臆病勇者 ~私に世界は救えない~

悠理

文字の大きさ
33 / 108
緩やかに幕は上がる

6-3

しおりを挟む
セレナが落ち着きを取り戻し、クーを椅子に座らせる。そしてもてなすようにお茶とクッキーをテーブルに置いた。

「このクッキー。クーちゃんが旅立った後に出来たお店のもので、すごくおいしいのよ」

「へぇ。そうなんだ」

勧められるがままに、クーはクッキーに手を伸ばす。甘味は控えめだが、香ばしいバターの風味が口に広がり、確かにかなりのおいしさだった。
続いてお茶も一口すする。懐かしい味が口に広がった。

「そうだ。お母さん。色々話したいことがあって……」

カップをテーブルに置いて、クーはセレナにこれまであった事を全て話した。
マイとの出会い。ジーニアスでの出来事。そして、これからの事。

「初めてここを出た時は、正直嫌々だったよ。でも、今回は違うの。自分の意思で、自分がそうしたいって思って、旅立つんだって決めたの」

「…………」

真っすぐ見つめながら訴えるクーに、セレナ視線をテーブルへと落とす。
臆病で、引っ込み思案で、泣き虫な子どもだった。それが今、強い決意を持って、旅立とうとしている。親として送り出したい気持ちもあれば、引き留めたい気持ちもある。どんなに強くなったと言われても、セレナの中では、まだか弱い少女という印象が強いからだ。
改めて顔を上げて、娘と正面から向き合う。背が伸びたとも、大人っぽくなったとも違う。それでも、目の前の彼女は旅立った数週間前とは違う顔立ちになっていた。

「本気、なのね」

「うん」

即答だった。ならばこれ以上かける言葉は、多くなかった。

「怪我には気を付けて。無理はしちゃ駄目よ」

「! うん!」

クーがお茶を一気に飲み干し、席を立ちあがる。

「あ。お父さんとも話しておきたいんだけど……」

「う~ん。ちょっと今は難しいから、お手紙でも書いたらどう?」

「そうだね。じゃあちょっと書いてくる」

廊下へと向かったクーは、その途中で一度立ち止まり、振り返った。

「あ。そのクッキー。ちょっと持ってっていい? 友達にも、食べさせたいんだ」

「ええ。それじゃあ、取り分けておくわ」

「ありがとう。お母さん」

今度こそ廊下へと出て、クーは二階にある自分の部屋を目指した。
セレナも席から立ち上がると、先程まで読んでいた本の表紙が目に入った。
苦難を乗り越える二人だったが、終盤、彼らは国を追われてしまう。
暗闇の中、逃げる二人。未だ呪いが解けず、負い目を感じているシャーロットへ、エミリオは言う。

「君と一緒なら、僕は喜んで日陰の道を歩もう」

その言葉のすぐ後、追ってが近づくのを感じ取り、二人は再びその場を離れる。エミリオに手を引かれながら、心の中でシャーロットは想う。

(あなたは私の太陽。あなたがいれば、私は光を感じられる)

そこで物語は幕を閉じる。
セレナはハッピーエンドとは言い切れないこの結末が苦手だった。二人は追ってから逃げきれたのか? どこかで幸せに暮らせただろうか? 考えても明確な続きはなく、誰もその結末を知りえなかった。
そして今、自分の娘が故郷を再び旅立つ。帰ってくるかもわからない。それはまるで、この本の結末のようだった。
彼女の物語は、ハッピーエンドに辿り着くだろうか。不安が脳裏を掠めるが、頭を振ってそれを否定する。
とにかく、今は信じよう。彼女にとって、大切な友人も近くにいる。

「次に帰ってくるときには、連れてきてくれないかしら」

一人呟くと、クーと約束したように、クッキーを取り分ける袋を探すことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...