54 / 136
第一章
五十三話
しおりを挟む
もう一つの目的。それはイトナとロゼリアが入れ替わっていた魔術師専攻の教室だった。
ロゼリアの魔法がイトナ以外で一番強くかかっていたのは、契約術師専攻と魔術師専攻の生徒と担任の先生たちだ。ルーク以外も記憶改ざん魔法が解けているかどうか確かめるには、この二クラスを確認した方が手っ取り早い。契約術師専攻は、アンジェリカと軽く話した感じでは大丈夫そうだった。残るは魔術師専攻だけである。授業が始まってしん、となった廊下を召喚獣三人と歩いていく。別の専攻なだけあり教室は離れていたが、ロセウスたちが教室の場所をしっかりと覚えていてくれたおかげで道に迷わずに済んだ。
しかしある一つの壁がベルの前に立ちはだかる。
「そうだった。外から授業の様子が見えないんだった」
教室で実践することもあるので、建物自体が強固に作られている。安全重視の設計をしているため、ガラス等は一切ない。教室の中を覗くには教室の扉を開けなければいけなかった。
どうしようかと悩んでいると、背後から声をかけられた。
「ベル様? どうしてこちらに?」
振り返ると、そこにはラシードがいた。
ラシードには昨日の段階で学校に来ると告げてあったが、どうして魔術師専攻の教室魔にいるのか不思議だったのだろう。簡単に理由を説明すれば、なるほどと顎に手を当てて何かを考えていた。
「ベル様はこちらの教室にいる生徒たちにかけられた、記憶改ざん魔法が解除されたかどうかを確認をしたいのですね」
「はい。ですが理由もなく訪ねるのもいかがなものかと、思案していたところなのです」
ベルが訪ねたところで、教師や生徒は何も言わないだろうが、不信感を抱くものは必ず出てくるはずだ。抱かなくていい不信感をわざわざ覚えさせる必要はない。
「そうですね……。ところでベル様の召喚獣、ロセウス様、アーテル様、アルブス様は魔法をお使いになられますよね」
「もちろん」
「ではこうしたらどうでしょう? ベル様の召喚獣様たちが魔術師専攻の生徒へ魔法を教えるというのは。この大義名分でしたら、怪しまれず教室の中へ入れると思います」
ラシードの口から出てきたのは、ありがたい助け船で。ベルたちはその案に乗っかることにした。
お願いをすると、ラシードが早速教室の扉のノックし、中に入っていく。ナツゥーレ国の王子だから、ラシードの顔は誰もが知っている。そんな王子がまさか魔術師専攻の教室へ尋ねてくるとは思ってもみなかったのだろう。教室は廊下にいるベルにもわかるほどざわついていた。
少ししてラシードが先生を伴って廊下に出てきた。表情を見る限り許可は取れたようだ。
この教室の担任である女性の先生は、恐れ多いと思っているのか、ひたすらベルに頭を下げていた。ベルの私用でもあるので、なんだか申し訳なくなってくる。けれど詳細を語るわけにはいかないので、ベルは苦笑するしかなかった。
教室の中に入ると、生徒からの視線を一身に浴びる。
最近では注目を浴びることが幾度となくあったからか、注目を浴びても緊張することがなくなってきた。
(慣れって怖いなあ)
そんなことを思いながらも、それだけ『召喚術師はじめました』の世界に馴染んできたのだとしみじみと感じる。
ロセウスたちと教壇に立つと授業の概要を説明した。
「初めまして、輝人であり、召喚術師でもあるベル・ステライトです。急にではありますが、少しだけこの授業の講師をすることになりました。といっても、輝人なので魔法は使えないのですが……。なので私の召喚獣たちが皆の講師をすることになります」
そういって、三人の名前と得意な魔法を紹介した。
魔術師専攻の生徒は、一様にロセウスたちの魔法を見て目を輝かせていた。教室内だから手加減をしているとはいっても、生徒たちが見たこともないような綺麗で威力のある魔法だったからだろう。
