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第1問 理不尽な目覚め【出題編】

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「人生は太く短く。食いたいもん食って、吸いたいもん吸って、飲みたいもん飲んで死ぬ。それでいいじゃねぇか。それに、そこの棚がインスタント食品だらけなのは、少なくとも俺のせいじゃないからな」

 出雲の言葉が右の耳から左の耳へとすり抜ける。まるで頭に入ってこない程度には、小野寺はショックを受けていた。右手の扉の先はユニットバス。左手の扉は食糧庫。その食糧庫のさらに奥にある扉は――残念ながら鍵がかかっている。ドアノブを見る限りでは、中から解鍵できないタイプのようだ。小野寺が見た限り、他に外に出られそうな扉は見当たらなかった。すなわち、現状において外に出られそうな扉はないということになる。駄目元であると分かっていながらも、小野寺は少し扉から距離をとって助走をとり、そのまま扉に体をぶつけてみた。まるでびくともしない。

「小野寺、俺も試してみたが、どうやら扉を破ることはできないらしい。それらしい道具もないし、窓の外は絶景だ。つまり、俺達はここに監禁されているってことだ。いや、行動の自由まで奪われていないから軟禁か」

 今の状況が監禁なのか軟禁なのか。正直、その違いなんてどうでもよかった。完全に閉じ込められたことを確認したゆえの焦りなのか、小野寺は苛立ちを覚えながらも妙に冷静な出雲にあたる。

「ケンさん、こんな状況なのに、よくそんなに呑気のんきなことを言っていられますね」

 小野寺自身としては、かなり棘のある言い方をしたつもりだった。ある意味、出雲を鼓舞する意味合いも含んでいるつもりだった。しかしながら、出雲から返ってきたのは大きな溜め息だけ。

「あのなぁ、どうにもならないもんはどうにもならないだろ? お前みたいに苛立ってみたところで事態が解決するんなら、いくらでも苛立ってやるし、何ならお前と小競り合いのひとつでもしてやる。でもな、そんなことをしたって何も変わらん。こういう時こそどっしりと構える。誰よりも冷静で、楽観的でいる。こういうもんはよ、人に伝染すんだよ。不安や苛立ちだってそう。感染するんだ。追い詰められた時こそ笑う――それが俺の思う刑事ってもんだ」

 出雲の言葉に、ほんの少しだけ冷静さを取り戻す小野寺。確かに、食糧や水など、生きていく上での最低限のものは揃っているし、それは数日程度でなくなるような量ではない。それに加えて、トイレと風呂が完備されているのだ。しかもアメニティーグッズも豊富。何がどうなって軟禁されているのかは分からないが、最低限のライフラインは揃っている。少なくとも今すぐ死ぬわけではない。この状況を打破するための時間は充分にある。
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