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第1問 理不尽な目覚め【出題編】

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 司馬は新たな情報を頭の中にインプットする。この番組は誰もが視聴できるものではない。選ばれた【オーディエンス】と呼ばれる人間のみが視聴することができる。どのような基準でそれが選ばれるのかは不明であるし、どのような形で視聴しているのかさえ分からない。ただ、このクイズ番組に関与しているのは自分達だけではないことは間違いない。

 スポットライトの当たり方が変わる。この辺りの操作は、藤木だけではできないように思える。まるで藤木に注目させるかのごとく、スポットライトが藤木へと集まった。その際、藤木のマイクを持っていないほうの手の中に――リモコンのようなものが握り込まれていることに気づいた。なるほど、照明などはリモートで操作しているらしい。状況を伺いつつ、現状を打破すべく観察をする司馬。このような時こそ冷静になり、ひとつずつデータを洗い直すことが重要だ。ささいなことであっても、データを積み重ねて組み合わせることで、それは形を大きく変えるかもしれない。この考え方は、いわば司馬の帝王学のようなものだった。

 スポットライトで充分に注目を集めた藤木。大きく息を吸うと、これよりもさらに声を張る。

「さて、それではいよいよお待ちかね――クイズを進めて参りましょう! 第1問はごくごくシンプルな形式で出題します。これから、ある事件を再現した映像を見ていただきます。映像を見たのち犯人の名前をお手元のフリップに書いていただき、解答する形になります!」

 解答席に座った時点で、手元に数枚のフリップとマジックペンが用意されていたことは分かっていた。どうせ解答する時に使うのだろうと思っていたが、やはりそうらしい。もっとも、クイズ番組におけるフリップの使い道など、それくらいしかなさそうなものであるが。

「当然ですが、登場人物の名前は全て偽名とさせていただきます。本名を出してしまうと、一発で犯人が分かってしまいますからねぇ」

 どうにもカメラに向かってのアピールが強い藤木。司会者という立場であるから仕方がないのかもしれないが、どうにも解答者を置いてきぼりにしている感じは否めない。なんというか、自分の世界に入っているというか。

 これもまたリモート操作なのか。気味悪く輝くネオンの看板がゆっくりと上昇し、代わりに大型のモニターが降りてくる。解答席の真正面に降りたそれは、映像を見せるモニターになるのだろう。

「それでは、 張り切って参りましょう! 第1問!」

 藤木の言葉を合図にして、いよいよ始まる第1問。これから果たしてどうなってしまうのか。モニターを睨みつけながら、司馬は唇を噛んだのであった。
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