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第1問 理不尽な目覚め【出題編】

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 とにもかくにも、司馬達はルールに従うという選択肢しかない。この場ではあくまでも弱者だ。

「さぁ、簡単なルール説明は以上です。それと、これをご覧の皆さまへ――。これをご覧になられている方のことを、こちらでは今後【オーディエンス】と呼ばせていただきます。実はこの【オーディエンス】は、選ばれた方なのです。この番組は誰もが視聴できるものではありません。選ばれたごくごく一握りの方のみが視聴できるのです。視聴する環境については、最大限整えさせていただいたつもりです。ですから、どうか当番組をお楽しみください」

 ここで司馬にとって新情報が出てきた。どうやら、これはネットを介して不特定多数に対して配信するものではないらしい。選ばれた人間――【オーディエンス】という存在のみが、この番組を視聴することができる。どれくらいの【オーディエンス】が存在するのか、どんな環境下で番組を視聴するのか――不明な点は多いが、はっきりしたこともある。すなわち、視聴者に向かって助けを求めたところで、通報などをしてもらえる可能性は低いということだ。多くの人間に見てもらえるからこそ、その中の誰かが通報してくれる可能性が出てくるのであって、選ばれた少数にしか視聴してもらえないのであれば、その可能性が低くなるのは当然。仮に【オーディエンス】が通報しようにも、それができないような環境を作り上げているに違いない。その辺りはきっと抜かりがないはずだ。

 ふと、隣からぽつりと声が聞こえてくる。それも、司馬にしか聞こえない程度の、やや抑えめのトーンでだ。

「こんな馬鹿みたいなクイズ番組、それこそ世の中に出回ったら大問題だ。だから、視聴者を限定したのかもなぁ」

 声が聞こえてきたほうへと視線をやると、当然ながら九十九の姿があった。おそらくは司馬に対して言ったのであろうが、あくまでも視線は正面を向いているから返事をしていいのかどうか迷った。しばらく考えてから、司馬は九十九と同じように前を見据えつつ口を開く。もちろん、声のトーンは抑えめにして。

「あぁ、こんな人殺し探しをさせるような番組――まず倫理的にアウトだろう」

 司馬が漏らした言葉は、九十九のほうへと向かって飛んでいくと、溶けるように消えてしまった。分かりきっていたことであるが無視されたらしい――と思っていたら、随分と間を置いてから「そうだよなぁ」と返答があった。九十九の横顔は気味の悪い笑みを浮かべていた。
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