悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第二章

黒い靄

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 アルの訓練から湯あみという短い時間でベッドのシーツが真新しくなっていた。

「濡れてたから変えてもらったぞ」

部屋にいたエディが告げる。

「そろそろマドレーヌたちも戻って来るから先に食堂に言ってるぞ」

エディはアルに声をかけて食堂に向かった。
 アルは煮凝ったような重い疲れを首筋に感じつつ、食堂へ行くと既にある以外のメンバーが席に座っている。アルがそんな事で気分を悪くしていたらエディから声がかかる。

「こっちだ、アル」

そんな声で少しだけ気分が軽くなる。

「エドも帰ってたんだ」

「本屋で捕まえて帰ってきたの」

マドレーヌが邪気なく笑う。アルはなにかもやっとしたものを感じている。モイラはそんなアルを気づかわし気に見ている。あとで判ったがこの時ロゼは『平穏な気持ちになる声』を出していたらしい。ロゼは声に魔力を込めて話す技量の持ち主だった。風の精霊と契約していて、遠くまで声を運べるようにもしているらしい。

「あの、アル様……ちょっと外まで来てもらえますか」

「何故?」

アルが気分を悪くする。

「アル、ちょっとモイラに付き合ってあげて。エディはロゼをもてなしといて。エドも一緒に」

ロゼは眉間に皺を寄せている。

「布、ある?」

モイラは頷いて立ち上がった。アルはマドレーヌに促されしぶしぶ立ち上がる。4人はそのままマドレーヌの部屋へ行った。

「ちょっとまって下さいね」

モイラが部屋に結界をはる。

「……あの黒いのが原因?」

「そう」

マドレーヌとモイラは頷きあう。エドはわけがわからない。アルにも見えていないようだ。

「妬み嫉み……否定的な感情の塊ね」

マドレーヌが呟くとモイラが驚いている。

「ちゃんとみえるんですね」

「うん。この程度読むのは学校でやった、でも私はその個人、大元を特定できる力はないのよ」

「そうですか」

モイラが無言でアルの首筋を何度も撫でる。アルは撫でられる都度何かが軽くなるのを感じた。そしてモイラの手が離れた。モイラの手にはもやもやとした黒いものが握られていた。

「もう大丈夫ですよ。アル様、首が軽くなってませんか?」

「かなり軽い……」

「そうでしょうね。気持ちも晴れてませんか?」

言われてみればなにか昼寝から起きてからまとわりついていた黒い嫌な気分が晴れている事にアルは気が付いた。

「これは、妬みや嫉み、他人を呪う感情の塊です」

モイラは握りしめた黒い靄を白い布に包みこみ閉じ込めた。

「え?なに、それ。どういうこと」

エドが置いて行かれている。モイラが説明する。

「これは一種の『呪い』が形になったものです。呪おうとして作られた呪いではないの。……そうね、誰かを羨ましいとか思うようなそんな小さな呪い、なんだけど偶然ターゲット、この場合はアルだね。アルがそこにいたからただ漂っていたこの誰かの心、呪いがアルにへばりついちゃった」

「へぇ……。誰でも持ってるそんな気持ちが形になるんだ」

エドは感心している。

「そうだね。普通の人はこんな風に出来ないよ。闇魔法のなかでも厄介な感情を操る魔法を使えないとこんな形にはできないかな」

モイラはそう言うと腰のあたりにあるポケットにその布を入れる。

「食事中だけど私ちょっと神殿に行かなきゃ。この布の中の物、神殿にさっさと預けてくる」

マドレーヌが言い出すより先にエドが言う。

「じゃ、俺が送っていくよ。マドレーヌとアルは食事に戻ってて」
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