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白の記録 五
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ぬかった、と思った時には遅かった。後悔とは後で悔やむと書くものだ。ごぽ、と喉の切り口から溢れ出した血。あぁクソ、熱い、痛い。あの性格の悪いシナリオライターが、ただの安全地帯など許すはずもないと知っていたはずなのに。
と、いうわけで突然だが私は死んだ。スイーツ……とは、まぁ、昔の流行り言葉だ。無視してほしい。あんまり衆目を集めると恥ずかしくなる。
何てことはない。尚君は罠を回避できる、有子には罠を回避できない、畢竟私にも初見の罠を回避することはできない。そんな雑な三段論法で説明できる、職員室横、初見殺しの首刎ねワイヤーにかかっての即死だった。
しかして、あぁ、私はこの世界における有子なのだなぁと思った。それとも、下手に魂がどうのなどと思ってしまったからか。
思考がとっ散らかって、でもこうでもしないと目の前の紳士には全部バレてしまうから仕方ない。いや、バレてまずいことはないし、いっそ何もかもぶちまけて助けを求めるのもありだろうか。
「私は仏ではございませんので……」
「知ってるよ、優しい顔した死神さん」
私は、私として彼の前にいる。有子の姿ではなく、本来というか、有子として死ぬ前に死んだと思われる私の姿で。だから、口調もそちらに引きずられる。
そんな私の前にいるのは、オールバックでキメた髪、磨き抜かれたモノクルに、執事の中の執事然とした紳士。彼の名を……本名というか、概念としての名を、メメント・モリという。死を忘れるなというラテン語か何かの箴言であり、数多の勘違いの結果、有子は彼を森さんだと認識していた。
いわゆる、バッドエンド後に現れて助言をしてくれる系メタキャラである。彼は死神で、有子が死ぬに死ねないループに陥っていることを哀れんで、彼女を助けようと己の領域へと引き込んで助言を繰り返した。まぁそれもまた有子の苦しみを長引かせる一因になったので……Dエンドでは、憤怒に身を焦がした有子によって八つ裂きにされていた。
「そのような道行きもあった、と?」
「さぁ? それはそれとして、今回は尚君のルートでだけ出てくるはずの、職員室横にある罠……だったのかな。尚君がいないのにこのバッドエンドが実装されてるのっておかしくない?」
質問に質問で返したら肩を竦められた。このように、モリさんは相対する人間の魂の全てを読み取ることができる。だから、死んで魂だけの存在になった私の思考など筒抜けになっている。このままちょっとふしだらなモリアリ二次創作イラストなどを思い出したらどうなるのだろう、と思ったら、モリさんが苦笑して人差し指を唇に当てた。
「私、千歳以上も年下の、種族さえ異なる生き物に懸想するような感性を持っておりませんので」
「まぁそうだろうけど……貴方は徹頭徹尾、有子に対しては憐憫の情を抱いていたらしいね?」
「えぇ、そうです。そしてその対象は、貴方様ではない」
「だから侵入者……いや、邪魔者である私にはここで死んでもらうって?」
そのまま、空いている片手で大鎌を振り上げたモリさんに、私は同じような苦笑を返す。あの大鎌は、魂を刈り取る死神の鎌だ。その一薙ぎは、私という存在を簡単に切り捨ててしまえるだろう。
「いいえ、いいえ! 貴方は御存知でしょうけれども、私は合理主義者でしてね。貴方があのお方を救えるならば、それはそれで喜ばしいことですので!」
ひょい、と襟首を大鎌の先で引っかけられる。あ、と思う間もなく、私は暗黒の中へと放り出された。暗転する意識の端、ぽつり、と聞こえたのは。
「……えぇ、かの女王陛下を救えるならば、ですが」
と、いうわけで突然だが私は死んだ。スイーツ……とは、まぁ、昔の流行り言葉だ。無視してほしい。あんまり衆目を集めると恥ずかしくなる。
何てことはない。尚君は罠を回避できる、有子には罠を回避できない、畢竟私にも初見の罠を回避することはできない。そんな雑な三段論法で説明できる、職員室横、初見殺しの首刎ねワイヤーにかかっての即死だった。
しかして、あぁ、私はこの世界における有子なのだなぁと思った。それとも、下手に魂がどうのなどと思ってしまったからか。
思考がとっ散らかって、でもこうでもしないと目の前の紳士には全部バレてしまうから仕方ない。いや、バレてまずいことはないし、いっそ何もかもぶちまけて助けを求めるのもありだろうか。
「私は仏ではございませんので……」
「知ってるよ、優しい顔した死神さん」
私は、私として彼の前にいる。有子の姿ではなく、本来というか、有子として死ぬ前に死んだと思われる私の姿で。だから、口調もそちらに引きずられる。
そんな私の前にいるのは、オールバックでキメた髪、磨き抜かれたモノクルに、執事の中の執事然とした紳士。彼の名を……本名というか、概念としての名を、メメント・モリという。死を忘れるなというラテン語か何かの箴言であり、数多の勘違いの結果、有子は彼を森さんだと認識していた。
いわゆる、バッドエンド後に現れて助言をしてくれる系メタキャラである。彼は死神で、有子が死ぬに死ねないループに陥っていることを哀れんで、彼女を助けようと己の領域へと引き込んで助言を繰り返した。まぁそれもまた有子の苦しみを長引かせる一因になったので……Dエンドでは、憤怒に身を焦がした有子によって八つ裂きにされていた。
「そのような道行きもあった、と?」
「さぁ? それはそれとして、今回は尚君のルートでだけ出てくるはずの、職員室横にある罠……だったのかな。尚君がいないのにこのバッドエンドが実装されてるのっておかしくない?」
質問に質問で返したら肩を竦められた。このように、モリさんは相対する人間の魂の全てを読み取ることができる。だから、死んで魂だけの存在になった私の思考など筒抜けになっている。このままちょっとふしだらなモリアリ二次創作イラストなどを思い出したらどうなるのだろう、と思ったら、モリさんが苦笑して人差し指を唇に当てた。
「私、千歳以上も年下の、種族さえ異なる生き物に懸想するような感性を持っておりませんので」
「まぁそうだろうけど……貴方は徹頭徹尾、有子に対しては憐憫の情を抱いていたらしいね?」
「えぇ、そうです。そしてその対象は、貴方様ではない」
「だから侵入者……いや、邪魔者である私にはここで死んでもらうって?」
そのまま、空いている片手で大鎌を振り上げたモリさんに、私は同じような苦笑を返す。あの大鎌は、魂を刈り取る死神の鎌だ。その一薙ぎは、私という存在を簡単に切り捨ててしまえるだろう。
「いいえ、いいえ! 貴方は御存知でしょうけれども、私は合理主義者でしてね。貴方があのお方を救えるならば、それはそれで喜ばしいことですので!」
ひょい、と襟首を大鎌の先で引っかけられる。あ、と思う間もなく、私は暗黒の中へと放り出された。暗転する意識の端、ぽつり、と聞こえたのは。
「……えぇ、かの女王陛下を救えるならば、ですが」
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