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第2問 虚無の石櫃【解答編】

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「ふん、実にくだらんが付き合ってやるとしよう。私は数藤学。諸君らには到底理解できないであろう学問を追求する身だ。むろん、それだけでは食っていけないから、大学に籍を置いてはいる。一言で言えば、諸君らとは格が違うのだよ。格が」

 文句を言っていた割に、さっさと自己紹介を済ませてしまおうと考えたのであろう。数藤が立ち上がり、実に嫌味ったらしい自己紹介をすると、再び着席する。それに続くようにして、アカリと眠夢が同時に立ち上がった。同じタイミングで口を開こうとして譲り合う――みたいな仕草を互いにすると、順番に自己紹介をする。

「私は木戸アカリです。見てもらえば分かるけど、平凡なOLやってます」

「私は西潟眠夢です。名前の通り、寝るの大好きですぅ。後、西潟って【にしがた】じゃなくて【おもがた】って読むのでぇ、まともに苗字を呼んでもらったことがありませんのですぅ」

 アカリ、眠夢と自己紹介を追えると、トリにはなりたくなかったのであろう。おもむろに柚木が立ち上がった。少しタイミングをずらして長谷川も立ち上がる。アカリと眠夢のようにほぼ同時ではなかったため、お互いに譲り合うようなこともせず、自然と柚木が先に口を開いた。

「あの、伊良部柚木です。これでも高校の教師をやってます。その、こんな性格だから、あんまり生徒が言うことを聞いてくれなくて困ってます」

 柚木のおどおどとした感じが、きっと生徒達に舐められる原因なのであろう。それは根本的な性格であるがゆえ、直しようがないのかもしれないが。

「長谷川大だ。今さら自己紹介もへったくれもないような気もするが、公務員をやってる。仕事一筋というわけじゃないが、他にやることもないんでね。コツコツ地道にやらせてもらってるよ」

 この中でもっとも手堅く生きているのは、もしかすると長谷川なのかもしれない。それなのに、こんなわけの分からないところに放り込まれたのだ。たまったものではないだろう。

 全員の自己紹介が終わり、九十九は解答席をぐるりと見渡す。やはり、犯人はこの事実に気づいていないようだ。犯人以外ならばすぐに分かりそうな違和感に、まるで気づいていないのである。

 タイミングを見計らったかのように藤木が帰ってきた。彼には彼なりのタイミングがあるのだろう。カメラの位置を確認し、自分の身なりを確認すると、オフにしていたスイッチをオンにした。

「さてぇ! 大変ながらくお待たせしましたぁ。それでは、解答者の皆さんには、答えを出していただきましょう!」
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