはマドレーヌに促されしぶしぶ立ち上がる。4人はそのままマドレーヌの部屋へ行った。
「ちょっとまって下さいね」
モイラが部屋に結界をはる。
「……あの黒いのが原因?」
「そう」
マドレーヌとモイラは頷きあう。エドはわけがわからない。アルにも見えていないようだ。
「妬み嫉み……否定的な感情の塊ね」
マドレーヌが呟くとモイラが驚いている。
「ちゃんとみえるんですね」
「うん。この程度読むのは学校でやった、でも私はその個人、大元を特定できる力はないのよ」
「そうですか」
モイラが無言でアルの首筋を何度も撫でる。アルは撫でられる都度何かが軽くなるのを感じた。そしてモイラの手が離れた。モイラの手にはもやもやとした黒いものが握られていた。
「もう大丈夫ですよ。アル様、首が軽くなってませんか?」
「かなり軽い……」
「そうでしょうね。気持ちも晴れてませんか?」
言われてみればなにか昼寝から起きてからまとわりついていた黒い嫌な気分が晴れている事にアルは気が付いた。
「これは、妬みや嫉み、他人を呪う感情の塊です」
モイラは握りしめた黒い靄を白い布に包みこみ閉じ込めた。
「え?なに、それ。どういうこと」
エドが置いて行かれている。モイラが説明する。
「これは一種の『呪い』が形になったものです。呪おうとして作られた呪いではないの。……そうね、誰かを羨ましいとか思うようなそんな小さな呪い、なんだけど偶然ターゲット、この場合はアルだね。アルがそこにいたからただ漂っていたこの誰かの心、呪いがアルにへばりついちゃった」
「へぇ……。誰でも持ってるそんな気持ちが形になるんだ」
エドは感心している。
「そうだね。普通の人はこんな風に出来ないよ。闇魔法のなかでも厄介な感情を操る魔法を使えないとこんな形にはできないかな」
モイラはそう言うと腰のあたりにあるポケットにその布を入れる。
「食事中だけど私ちょっと神殿に行かなきゃ。この布の中の物、神殿にさっさと預けてくる」
マドレーヌが言い出すより先にエドが言う。
「じゃ、俺が送っていくよ。マドレーヌとアルは食事に戻ってて」
「濡れてたから変えてもらったぞ」
部屋にいたエディが告げる。
「そろそろマドレーヌたちも戻って来るから先に食堂に言ってるぞ」
エディはアルに声をかけて食堂に向かった。
アルは煮凝ったような重い疲れを首筋に感じつつ、食堂へ行くと既にある以外のメンバーが席に座っている。アルがそんな事で気分を悪くしていたらエディから声がかかる。
「こっちだ、アル」
そんな声で少しだけ気分が軽くなる。
「エドも帰ってたんだ」
「本屋で捕まえて帰ってきたの」
マドレーヌが邪気なく笑う。アルはなにかもやっとしたものを感じている。モイラはそんなアルを気づかわし気に見ている。あとで判ったがこの時ロゼは『平穏な気持ちになる声』を出していたらしい。ロゼは声に魔力を込めて話す技量の持ち主だった。風の精霊と契約していて、遠くまで声を運べるようにもしているらしい。
「あの、アル様……ちょっと外まで来てもらえますか」
「何故?」
アルが気分を悪くする。
「アル、ちょっとモイラに付き合ってあげて。エディはロゼをもてなしといて。エドも一緒に」
ロゼは眉間に皺を寄せている。
「布、ある?」
モイラは頷いて立ち上がった。アルはマドレーヌに促されしぶしぶ立ち上がる。4人はそのままマドレーヌの部屋へ行った。
「ちょっとまって下さいね」
モイラが部屋に結界をはる。
「……あの黒いのが原因?」
「そう」
マドレーヌとモイラは頷きあう。エドはわけがわからない。アルにも見えていないようだ。
「妬み嫉み……否定的な感情の塊ね」
マドレーヌが呟くとモイラが驚いている。
「ちゃんとみえるんですね」
「うん。この程度読むのは学校でやった、でも私はその個人、大元を特定できる力はないのよ」
「そうですか」
モイラが無言でアルの首筋を何度も撫でる。アルは撫でられる都度何かが軽くなるのを感じた。そしてモイラの手が離れた。モイラの手にはもやもやとした黒いものが握られていた。
「もう大丈夫ですよ。アル様、首が軽くなってませんか?」
「かなり軽い……」
「そうでしょうね。気持ちも晴れてませんか?」
言われてみればなにか昼寝から起きてからまとわりついていた黒い嫌な気分が晴れている事にアルは気が付いた。
「これは、妬みや嫉み、他人を呪う感情の塊です」
モイラは握りしめた黒い靄を白い布に包みこみ閉じ込めた。
「え?なに、それ。どういうこと」
エドが置いて行かれている。モイラが説明する。
「これは一種の『呪い』が形になったものです。呪おうとして作られた呪いではないの。……そうね、誰かを羨ましいとか思うようなそんな小さな呪い、なんだけど偶然ターゲット、この場合はアルだね。アルがそこにいたからただ漂っていたこの誰かの心、呪いがアルにへばりついちゃった」
「へぇ……。誰でも持ってるそんな気持ちが形になるんだ」
エドは感心している。
「そうだね。普通の人はこんな風に出来ないよ。闇魔法のなかでも厄介な感情を操る魔法を使えないとこんな形にはできないかな」
モイラはそう言うと腰のあたりにあるポケットにその布を入れる。
「食事中だけど私ちょっと神殿に行かなきゃ。この布の中の物、神殿にさっさと預けてくる」
マドレーヌが言い出すより先にエドが言う。
「じゃ、俺が送っていくよ。マドレーヌとアルは食事に戻ってて」
7
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。
音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日……
*体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる