192 / 203
最終章 幕引き【現在 七色七奈】
2
しおりを挟む
井の中の蛙大海を知らず。所詮、この田舎という土地は井の中であり、外には広い世界が広がっている。しかも、井の中で通用したルールは、外の世界ではほとんど通用しない。もちろん、存在したはずの犯罪をなかったことになんてできないだろう。すなわち、この辺一帯で権力があろうとも、その権力は井の外までは通用しない。
「――たかが駐在風情が何を偉そうに」
一度は言いくるめることができたはずの駐在が言うことを聞かない。それは、権力者の鼻っ柱を折るには充分すぎる破壊力があった。悔し紛れにと放たれた言葉に、大和田はさらに噛みついた。
「捜査権も逮捕権もないような一般の方が、警察のやり方に口を挟めるとでも? 言っておきますが、事件を隠匿する行為自体犯罪ですからね。それに、今私がやろうとしていることを邪魔することは、公務執行妨害に当たりますので。それでも構わないのであれば、どうぞお好きなようにしてください」
ほんの少しだけだが、大和田のことを見直した。この男、やる時はやるではないか。
「――駐在所に戻って、本署からの連絡を待とう。もしかすると、今日中に答えは出ないのかもしれないけど」
何も言えなくなった権力者を尻目に踵を返す大和田。きっぱりと権力者に啖呵を切ったわけだが、残念ながら帰りの車は私の車だ。格好をつけたつもりなのかしれないが、どうにも締まりが悪かった。
「帰りの運転も私でいいですか?」
そう言いながらも、私はさっさと運転席に乗り込んでしまう。苦笑いを浮かべた大和田は、助手席へと乗り込みながら「じゃあ、お願いします」と、アクセントの癖が強い喋り方を見せた。
私は駐在所に向かって車を走らせる。
「あの――映画とかドラマとかだと、ひとつの困難を共に乗り越えた男女って、特別な仲になったりするじゃないですか」
なんとなく思ったことを、私はただ口にしたかっただけだった。しかしながら、どういうわけか姿勢を正す大和田。
「あ、あぁ。最終的にはそうなる話が多いな。で、それがどうかしたか?」
明らかに緊張している様子の大和田を横目で見て、なんだか申し訳なく思えてしまった。なぜなら――。
「いや、大和田さんの場合、そういうの一切ないなーっていうか。共に困難を乗り越えたはずなんですけどね」
私の一言に、まるで芸人であるかのごとく、助手席という限られた空間の中でずっこける仕草をする大和田。
「なんじゃそりゃ。確かに、この訛り全開の喋り方じゃ、ムードもへったくれもないけどな」
「あぁ、そうだな」
そして笑った大和田に合わせ、私は大和田を真似て訛ってみた。
「――たかが駐在風情が何を偉そうに」
一度は言いくるめることができたはずの駐在が言うことを聞かない。それは、権力者の鼻っ柱を折るには充分すぎる破壊力があった。悔し紛れにと放たれた言葉に、大和田はさらに噛みついた。
「捜査権も逮捕権もないような一般の方が、警察のやり方に口を挟めるとでも? 言っておきますが、事件を隠匿する行為自体犯罪ですからね。それに、今私がやろうとしていることを邪魔することは、公務執行妨害に当たりますので。それでも構わないのであれば、どうぞお好きなようにしてください」
ほんの少しだけだが、大和田のことを見直した。この男、やる時はやるではないか。
「――駐在所に戻って、本署からの連絡を待とう。もしかすると、今日中に答えは出ないのかもしれないけど」
何も言えなくなった権力者を尻目に踵を返す大和田。きっぱりと権力者に啖呵を切ったわけだが、残念ながら帰りの車は私の車だ。格好をつけたつもりなのかしれないが、どうにも締まりが悪かった。
「帰りの運転も私でいいですか?」
そう言いながらも、私はさっさと運転席に乗り込んでしまう。苦笑いを浮かべた大和田は、助手席へと乗り込みながら「じゃあ、お願いします」と、アクセントの癖が強い喋り方を見せた。
私は駐在所に向かって車を走らせる。
「あの――映画とかドラマとかだと、ひとつの困難を共に乗り越えた男女って、特別な仲になったりするじゃないですか」
なんとなく思ったことを、私はただ口にしたかっただけだった。しかしながら、どういうわけか姿勢を正す大和田。
「あ、あぁ。最終的にはそうなる話が多いな。で、それがどうかしたか?」
明らかに緊張している様子の大和田を横目で見て、なんだか申し訳なく思えてしまった。なぜなら――。
「いや、大和田さんの場合、そういうの一切ないなーっていうか。共に困難を乗り越えたはずなんですけどね」
私の一言に、まるで芸人であるかのごとく、助手席という限られた空間の中でずっこける仕草をする大和田。
「なんじゃそりゃ。確かに、この訛り全開の喋り方じゃ、ムードもへったくれもないけどな」
「あぁ、そうだな」
そして笑った大和田に合わせ、私は大和田を真似て訛ってみた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説



セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる