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第二話 Q&A【事件編】

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「大丈夫か? 一体、何があったんだ!」

 舞香の姿に思わず駆け寄った巌鉄だったが、部屋の一角に広がる光景に思わず息を飲んだ。坂田は冷静な様子で、その一角へと向かう。

 そこだけ明らかに異色だった。真っ赤な色が壁際まで飛び散り、床には赤黒い水溜りができている。その水溜りの中心には、両足を前に投げ出し、壁に寄りかかっている男の姿があった。腹部にはナタらしきものが突き刺さったままで、ぱっと見ただけでも絶命しているのは明らかだった。舞香と一緒に部屋に入った男だろう。

 とりあえず舞香の口から粘着テープを外してやる。呼吸まで奪われていたわけではないだろうに、舞香は酸素を求めるかのごとく大きく息を吸い、そして安堵のようなものと一緒に吐き出した。

「へ、部屋に入るなり、あの男の態度が変わって――急にナタみたいなのを取り出して」

 当然ながら混乱しているらしく、呼吸困難のように息を途切れ途切れにしつつ、言葉を詰まらせる舞香。両手足の粘着テープを剥がしてやると、上着を被せてやる。

「とにかく、応援を呼ぼう。俺達だけじゃ対応できんだろ」

 部屋に入るなり拘束されていた舞香。そして、絶命していた男。あまりにも情報量が多すぎるが、人が死んでいる以上、自分達だけで対処するわけにはいかない。

「いや、やめとけ。この状況だとあまりよろしくないことになりそうだ。それに、おっさんも組織を介さずに勝手にやってることだろ? 色々と面倒なことになるから絶対にやめたほうがいい」

 亡骸となったであろう男のことを調べつつ、坂田はぽつりと呟き落とした。確かに、今回の囮捜査は違法である上に巌鉄が勝手にやったことだ。それに、なりよりも密室にいたのは舞香と男の2人のみ。そのうち、男のほうが殺されたというのであれば、必然的に舞香の仕業ということになる。

「いや、しかし……」

「とにかく、女がまともに話せるようになるまでは待て。ここで何が起きたのか、女の口から直接聞きたい。どうするかを判断するのは、それからでもいい」

 坂田はそう言うと、ベッドから申し訳程度の厚さの布団を剥ぎ取り、それを男にかけた。臭いものに蓋をするわけではないが、ホテルということもあってそれなりに大きな布団であるがゆえ、男の姿は血溜まりも含めて見えなくなった。舞香への配慮だろう。

「女、ゆっくりで構わない。ここで何が起きたのかを話せ」

 しかし、舞香は巌鉄の上着を羽織ったまま、体育座りで震えているだけ。顔色も明らかに悪いが、見た限り彼女に怪我はないようだ。
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