上 下
3 / 178
第一話 コレクター【プロローグ】

3

しおりを挟む
 仲間内の紫衣流――穂積紫衣流ほづみしえるが殺されたのは今日の昼間のことだった。たまたま第一発見者となってしまったのが、彼こそ坂田仁さかたじんだったのも、周囲から疑われる原因となったのだろう。

「まだサツには通報してねぇみてぇだな。まぁ、サツなんてたかがしれてる」

 独り言を漏らしつつ、坂田は取り出し口から飲み物を取り出す。たまたま購入する形になったのは、ブラックコーヒーだった。その黒光りする缶に舌打ちをひとつ。

「……俺は甘ぇのしか飲まねぇんだよ」

 しかしながら、しっかりと喉は乾いているし、贅沢なんて言ってはいられない。坂田は覚悟を決めると、コーヒーを一気に飲み干した。が、当然のように咳き込んでしまう。

「くそっ、苦ぇなぁ」

 とにもかくにも、多少喉を潤わせることはできた。呼吸もある程度整ったし、そろそろ動いたほうがいい。

「にしても、メンバー総動員となると、見つかるのも時間の問題だな」

 先ほどの話だと、なぜか坂田が属していることになっているグループのリーダーである銀山誉かなやまほまれは、かなりの人数を動員して坂田を探しているらしい。当然ながら、あいつらは司法機関ではないし、冷静な判断を下せるほど頭も良くない。無実を訴えたところで、集団になってボコボコにしようとしてくるのが関の山だ。とりあえず、この街を離れたほうがいいだろう。

 銀山のやつらは頭から坂田が犯人だと決めつけている。この街のシンボルと言っても過言ではない赤色灯が、まだなりをひそめているということは、警察に通報はされていないのだろう。まぁ、意味もなく警察のことを嫌っている連中のことだから、そもそも通報をするという発想がないのかもしれない。

「仕方ねぇ。あいつに連絡入れてみるか」

 ぽつりと呟いた時、路地のさらに奥から数名の男が飛び出してくる。たまたま自動販売機の前にいたため、その明かりに照らされた坂田の顔を見たのか、男は声を荒げる。

「いたぞ! 囲めっ!」

 あちらの数は3人。やろうと思えば相手にできない人数ではない。しかし、あまり時間をかけてしまうと、それこそ本当に取り囲まれてしまうおそれがある。さすがの坂田も人海戦術には勝てる気がしなかった。

 坂田は力一杯地面を蹴ると、男達と反対側の路地に向かって駆け出した。途中で別の路地から飛び出てきた男が目の前に立ちはだかるが、飛び蹴りで軽くいなし、その男を足蹴に路地を駆け抜ける。

 しかし、雨立街は庭と呼ぶにはいささか複雑すぎた。てっきり抜けられると思っていた路地を進んだ先には、壁がそびえ立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純一
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

処理中です...