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第2問 虚無の石櫃【解答編】

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 問題となっていたのは、いかにして牧村は【虚無の石櫃】の中で殺害されていたか――という点。しかし、実際のところ牧村が殺害されたのは【虚無の石櫃】の中でもなんでもなかったのである。

「で、牧村を殺害した犯人は【虚無の石櫃】に開けた穴から、中に遺体を運び込んだんだよ。携帯を放置したのは、牧村の携帯に電話をかける人間がいるであろうことを見越してだろう。それくらいの保険をかけておかないと、牧村の遺体そのものが発見されないおそれもあっただろうからな。だから、携帯は落下のついでに壊れた――ってことにはできなかった。被害者のポケットに突っ込んだままだと、下手すると【虚無の石櫃】の外まで着信音が聞こえないおそれもあった。ゆえに、携帯は被害者のポケットの中ではなく、遺体のそばに転がっている必要があったわけだ」

 まるでその場で見ていたかのように、次々と当時の行動を言い当てていく九十九。やはり、その見てくれとは違って頭の回転は早いのだろう。ただ、例え事件当時の行動をものの見事に再現されたところで、決定打さえなければ言い逃れはいくらでもできる。せいぜい、今のうちにロジックを解き明かすカタルシスに浸っていればいい。

「こうして【虚無の石櫃】の中に遺体もろもろを運び込んだ犯人。次にやるべきことは、穴を開けた痕跡を無くすことだった。つまり、穴を元通りにしなければならない」

 もし、遺体が見つかった時点で【虚無の石櫃】に横穴なんてものが開いていたら、わざわざ被害者の所持していた携帯電話を鳴らしたりすることもなかっただろうし、レスキュー隊が出動し、ヘリを出してまで上から【虚無の石櫃】の中に入る必要もなかったであろう。つまり、少なくとも遺体が発見された時点で、遺体や携帯電話などを運び込んだ穴は消えていたことになる。では、どうやって穴を消したのか。それは、意外というべきか実に単純な力技を行使しただけなのだ。

「ここで登場するのが、物置にあったモルタル材だ」

 きっと、聞き覚えのない単語だったのであろう。眠夢が「モルタル材って、なんですかぁ?」と問うてくる。たまに鋭いことを言うが、この女は基本的にアホっぽい。喋り口調からしてそうだが、ここまでアホっぽかっただろうか。何がおかしいのか分からないが、九十九が笑い声を堪えたように見えた。

「モ、モルタル材ってのはコンクリートに砂と水を加えた粘土質のもの――主に建物外装で使われる、簡易的なコンクリート材だと思ってくれればいい」
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