191 / 203
最終章 幕引き【現在 七色七奈】
最終章 幕引き【現在 七色七奈】1
しおりを挟む
【1】
きっと、普段は平和で緩やかな時間が流れているであろう田舎の集落は、慌ただしい赤色灯で染まってしまった。これだけの大騒動になって、この辺りの人達が黙っているわけがない。ミノタウロスの森の周りには規制線が張られており、その向こうには権力で大和田をねじ伏せようした人達の姿があった。何やら喚いているようだが、応援として呼ばれた警察の人間は、この辺りの力関係など気にしない。うまい具合に抑えつけていた。
「いやいや――思った以上に大騒ぎになっちゃったなぁ」
赤松朱里……いや、西尾朱里の身柄を引き渡した大和田は、騒然とする周囲の様子に頭をかきながら呟いた。苦笑いを浮かべてはいるが、しかしその表情は晴々としているように見える。
「本当に良かったんですか?」
大和田に対しては申し訳なさしかない。余所者の私に関わってしまったがゆえに、この土地に居場所を失ってしまったのだから。
「あぁ、考え方を変えれば大手柄だよ。過去に何人もの人間を殺害した凶悪犯を逮捕できたんだ。こいつは、左遷じゃなくて栄転になるかも」
大和田はそう言うが、しかし強がっているように見えてしまった。
身柄を引き渡された西尾朱里は、何人もの警察官に囲まれてパトカーに乗った。そのパトカーが見えなくなるまで見守ると、私は大きく溜め息を漏らした。
現場は撤収ムードが強まり、警察側の人手が減ったことを、これ幸いにとばかりに、近隣の人間が規制線を越えてこちらのほうへと歩み寄ってきた。いい歳をした大人が、子分達を引き連れてやってくる様は、なんだか子供っぽく見えた。
「駐在! よくも俺の代で騒ぎを起こしてくれたな。お前、こんなことをして、ここで暮らしていけると思っているのか?」
案の定、大和田に向かって高圧的な態度を見せてくる。しかしながら、吹っ切れてしまった大和田は強かった。どうやら心配は無用らしい。
「――別にここで暮らして行こうとも思っていませんし、暮らしたいとも思いません。ご希望通り、駐在所から出て行くことになるでしょう。こんな田舎クソ喰らえだ」
その一言が逆鱗に触れたことは間違いなかった。しかしながら、本人が口を開く前に取り巻きが大和田のことを口々に責め立てる。大和田はただ首を横に振ると、低い声で呟き落とした。
「どうやら、過去にこのミノタウロスの森では何人もの人間が亡くなっているようです。それが何故か明るみに出ていない。まさかとは思いますが、犯人には共犯者がいるのかもしれません。私共も全力をあげて捜査をしますので、その際はどうかご協力をお願いします」
きっと、普段は平和で緩やかな時間が流れているであろう田舎の集落は、慌ただしい赤色灯で染まってしまった。これだけの大騒動になって、この辺りの人達が黙っているわけがない。ミノタウロスの森の周りには規制線が張られており、その向こうには権力で大和田をねじ伏せようした人達の姿があった。何やら喚いているようだが、応援として呼ばれた警察の人間は、この辺りの力関係など気にしない。うまい具合に抑えつけていた。
「いやいや――思った以上に大騒ぎになっちゃったなぁ」
赤松朱里……いや、西尾朱里の身柄を引き渡した大和田は、騒然とする周囲の様子に頭をかきながら呟いた。苦笑いを浮かべてはいるが、しかしその表情は晴々としているように見える。
「本当に良かったんですか?」
大和田に対しては申し訳なさしかない。余所者の私に関わってしまったがゆえに、この土地に居場所を失ってしまったのだから。
「あぁ、考え方を変えれば大手柄だよ。過去に何人もの人間を殺害した凶悪犯を逮捕できたんだ。こいつは、左遷じゃなくて栄転になるかも」
大和田はそう言うが、しかし強がっているように見えてしまった。
身柄を引き渡された西尾朱里は、何人もの警察官に囲まれてパトカーに乗った。そのパトカーが見えなくなるまで見守ると、私は大きく溜め息を漏らした。
現場は撤収ムードが強まり、警察側の人手が減ったことを、これ幸いにとばかりに、近隣の人間が規制線を越えてこちらのほうへと歩み寄ってきた。いい歳をした大人が、子分達を引き連れてやってくる様は、なんだか子供っぽく見えた。
「駐在! よくも俺の代で騒ぎを起こしてくれたな。お前、こんなことをして、ここで暮らしていけると思っているのか?」
案の定、大和田に向かって高圧的な態度を見せてくる。しかしながら、吹っ切れてしまった大和田は強かった。どうやら心配は無用らしい。
「――別にここで暮らして行こうとも思っていませんし、暮らしたいとも思いません。ご希望通り、駐在所から出て行くことになるでしょう。こんな田舎クソ喰らえだ」
その一言が逆鱗に触れたことは間違いなかった。しかしながら、本人が口を開く前に取り巻きが大和田のことを口々に責め立てる。大和田はただ首を横に振ると、低い声で呟き落とした。
「どうやら、過去にこのミノタウロスの森では何人もの人間が亡くなっているようです。それが何故か明るみに出ていない。まさかとは思いますが、犯人には共犯者がいるのかもしれません。私共も全力をあげて捜査をしますので、その際はどうかご協力をお願いします」
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
舞姫【中編】
友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。
三人の運命を変えた過去の事故と事件。
そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。
剣崎星児
29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。
兵藤保
28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。
津田みちる
20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。
桑名麗子
保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。
亀岡
みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。
津田(郡司)武
星児と保が追う謎多き男。
切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。
大人になった少女の背中には、羽根が生える。
与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。
彼らの行く手に待つものは。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
幾度繰り返そうとも、匣庭は――。
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。
舞台は繰り返す。
三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。
変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。
科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。
人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。
信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。
鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。
手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
【朗読の部屋】from 凛音
キルト
ミステリー
凛音の部屋へようこそ♪
眠れない貴方の為に毎晩、ちょっとした話を朗読するよ。
クスッやドキッを貴方へ。
youtubeにてフルボイス版も公開中です♪
https://www.youtube.com/watch?v=mtY1fq0sPDY&list=PLcNss9P7EyCSKS4-UdS-um1mSk1IJRLQ3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる