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第1問 理不尽な目覚め【エピローグ】

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 結論から先に言ってしまうと、司馬はソファーに座っていた。頭をだらりと垂らし、両手はソファーの上に放り出されるような形になっている。そして――彼の腹部は真っ赤に染まっていた。行き場を失った血液が、ぽたりぽたりとソファーをつたって床へと広がっている。ぽたり……またぽたりと。

 こんな時、ドラマとかでは女性陣が悲鳴をあげたりするのであろう。しかしながら、実際に脳内ですぐに処理できないものに遭遇した時、人は文字通り言葉を失うだけのようだ。九十九の背中越しに光景を見たであろう凛は、ぽつりと「嘘……」とだけ呟き、アカリは「ひぃっ!」と九十九の背中に隠れた。

「おい! 大丈夫かっ!」

 九十九の脇をすり抜けて、司馬へと駆け寄る長谷川。誰がどう見ても、それは大丈夫ではなかった。ソファーに放り投げられた両腕を見ただけでも、もう生きているようには見えない。長谷川が司馬の肩を揺すったものだから、だらりと垂れた頭が左右にぐらりと揺れる。ふと、司馬の頭の影に何かがあったことに気づいた。首からかける方式のプレートのようだ。

 ――降板。

 プレートには確かにそう書かれていた。やはり、薄々と気づいていた通り――それでも、間違っていて欲しかった嫌な予感は、こうして現実となって九十九達の目の前に現れてしまったようだ。

 すなわち、降板と死はイコールで結ばれている。

「駄目だ。死んでる……」

 司馬の首筋と両手首に手を当てた長谷川が、助けを求めるかのような視線を向けてきた。そこでようやく現実に戻ったのか、脳の処理が追いついたのか。背後から悲鳴が聞こえた。振り返ると、柚木が壁にもたれかかるような形で尻餅をついている。司馬の変わり果てた姿を見ての悲鳴なのか、それとも、自分の置かれた環境に恐怖しての悲鳴なのか。なんにせよ分かっていることは現状ではひとつだけ。

 ――司馬は何者かによって殺された。

 自然に考えるのであれば、司馬を殺害したのはあちら側……クイズ番組を運営する側の人間のはず。となると、藤木がもっとも怪しくなる。しかし、どうにもしっくりこない。具体的に何が――となると答えに困るが、全体的に違和感のようなものがあった。

「そんなに騒いで、何があったというのだね?」

 さすがに、これだけの騒ぎになれば出て来ざるを得なかったのであろう。数藤と眠夢が駆けつける。その時、九十九の脳裏に嫌なものがよぎった。

 長谷川、数藤、凛、アカリ、柚木、眠夢。もしかしたらこの中に――。

「面白くなってきたじゃねぇか……」

 九十九はそう呟くと、拳を強く握り締め、しかし不敵に笑ったのであった。


【第1問 理不尽な目覚め ―完―】
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