上 下
4 / 173
第一話 コレクター【プロローグ】

4

しおりを挟む
「くそ、ついてねぇなぁ……」

 路地の両側は、建物の2階ほどの高さのある塀。目の前には見上げるほどの高さの壁。高層ビルに取り囲まれ、世間から取り残されてしまった小さなアンダーグラウンドから脱出する手立てを奪ったのは、まさか高層ビルの壁だとは。

「こっちだ!」

 その声に振り返る。追っ手の数は明らかに増えていた。もう、坂田に逃げ場はないと察したのか。路地の向こう側からゆっくりと集団が歩いてくる。その先頭には、名前のごとく髪を銀に染めた長髪の男の姿があった。両手、首元にはシルバーアクセサリーが光る。銀山だった。

「坂田ちゃん。やってくれたねぇ。お前なら、いつか俺に牙をむくんじゃねぇかって思ってたけどよ、まさかこんな形で歯向かってくれるとは――やるじゃない」

 ここから脱する手立てはないか。考えながらも、銀山の言葉に反応を示す坂田。

「言っとくが、俺はお前の下についたつもりはねぇ。勝手にお前らが俺に絡んできただけだろ?」

「へぇ……いつも楠野と一緒にいるから、てっきりお前は俺の身内だと思っていたんだけど」

 楠野という男は、幼い頃からの腐れ縁だった。彼は例外として、坂田は集団での行動を好まない。特に他人と群れることを良しとしなかった。このアンダーグラウンドに出入りするようになった時も1人だった。今はチームの溜まり場となってしまった【グラウンドゼロ】という店だって、元は坂田が好んで居座っていた店だ。

「あいつとは付き合いが長いんだよ。あんたらと違ってな。まさか、こんなところで再会することになるとは思わなかったが」

 居場所がない。それは、この街に集まってくる人間に共通している点なのかもしれない。世の中に息苦しさを覚え、自分の居場所を求めた人間が集まる街。雨立街。まるで水を失った魚が水を求めて集まったような街。元より似たり寄ったりの楠野と、坂田がこの街で再会したのは、もはや必然だったのかもしれない。もっとも、余計なおまけが勘違いでついてきてしまったわけだが。坂田はこれを機会とばかりに言葉を連ねる。かねてよりの悪友――その悪友が属しているグループをまとめている男だからこそ、これまでぐっと堪えてきたのだが、我慢の限界というものがある。坂田は続けた。

「ちなみに【グラウンドゼロ】のマスターも迷惑そうだったぜ。お前らみたいな質の悪い連中に溜まり場にされてよ。まぁ、この街で商売するってことは、それなりの覚悟があるんだろうが、ガキは金も落とさねぇからな」

 坂田の言葉を鼻で笑うと、すっと手を差し出す銀山。近くにいた男が、金属バットを手渡した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

白い男1人、人間4人、ギタリスト5人

正君
ミステリー
20人くらいの男と女と人間が出てきます 女性向けってのに設定してるけど偏見無く読んでくれたら嬉しく思う。 小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

処理中です...