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第2問 虚無の石櫃【解答編】

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 人間とは愚かなものであり、それが例えどんなものであろうとも、高名なものは高名なものなりきに見えてしまうものだ。例えば、小学生の工作レベルの作品であっても、高名な芸術家が作り上げた作品であれば素晴らしいということになる。つまり、芸術作品である【虚無の石櫃】に多少の変化が生じたとしても、それはやはり高名な芸術家がこしらえた名作であることに変わりはないのだ。その考えが根底にあったからこそ、犯人はここまで大胆なことをやってのけたのである。

「ポリ缶にあらかじめ水を詰めて持ってきておいて、プラスチックケースの中でモルタル材と水を混ぜ合わせる。それで、出来上がった粘土質の物質を、穴を開けてしまった場所へと積み上げていく。もちろん、違和感がないように仕上げつつだ。これを繰り返し、とうとう犯人は自分が開けた穴をモルタル材で塞いでしまった。確か、速乾性のやつだと30分程度でモルタル材が固まるはずだから、しばらくもしないうちに、そこになかったはずの壁が再生されるって寸法だ。上から――という発想だと着地点に到達するのは難しいが、その先入観さえ外してしまえば、実のところ犯人のやったことはシンプルだったりするもんだ。後は伸縮式の梯子を現場において立ち去ればいいだけだ」

 犯行の内容はいたってシンプルだった――のかもしれない。だが、ここまでを見抜かれたところで、痛くもかゆくもなかった。まだいくらでも言い逃れができるからだ。数藤は一息ついた九十九に対して拍手を送る。

「実に想像力が豊かだなぁ。確かに、その方法ならば【虚無の石櫃】の上部から出入りせずとも被害者を殺害することができるし、少なくとも実行可能な殺人だったということになる。しかし、本当に寝坊教授の犯行なのだろうか? 仮にそうだとして、私と寝坊教授がイコールで結びつくという証拠はあるのかな?」

 数藤の言葉に凛がため息をひとつ。

「あのさぁ、年齢的に考えて、大学の教授なんてやれるのはあんたくらいじゃん? その話はもう最初のほうで出たはずだけど」

 そう、このクイズ番組のいやらしいところは、出題された時点で、犯人を絞り込めたり、また除外できたりするところだ。実際、現時点で高校生である眠夢は、早々に容疑者から外されてしまった。ただ、良い点もある。それは再現映像などが情報源となっているため、全ての情報が伝わらないこと。例えば、他の人間にはアリバイがあったことになっているが、本当にそうだったのか確かめる術がないのだ。そこを突けば、まだいくらでも逃げ道はある。
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