上 下
92 / 139
第二話 Q&A【事件編】

37

しおりを挟む
「大丈夫か? 一体、何があったんだ!」

 舞香の姿に思わず駆け寄った巌鉄だったが、部屋の一角に広がる光景に思わず息を飲んだ。坂田は冷静な様子で、その一角へと向かう。

 そこだけ明らかに異色だった。真っ赤な色が壁際まで飛び散り、床には赤黒い水溜りができている。その水溜りの中心には、両足を前に投げ出し、壁に寄りかかっている男の姿があった。腹部にはナタらしきものが突き刺さったままで、ぱっと見ただけでも絶命しているのは明らかだった。舞香と一緒に部屋に入った男だろう。

 とりあえず舞香の口から粘着テープを外してやる。呼吸まで奪われていたわけではないだろうに、舞香は酸素を求めるかのごとく大きく息を吸い、そして安堵のようなものと一緒に吐き出した。

「へ、部屋に入るなり、あの男の態度が変わって――急にナタみたいなのを取り出して」

 当然ながら混乱しているらしく、呼吸困難のように息を途切れ途切れにしつつ、言葉を詰まらせる舞香。両手足の粘着テープを剥がしてやると、上着を被せてやる。

「とにかく、応援を呼ぼう。俺達だけじゃ対応できんだろ」

 部屋に入るなり拘束されていた舞香。そして、絶命していた男。あまりにも情報量が多すぎるが、人が死んでいる以上、自分達だけで対処するわけにはいかない。

「いや、やめとけ。この状況だとあまりよろしくないことになりそうだ。それに、おっさんも組織を介さずに勝手にやってることだろ? 色々と面倒なことになるから絶対にやめたほうがいい」

 亡骸となったであろう男のことを調べつつ、坂田はぽつりと呟き落とした。確かに、今回の囮捜査は違法である上に巌鉄が勝手にやったことだ。それに、なりよりも密室にいたのは舞香と男の2人のみ。そのうち、男のほうが殺されたというのであれば、必然的に舞香の仕業ということになる。

「いや、しかし……」

「とにかく、女がまともに話せるようになるまでは待て。ここで何が起きたのか、女の口から直接聞きたい。どうするかを判断するのは、それからでもいい」

 坂田はそう言うと、ベッドから申し訳程度の厚さの布団を剥ぎ取り、それを男にかけた。臭いものに蓋をするわけではないが、ホテルということもあってそれなりに大きな布団であるがゆえ、男の姿は血溜まりも含めて見えなくなった。舞香への配慮だろう。

「女、ゆっくりで構わない。ここで何が起きたのかを話せ」

 しかし、舞香は巌鉄の上着を羽織ったまま、体育座りで震えているだけ。顔色も明らかに悪いが、見た限り彼女に怪我はないようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

設計士 建山

如月 睦月
ミステリー
一級建築士 建山斗偉志(たてやま といし)小さいながらも事務所を構える彼のもとに、今日も変な依頼が迷い込む。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

黄昏の暁は密室に戯れるか

鬼霧宗作
ミステリー
【お詫び】 第10話の内容が、こちらの手違いにより怪文書となっておりました。すでに修正済みですので、いまちど10話からお読みいただくと幸いです。 申し訳ありませんでした。 これは、よくある物語。 ある空間に集められた8人の男女が、正体不明の殺人鬼に次々と殺害され、お互いに疑心暗鬼に陥っていく。 これは、よくある物語。 果たして犯人は誰なのか。 人が死ぬたびに与えられるヒントを頼りに、突きつけられた現実へと立ち向かうのであるが――。 その結末は果たして。 ルールその1 犯人は1人である。複数ということはない。 ルールその2 犯人は地下室の人間の中にいる。 ルールその3 犯人が解った人間は解答室で解答する。解答権は1人に付き一回。正解なら賞金一億。間違えた場合は死ぬ。 ルールその4 タイムリミットは48時間。タイムリミットまでに犯人を特定できない場合は全員死ぬ。 ルールその5 1人死ぬ度に真実に関するヒントを与える。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...