上 下
43 / 506
第1問 理不尽な目覚め【出題編】

41

しおりを挟む
 出雲の推測は、可能性としてはあり得ることであろう。ただ、まだ全ての情報が揃ったわけでもないため、小野寺はとりあえず曖昧に頷くにとどめた。

 2人がやり取りしている間も、白川の自由時間での行動が詳細にされる。青野と合流した白川は、その日キャンプにやってきていた別のグループと一緒に、酒を飲んでいたそうだ。キャンプというのは不思議というか、おそらく酒が入っているのが大きな要因となるのだろうが、見ず知らずの赤の他人のグループと、平気で酒を飲み交わすなんてことはざらにある。どうやら、自由時間が終わるギリギリまで、白川と青野はこのグループのところにいたらしい。たまたまであるが、そのグループがカメラを回していたらしく、グループの証言だけではなく、そのカメラの映像からも、白川と青野が戻る直前まで、グループと一緒にいたことが証明されている。ただ、酒が入っていたせいもあり、白川が2回ほど、そして青野が3回ほど席を外している。離れた時間は1回辺り長くても5分くらいだった。

「白川は自由時間開始直後に青野と合流。それから自分達のコテージに戻る直前までは、他のグループと酒を飲んでいた。ということは――白川と青野には自由時間のアリバイがあるってことになるな。いや、被害者を渓谷に突き落とすだけなら、途中で席を立った5分でも可能か」

 今は自由行動でそれぞれが何をしていたのかを知りたい。いや、知っておくべき情報はそれであろう。すっかり、刑事としてのスイッチが入ってしまった小野寺は、テレビに集中するために一度は出雲の言葉を聞き流した。しかし、白川に続いて自由時間の詳細が明かされたのは青野であったため、小さく溜め息を漏らしながら口を開いた。青野の自由時間の詳細は、白川の自由時間である程度分かっている。わざわざテレビにかじりついている必要はなく、むしろテレビからの情報は聞き流す程度でいい。

「――そもそも、どうしてケンさんは、被害者が渓谷に突き落とされたと思っているんですか?」

 当たり前のことすぎて申しわけないのだが、あえて出雲へと問いを投げかける。

「そりゃ、お前……遺体が見つかったのは渓谷を流れる河川の中――橋のたもとなわけだし、切り立った崖に囲まれているせいで、キャンプ場から渓谷の下に降りるのも難しいんだろ? だったら、被害者は上から突き落とされたと考えるのが自然だろ?」

 出雲の言い分に間違いはない。間違いはないのだが、そう考えると明らかに矛盾する点が出てきてしまうのだ。

「そう考えるのが当然なんですけど、どうやらこの事件――そこまで簡単そうじゃないんですよ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

鬼退治に行こう

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

冴えない俺

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

虚構の檻 〜芳香と咆哮の宴~

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

婚約破棄された令嬢「うわっ・・・私の魅力、低すぎ・・・?」

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:23

グロくない

Ken
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

【完結】一本の電話

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...