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第二話 Q&A【事件編】
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「あ、あの……。実は」
彼女が落ち着くまでどれくらい待っただろうか。坂田が何本目か分からぬ煙草をくわえた時、ゆっくりと舞香が口を開いた。そこから時間をかけて語られたものは、ある意味で想像通りであり、またある意味で予測を遥かに上回ったものだった。
部屋に入るなり、男は態度を一変させ、舞香に衣服を脱ぐように指示した。舞香が下着姿になったところで、男は粘着テープを取り出し、舞香を拘束。両手足を粘着テープで拘束し、口にも粘着テープを貼った。そして、舞香はベッドの上に転がされた。
続いて男が荷物の中から取り出したのは、黒光りするナタだった。この時点で命の危険を感じた舞香。声を出そうにも口は粘着テープで塞がれているし、手足の自由も奪われている。それでも、なんとかベッドの上で起き上がると、ナタを振り下ろした男に向かって体当たりをしたらしい。その勢いでよろけた男は、振り上げていたナタを自らの腹部に振り下ろしてしまい、そのまま絶命したそうだ。
「……なるほど。随分と間抜けなことをやってくれるじゃねぇか」
囮捜査で犯人をおびき出すつもりが、とんでもないことになってしまった。この状態で応援を呼ぶわけにはいかないが、しかしこのままにしておくということもできない。
「坂田、どうする? さすがにこのままにしておくわけにはいかないと思うんだが」
改めてシーツをめくり、男の遺体を眺めると、坂田は唇を舌で舐める。
「いや、このままずらかったほうがいいな。警察には遅かれ早かれ誰かが通報するだろう。わざわざ俺達が警察を呼んでやる義理はねぇ」
常識的に考えれば、ここは警察に連絡を入れるべきだった。しかしながら、そうなってしまうと舞香はもちろんのこと、下手をすると巌鉄と坂田も警察に拘束されてしまうおそれがある。被疑者という意味合いでなくとも、事件関係者としての事情聴取は免れない。今、誰も身動きができなくなるのは避けたいところだ。
「しかしだな――」
「今、警察を呼んだとして、俺達には不利益しかねぇだろう? 下手すりゃ女に殺人の容疑がかかるかもしれない。おっさん、大体、これまでの経緯を話されて、はいそうですかって納得できるか?」
坂田の言葉に返すことができなかった。舞香の証言を鵜呑みにするほど、まず警察も馬鹿ではない。
「それに、ちょっと確かめなきゃいけないことがある。そのためにも、今は警察なんて面倒な連中を介入させたくねぇ」
坂田は坂田で考えがあるらしい。ここは本心ではないが、坂田の言っていることに従うしかなさそうだ。
彼女が落ち着くまでどれくらい待っただろうか。坂田が何本目か分からぬ煙草をくわえた時、ゆっくりと舞香が口を開いた。そこから時間をかけて語られたものは、ある意味で想像通りであり、またある意味で予測を遥かに上回ったものだった。
部屋に入るなり、男は態度を一変させ、舞香に衣服を脱ぐように指示した。舞香が下着姿になったところで、男は粘着テープを取り出し、舞香を拘束。両手足を粘着テープで拘束し、口にも粘着テープを貼った。そして、舞香はベッドの上に転がされた。
続いて男が荷物の中から取り出したのは、黒光りするナタだった。この時点で命の危険を感じた舞香。声を出そうにも口は粘着テープで塞がれているし、手足の自由も奪われている。それでも、なんとかベッドの上で起き上がると、ナタを振り下ろした男に向かって体当たりをしたらしい。その勢いでよろけた男は、振り上げていたナタを自らの腹部に振り下ろしてしまい、そのまま絶命したそうだ。
「……なるほど。随分と間抜けなことをやってくれるじゃねぇか」
囮捜査で犯人をおびき出すつもりが、とんでもないことになってしまった。この状態で応援を呼ぶわけにはいかないが、しかしこのままにしておくということもできない。
「坂田、どうする? さすがにこのままにしておくわけにはいかないと思うんだが」
改めてシーツをめくり、男の遺体を眺めると、坂田は唇を舌で舐める。
「いや、このままずらかったほうがいいな。警察には遅かれ早かれ誰かが通報するだろう。わざわざ俺達が警察を呼んでやる義理はねぇ」
常識的に考えれば、ここは警察に連絡を入れるべきだった。しかしながら、そうなってしまうと舞香はもちろんのこと、下手をすると巌鉄と坂田も警察に拘束されてしまうおそれがある。被疑者という意味合いでなくとも、事件関係者としての事情聴取は免れない。今、誰も身動きができなくなるのは避けたいところだ。
「しかしだな――」
「今、警察を呼んだとして、俺達には不利益しかねぇだろう? 下手すりゃ女に殺人の容疑がかかるかもしれない。おっさん、大体、これまでの経緯を話されて、はいそうですかって納得できるか?」
坂田の言葉に返すことができなかった。舞香の証言を鵜呑みにするほど、まず警察も馬鹿ではない。
「それに、ちょっと確かめなきゃいけないことがある。そのためにも、今は警察なんて面倒な連中を介入させたくねぇ」
坂田は坂田で考えがあるらしい。ここは本心ではないが、坂田の言っていることに従うしかなさそうだ。
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