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十二章 ヴォジャノーイ
二
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ショクがノーイの腕から逃れるまでにしばらくかかった。何せキレたノーイはしつこかったのだ。積年の恨みともいう。
閑話休題、魔道車とは、その名の通り魔法が動力となっている車である。その形は様々であり、敢えて馬に似せた魔法生物を繋いで走らせるものや、車体のどこかに動力源を繋いで走らせるものなどがある。今回ショクが商品として提示したのは後者であった。
その車の前部と後部は水晶板、といっても魔法で加工された透明度と耐久性を兼ね備えたもので、魔力を注げば不透明にすることもできる。
馬車でいう幌の部分は、亜竜とも呼ばれるワイバーンの飛膜をなめして作られたもので、中級までの魔法なら何もせずとも弾き返せる。
車輪もまた魔力を練り込んで精錬された金属製で、摩耗することはほぼない上に地形に合わせて特性を変化させることから、最近普及しているばね入りの馬車よりも乗り心地がいい。
その他にも、金と手間と時間を注ぎ込んで作られたことが一目でわかる最高級車。それが、ぼろ馬車同然の値段とくれば、ノーイの恐怖は増しこそすれ減りはしない。
「運転手はジューダスにやらせる」
「アイツ運転できたっけ? 魔力あるのは知ってるけど」
「できます。魔道車運転に携わって三十年、安全運転には自信があります」
「お前の中ではそうなんだろうけども」
ジューダスの見た目はオーク寄りなので、人間としての年齢がわかりにくい。だがしかし、三十年というならそれこそ幼子の時から運転していたことになるだろう。ノーイはジューダスに対しての理解を諦めていた。
「で、その魔道車はどこにあるんだよ?」
「このダンジョンから少し離れた森の中に隠してきましタ!!」
「あーつまり、そこまでは強行突破しろって?」
「そうなるだろうな……神官兵と冒険者がそろそろ侵入してきそうだ。入口に踏み入ると同時にダンジョンをしまって、混乱の最中を突っ切るぞ」
「アンタがまとめ役でいいんじゃない?」
元気よく宣ったショクに、提案の形すらなしていない命令を下してくるダンジョンの主。ノーイは天井を仰いで、しばしの間、沈黙した。平穏に生きていきたい、たったそれだけの望みがどうしてこうも叶わないのだろうか。楽をして生きていきたいとまではもう望まないから、平穏無事に生きていけさえすればいいから……そのためには、どうあったってこの局面を乗り切らざるを得ない。
「っ、あー……」
ノーイは、目を閉じた。暗い、暗い、闇が見える。その中には、たくさんの人間がいる。口々に、何かを言っている。ヴォジャノーイは、恨めしげに伸ばされた手を、腐臭が漂ってきそうな声を、掻き消すように目を開いた。蔓延り絞め殺す蔦の緑、普く死をもたらす宝玉の緑、そんな色に、充たされた目を。
閑話休題、魔道車とは、その名の通り魔法が動力となっている車である。その形は様々であり、敢えて馬に似せた魔法生物を繋いで走らせるものや、車体のどこかに動力源を繋いで走らせるものなどがある。今回ショクが商品として提示したのは後者であった。
その車の前部と後部は水晶板、といっても魔法で加工された透明度と耐久性を兼ね備えたもので、魔力を注げば不透明にすることもできる。
馬車でいう幌の部分は、亜竜とも呼ばれるワイバーンの飛膜をなめして作られたもので、中級までの魔法なら何もせずとも弾き返せる。
車輪もまた魔力を練り込んで精錬された金属製で、摩耗することはほぼない上に地形に合わせて特性を変化させることから、最近普及しているばね入りの馬車よりも乗り心地がいい。
その他にも、金と手間と時間を注ぎ込んで作られたことが一目でわかる最高級車。それが、ぼろ馬車同然の値段とくれば、ノーイの恐怖は増しこそすれ減りはしない。
「運転手はジューダスにやらせる」
「アイツ運転できたっけ? 魔力あるのは知ってるけど」
「できます。魔道車運転に携わって三十年、安全運転には自信があります」
「お前の中ではそうなんだろうけども」
ジューダスの見た目はオーク寄りなので、人間としての年齢がわかりにくい。だがしかし、三十年というならそれこそ幼子の時から運転していたことになるだろう。ノーイはジューダスに対しての理解を諦めていた。
「で、その魔道車はどこにあるんだよ?」
「このダンジョンから少し離れた森の中に隠してきましタ!!」
「あーつまり、そこまでは強行突破しろって?」
「そうなるだろうな……神官兵と冒険者がそろそろ侵入してきそうだ。入口に踏み入ると同時にダンジョンをしまって、混乱の最中を突っ切るぞ」
「アンタがまとめ役でいいんじゃない?」
元気よく宣ったショクに、提案の形すらなしていない命令を下してくるダンジョンの主。ノーイは天井を仰いで、しばしの間、沈黙した。平穏に生きていきたい、たったそれだけの望みがどうしてこうも叶わないのだろうか。楽をして生きていきたいとまではもう望まないから、平穏無事に生きていけさえすればいいから……そのためには、どうあったってこの局面を乗り切らざるを得ない。
「っ、あー……」
ノーイは、目を閉じた。暗い、暗い、闇が見える。その中には、たくさんの人間がいる。口々に、何かを言っている。ヴォジャノーイは、恨めしげに伸ばされた手を、腐臭が漂ってきそうな声を、掻き消すように目を開いた。蔓延り絞め殺す蔦の緑、普く死をもたらす宝玉の緑、そんな色に、充たされた目を。
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