ETDの雑用係

とりい とうか

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十二章 ヴォジャノーイ

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 ダンジョンの主は再び杖で床を打った。こつん、こつん、と響く音。瞬間、巫女三姉妹やパリカー、ペインといった後方支援組が忽然と現れる。
 動揺している人間はいない。ランスロットたちはダンジョンの主がこのダンジョンの支配者であることを知っているし、巫女三姉妹は言わずもがな。ここにいるのは、全員ダンジョン側の人間なのだから。

「さて、お前たちも聞いていたな? ついてくるなら止めはしない、どうする?」
「私たちは主と共に」
「アタシは旦那様と一緒に」
「誰かなぁ旦那様って!? いない存在について当然のように語られるのってすっげぇ怖いなぁ!!」

 パリカーの宣言に対して、大声で否定を繰り出すノーイ。そんなに照れなくていいのよ、と慈愛に満ちた笑顔が返ってくる。ノーイは恐怖からちょっとだけ涙を浮かべて、結果としてアークがパリカーに突撃して撃沈させた。
 閑話休題、またしてもかくかくしかじかと互いの持つ情報を交換し、ついでに自己紹介やら何やらも済ませ、急造パーティーとしての体裁を整える。すると何故か、リーダーはノーイになっていた。

「いやおかしいだろアンタだろそこは!!」
「魔法を使う者は後衛だが……」
「後衛でもっつーか後衛だからこそまとめ役はできるだろ!!」
「じゃあお前は何をするつもりだ?」
「え? 雑用係だから料理とか荷物運びとかするよ。スープ作りの腕前は自信あるし」
「はは、面白い冗談だな。お前は前衛だしまとめ役だよ」
「何でぇ!?」
「ここにいる過半数が、お前をきっかけに集まった者だからな。人望があって実に羨ましい」
「全っ然思ってないよな!?」

 ダンジョンの主の頭巾の下から覗く口元は、たおやかに弧を描いていた。ノーイは自身の髪をぐしゃぐしゃと掻き回しながら呻き声を上げる。しかし、力関係は明白で、主人の命令を受けたら拒めないのがノーイである。

「あー……なら、その帝国? に着けるように頑張りゃいいの?」
「先触れを出せば国境近くに迎えを寄越してくれる算段になっている……『翔べ、光の翼』」

 ダンジョンの主が唱えれば、光り輝く小鳥が現れる。それは、ちち、と鳴くや否やダンジョンの壁を擦り抜けて外へと飛び出していく。

「ソロモンへ届くのに半日、ソロモンが寄越す迎えが……五日はかかるか、魔道車を使ってくれるなら二日と半日と想定して、まぁ三日から四日で……この辺りが目的地になるな」

 今度は無詠唱で中空に描かれていく地図。光の線と点が舞い、その一点が明滅する。ノーイは自分の頭の中の地図と照らし合わせて、小さく唸った。

「オレらには馬車も何もないけど?」
「それならお任せを!!」
「あーうんどっかで出てくるだろうなぁとは思ってたよ」

 そんなノーイの横にひょっこりと現れたのは、森の番人ことエルフの商人、ショク。色眼鏡の下に隠した双眸を嬉しそうに細めて、楽しそうに声を弾ませて、合わせた両手をもみもみと揉んでいる。

「商人たるモノ、お客様がお望みならば何だって揃えますトモ!! えぇ、えぇ、丁度折良く都合良く、高級魔道車が格安で!!」
「何で安いの? 旧式だからとか?」
「皇国でコレを乗り回していた貴族が平民を轢き殺して、それからというものこの魔道車に乗る人間は皆、魔道車の前方にしがみつく凄まじい形相の平民の姿が見えるとか」
「レイスじゃんきちんと浄化して」
「いやそれが、レイスじゃないらしいんデスよ。その貴族もね? ちゃんと魔道車を浄化したらしいんデスが、それでも見え続けて……売り払った先でもそんな風だから、破格の値段で手に入れられて」
「そんな怖いものよく売りつけようと思ったな!?」
「でも、必要デショ?」

 ノーイは唸り、悩み、ダンジョンの主を見た。その視線に気づいたダンジョンの主がショクに問う。

「何人乗りだ?」
「大型ですから十人は余裕で!!」
「ふむ……私と巫女が三人と、雑用係が二人……勇者たちは四人……触手とサキュバスたちはダンジョン内にしまっていれば運べるか……」
「ねぇ聞いて? 人間の心の話なんだけど、ここにいる人間には人間の心ってもんがないの? あー……騎士団長にはあるな、そうだよな、怖いよな? 怖いんだよ、レイスならいいよ? 大神官様が浄化できるもんな……え? できるよな? 何だよその顔……まぁレイスなら排除できるけどさ、レイスじゃないじゃん、訳わかんねぇヤツが一番怖ぇんだよ!!」
「リッチの可能性があるだろう」
「まぁそんならそこらの神官が浄化しても無理ってのは通るけどさ!! 別の怖さがあるだろ!! リッチ憑きの魔道車なんてさぁ!!」

 うがー!! と頭を掻きながら吠えたノーイを、どうどうと宥めるショク。次いで、ンフフと笑ったショクに、ノーイは割と本気で掴みかかった。
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