誰彼時ノ隘路ニ

とりい とうか

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白の記録 六

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 やりやがった、やりやがったぞ、そりゃお前、彼女に八つ裂きにだってされるってもんだぜ。これだから神様ってヤツは!!
 はい、二周目です、私にとってのね。有子にとっては最早何周目かもわからない、それこそプレイヤーの人数とバッドエンドの数、観測範囲内のDエンド到達者が繰り返したであろう試行回数を重ねるだけで千は軽く超えるだろう。
 そして、だ。二周目の初っ端で私は絶望した。スタート地点固定じゃないんかい。有子がいつも大体3階の空き教室スタートだから油断していた。モリの野郎、うん、ヤツなんて野郎で充分だ、そう、野郎が私を暗闇の中に放り出した時点で私はある意味の油断をしていた。
 さっきも語ったように、有子のスタート地点は3階の空き教室。そこで目を覚まして、そこから行動を開始する。別地点からのスタートなんて、特殊ルートである寄り道ルートに突入した時くらいだろう。だというのに、私の現在地は、校長室のソファーである。

「で? 何の御用でこちらにいらしたンで?」
「用事はあったよ、いや、あることになるのかな、今じゃないんだそれは」

 私の目の前には、ネクタイ代わりに吊り縄を首に引っかけた、顔色の最悪な成人男性が逆さに浮かんでいる。まだおぼこい、と感じるのは私の感覚の話で、充分に成人しているし新任教師として頑張っていた、はずだ。設定資料集に間違いがなければね。

「何だそれ、意味がわかンねぇな……」
「私にだってわかっていないもの、貴方に……校長先生にご挨拶するには、現状では手土産も何もないのだから」

 彼の名前は、西園一彦。だけど、この名前を呼ぶわけにはいかない。何の準備もなしにこの名前を呼んでしまえば、廃校の支配者である彼は即座に私を殺すだろう。
 本来ならば、ある特定のバッドエンドと、全員生存エンドのラストにしか出てこないキャラクターだ。この廃校を創り上げた悪霊であり、人間に対する八つ当たりで殺人行為を繰り返している最悪の駄々っ子。
 支配者あるいは校長先生と呼ばれているのは伊達ではなく、彼はこの廃校の全てをコントロールできるし、している。即死罠の設置なんてあくび混じりでやっていたらしい、設定資料集によれば。

「アー……メイドじゃなけりゃ三日月ウサギか? いきなりこんな場所に落ちてきた所を見りゃァ、チェシャ猫って可能性もあるな……」

 そんな彼が、ぶつくさ呟いている。それらが不思議の国のアリスの登場キャラクターであること、そして、二周目突入直前にあの野郎がささやいた言葉を組み合わせれば、一つの嫌な結論がお出しされる。
 この、私が周回を繰り返すことになるであろう……いや、最悪三周目で終わりにはしたいのだけれど、とにかく、この時間軸には、Dエンドの有子が変異した最恐の化物であるタソガレアリスが存在しているらしい、ということだ。

「そのどちらでもないよ、私は私だ」
「そンならオレは今すぐお前の首を刎ねてやらなきゃならねェんだが?」
「おっと、それは嫌だな。詰んでいる周回だからこそ、集められるだけの情報は集めておきたい」

 Dエンドの先はない。Dエンドを迎えた時点でセーブデータは固定される。それでも周回を進めようとすると、特殊なオープニングを見せられるはめになる。これまたメタ要素を悪用した後味最悪なもので、Dエンドで心折れなかった猛者の心を漏れなく折ってしまっていた。
 だから、タソガレアリスという化物になってしまったアリスへの対抗策が一切不明なのだ。このままなら高確率でぶつかるだろう強敵へ、無策で勝てると思うほど馬鹿ではない。そして、その点において、私と一彦先生は協力態勢を取ることができる。

「鏡野有子の姿をした、鏡野有子ではない……そうだね、私のことは白の女王とでも呼んでもらおうか」
「最悪か?」
「未来をかたる存在であるならば、こちらの方が適当だと思うがね」

 だから私は、私であることは偽らない。開き直っているかのように見えるこの態度も、一彦先生にとって殺すよりも利用した方がいい存在であると認識させるための強がりだ。交渉する時は、概ね強気にね。

「で、そのジョオーサマは何をしようってェ?」
「そうだな……赤の女王様へ、謁見とでも洒落こもうかな?」
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