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第1問 理不尽な目覚め【出題編】

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 郷に入れば郷に従え――なんて言葉があったりするが、好んでこんなところに軟禁されているわけではない。とりあえず生きるために最低限必要なものは揃っているわけだが、そもそもここに軟禁される理由も分からないし、今後どうなるかも分からない。もしかすると、食糧が尽きてもここに軟禁され続けるのかもしれないし、ほんの1時間後に解放される可能性だってゼロではない。とにかく、郷に入れば――が指すところの【郷】が、あまりにも得体の知れないものとなっている。

 ふと、その時のことだった。急にサイレンのような音が部屋に鳴り響く。まるで甲子園の試合開始と試合終了を告げる時のような音だ。小野寺が食糧庫から戻ると、部屋に変化が起き始めていた。

 本来ならば何もなかったはずの壁。そこがシャッターのように開く。さしずめ、隠し金庫といった感じで壁の中から姿を現したのは――随分と古いテレビだった。俗にいうブラウン管というやつであり、右側にはチャンネルを変えるためのダイヤルらしきものがついている。テレビが三種の神器と呼ばれていた時代を彷彿させるものだ。創作物の中や、昔の映像の中で見たことはあるものの、実物を見るのは初めてだった。

「こりゃ、随分と懐かしいものが出てきたもんだ――」

 足掻いても仕方がないと、この状況を受け入れてしまっているのか。ブラウン菅のテレビを見た出雲は懐かしそうに目を細める。テレビが完全に姿を現わすと、出雲と小野寺が近づいてさえいないのにテレビが点いた。ぼんやりと、ゆっくりと色がついていくブラウン菅テレビ。モノラルであろうスピーカーからは安っぽいBGMと手拍子が流れ始めた。

「なんだ……これ」

 分からないことばかり。はっきり言って分からないことばかりだった。自分達がここに軟禁されている理由。突如として壁の中から現れたブラウン菅のテレビ。そして、なんの前触れもなくブラウン菅に映ったのは、クイズ番組らしきセットと、その中央で手拍子をしている七三分けの男。画面の左上には時刻らしきものが表示されている。

 時刻は9時45分。窓の外は青空が広がっているということは、現在午前9時45分ということか。普段の生活からすると、かなり寝坊をぶっこいてしまったことになる。

『さぁ、それでは記念すべき最初の解答者の方が入場です! 東京都豊島区よりお越しの数藤学さん。東京工業大学理学院にて推教授をされておられる研究者様です。その風体からはマッドサイエンティストにしか見えませんが、要注目人物の1人と言えるでしょう!』
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