ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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最終章 幕引き【現在 七色七奈】

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 井の中の蛙大海を知らず。所詮、この田舎という土地は井の中であり、外には広い世界が広がっている。しかも、井の中で通用したルールは、外の世界ではほとんど通用しない。もちろん、存在したはずの犯罪をなかったことになんてできないだろう。すなわち、この辺一帯で権力があろうとも、その権力は井の外までは通用しない。

「――たかが駐在風情が何を偉そうに」

 一度は言いくるめることができたはずの駐在が言うことを聞かない。それは、権力者の鼻っ柱を折るには充分すぎる破壊力があった。悔し紛れにと放たれた言葉に、大和田はさらに噛みついた。

「捜査権も逮捕権もないような一般の方が、警察のやり方に口を挟めるとでも? 言っておきますが、事件を隠匿する行為自体犯罪ですからね。それに、今私がやろうとしていることを邪魔することは、公務執行妨害に当たりますので。それでも構わないのであれば、どうぞお好きなようにしてください」

 ほんの少しだけだが、大和田のことを見直した。この男、やる時はやるではないか。

「――駐在所に戻って、本署からの連絡を待とう。もしかすると、今日中に答えは出ないのかもしれないけど」

 何も言えなくなった権力者を尻目に踵を返す大和田。きっぱりと権力者に啖呵を切ったわけだが、残念ながら帰りの車は私の車だ。格好をつけたつもりなのかしれないが、どうにも締まりが悪かった。

「帰りの運転も私でいいですか?」

 そう言いながらも、私はさっさと運転席に乗り込んでしまう。苦笑いを浮かべた大和田は、助手席へと乗り込みながら「じゃあ、お願いします」と、アクセントの癖が強い喋り方を見せた。

 私は駐在所に向かって車を走らせる。

「あの――映画とかドラマとかだと、ひとつの困難を共に乗り越えた男女って、特別な仲になったりするじゃないですか」

 なんとなく思ったことを、私はただ口にしたかっただけだった。しかしながら、どういうわけか姿勢を正す大和田。

「あ、あぁ。最終的にはそうなる話が多いな。で、それがどうかしたか?」

 明らかに緊張している様子の大和田を横目で見て、なんだか申し訳なく思えてしまった。なぜなら――。

「いや、大和田さんの場合、そういうの一切ないなーっていうか。共に困難を乗り越えたはずなんですけどね」

 私の一言に、まるで芸人であるかのごとく、助手席という限られた空間の中でずっこける仕草をする大和田。

「なんじゃそりゃ。確かに、この訛り全開の喋り方じゃ、ムードもへったくれもないけどな」

「あぁ、そうだな」

 そして笑った大和田に合わせ、私は大和田を真似て訛ってみた。
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