召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第一章

五十四話

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 授業自体は好評を博して終わり、聞きたかった情報も無事に得ることができた。結果分かったことが二つあった。

 一つは記憶改ざん魔法が完全に解除されていること。これについては心の底から安堵した。

 二つめはロゼリアが魔術師専攻に所属していたということを、誰も覚えていなかったということ。契約術師専攻でロゼリアの記憶が誰もなかったのはわかる。イトナがそこにいた記憶として脳が処理をしているからだ。けれど魔術師専攻なら、イトナがそこにいた記憶が無くなり、ロゼリアがいた記憶が残るはずだった。

 限られた者のみが触れることが許された、歴代の生徒や教師の名前が記されている名簿には、確かにロゼリアの名前が記されていた。だからイトナと入れ替わる前は確実に在籍していたはずなのだ。名簿にはどんな魔法も弾いてしまう特別な魔法がかかっている。これをロゼリアが破るのは難しいものがあるのだろう。

 ロゼリアが在籍していたという記憶がないのは、ロゼリアに魔法を譲渡したクライシスが関係してくるに違いない。そこまで踏まえて、ベルは一つの決意をした。それを成すためにもまずは、ロセウスたちの同意と国王への報告をしなければならない。

 学院のすぐ近くにある王城へと向かう途中でそのことを話せば、ロセウスたちもついていくという条件の元、許可を得ることができた。ベルとしても元々そのつもりだったので、条件というほどのものでもなかった。

 王城にいる国王、エドアルドを尋ねるとすぐに中へと通された。

 エドアルドは最初に訪ねたときと同じ部屋にいた。すぐにソファへと案内され、ロセウスたちがソファの後ろへ控える中、一人ソファへと座る。

 エドアルドに話を促され頷くと、今回の事件について詳細を話し、その上で一つの報告をした。もちろん前の世界のことについてはロセウスたちにも伝えていないので、エドアルドにも話していない。

「クライシスの件について、私だけでは分からないことが多すぎるのです。ですから、他の輝人に会いに行ってみようと思いまして」

「他国の輝人、ですか」

「はい」

 ベルが他国へ出向くということは、一時的にではあるがナツゥーレを離れるということ。目覚めたばかりなのに、他国へ行ってしまうということに懸念を抱いているのだろう。しかしそんな懸念は無意味だ。ベルはナツゥーレの輝人。他国へ行くからといって、それが変わるはずもない。それに他国へ行っても、ナツゥーレとは見えない繋がりでずっと繋がっている。どこにいても、ナツゥーレの異変にはすぐ気づけるのだ。

 けれどエドアルドの懸念も理解はできる。なので期間を定めて他国へ行くことを告げれば、渋々といった感じではあるものの、首を縦に振ってもらえることができた。ロセウスたちからすれば、なぜエドアルドの気持ちまで汲まなければならないのか、と思うことだろう。これから長く付き合っていくのなら、なるべく円満な関係を築きたいベルは、そんな雰囲気を醸し出すロセウスたちに苦笑しながら、これから行く国名を挙げた。

「ハクノウに行ってみようと思いまして」

 雪国、ハクノウ。ナツゥーレを中心として北側、つまりは上部に位置する国だ。年中寒く、いつ訪れても雪が高く積もっている。行くにはそれ相応の準備が必要となる。

「ハクノウ国ですか。あそこの国にいるの輝人はラヴィック・フロース様でしたね」

「はい。それにラヴィ……ラヴィックの所であれば、エリオットもいる可能性が高いですし」

 ナツゥーレを中心にて南側、つまりは下部に位置する年中常夏の国、サマーウス。そのサマーウスの輝人がエリオット・フォードだ。

 二人は、国が違えどほぼ同時期に輝人となった珍しい輝人だ。性格はほぼ正反対といっていいほど違うのに、気が合うのかゲームの中ではよく一緒にいるのを見かけた。

 ベル以外の輝人は数百年を軽く生きている。そのためベルが知らないことも知っていることが多い。だからとりあえずで訪ねるのなら、二人の意見を同時に聞ける場所に行きたかった。

 エリオットの名も挙げれば、エドアルドはそうだと思い出したように側近に何かを取ってくるように指示を出した。側近の男性はエドアルドの仕事机から一枚の封筒を手に取ると、それをそのままベルに渡した。

 一見、真っ白な封筒だがよく見てみれば、細かなデザインが施されている上品な封筒だった。宛名はベルで、差出人の名前を探してみれば、封筒の左下にはエリオット・フォードの名前が書かれていた。住所がどこにも書かれていないということは、エドアルド宛ての手紙などとともに送ってきたのだろう。

 封は蝋でしっかりと閉じられており、誰もまだ中身を確認していないようだ。

「開けても?」

「もちろんです」

 封を破り、中から手紙を取り出す。

 そこには読みやすい丁寧な字で、ベルが目覚めたことへの喜びと、現在はハクノウに滞在しており、近いうちにサマーウスへ帰るのでそのついでにナツゥーレを訪ねる旨が記されていた。最後には乱雑な字で『俺も行くからな!』と書かれている。これはラヴィックの字だろう。

「この手紙が届いたのはいつ頃ですか?」

「つい数時間前です。しかしハクノウから届いたとなると、手紙を出したのは一週間ほど前かもしれませんね。差し支えなければ手紙の内容をお聞きしてもよろしいですか?」

 ハクノウとナツゥーレが隣国だとしても、ハクノウにあるラヴィックの家からここまではかなり距離がある。手紙を出した本人と手紙が同日につく、ということもこの世界ではよくある話だ。

 ともあれ、ラヴィックとエリオットはまだナツゥーレにあるベルの家を訪ねてきていない。あと少しでも手紙が届くのが遅ければ、入れ違いになっていたところだったとほっと息をついた。
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