魔術師専攻はその名の通り、魔術を学ぶ専攻だ。そこで魔法と魔術は違うのかという疑問が、知らない人からすれば出てくるだろう。魔法と魔術。その違いは、魔術の方が一工程が多いだけなのだ。なので教える内容にほぼ変わりはない。
魔術というものは、呪文を唱えたり、魔法陣を書いたり、杖などを媒体にして威力を上げた魔法のことを指す。だから魔法しか使わないロセウスたちでも、十分に先生役をすることができるのだ。むしろ魔術を使わず、純粋な魔力だけで戦闘が出来るほど強力な魔法を放つことができるから、教えるにはぴったりなのかもしれない。
三人も手ほどきをする者がいるので、契約獣の人化をベルが教えていたときよりも、スムーズに教えることができた。しかし本題は教えることではなく、生徒たちにかかっていた記憶改ざん魔法が解除されているかどうかの確認だ。
ベルは魔力の流れを視て、こう流した方が威力が高まり、無駄な魔力を使わずに済むなどとたまに先生として加わりながら、それとなく話を聞いていった。
ロゼリアの魔法がイトナ以外で一番強くかかっていたのは、契約術師専攻と魔術師専攻の生徒と担任の先生たちだ。ルーク以外も記憶改ざん魔法が解けているかどうか確かめるには、この二クラスを確認した方が手っ取り早い。契約術師専攻は、アンジェリカと軽く話した感じでは大丈夫そうだった。残るは魔術師専攻だけである。授業が始まってしん、となった廊下を召喚獣三人と歩いていく。別の専攻なだけあり教室は離れていたが、ロセウスたちが教室の場所をしっかりと覚えていてくれたおかげで道に迷わずに済んだ。
しかしある一つの壁がベルの前に立ちはだかる。
「そうだった。外から授業の様子が見えないんだった」
教室で実践することもあるので、建物自体が強固に作られている。安全重視の設計をしているため、ガラス等は一切ない。教室の中を覗くには教室の扉を開けなければいけなかった。
どうしようかと悩んでいると、背後から声をかけられた。
「ベル様? どうしてこちらに?」
振り返ると、そこにはラシードがいた。
ラシードには昨日の段階で学校に来ると告げてあったが、どうして魔術師専攻の教室魔にいるのか不思議だったのだろう。簡単に理由を説明すれば、なるほどと顎に手を当てて何かを考えていた。
「ベル様はこちらの教室にいる生徒たちにかけられた、記憶改ざん魔法が解除されたかどうかを確認をしたいのですね」
「はい。ですが理由もなく訪ねるのもいかがなものかと、思案していたところなのです」
ベルが訪ねたところで、教師や生徒は何も言わないだろうが、不信感を抱くものは必ず出てくるはずだ。抱かなくていい不信感をわざわざ覚えさせる必要はない。
「そうですね……。ところでベル様の召喚獣、ロセウス様、アーテル様、アルブス様は魔法をお使いになられますよね」
「もちろん」
「ではこうしたらどうでしょう? ベル様の召喚獣様たちが魔術師専攻の生徒へ魔法を教えるというのは。この大義名分でしたら、怪しまれず教室の中へ入れると思います」
ラシードの口から出てきたのは、ありがたい助け船で。ベルたちはその案に乗っかることにした。
お願いをすると、ラシードが早速教室の扉のノックし、中に入っていく。ナツゥーレ国の王子だから、ラシードの顔は誰もが知っている。そんな王子がまさか魔術師専攻の教室へ尋ねてくるとは思ってもみなかったのだろう。教室は廊下にいるベルにもわかるほどざわついていた。
少ししてラシードが先生を伴って廊下に出てきた。表情を見る限り許可は取れたようだ。
この教室の担任である女性の先生は、恐れ多いと思っているのか、ひたすらベルに頭を下げていた。ベルの私用でもあるので、なんだか申し訳なくなってくる。けれど詳細を語るわけにはいかないので、ベルは苦笑するしかなかった。
教室の中に入ると、生徒からの視線を一身に浴びる。
最近では注目を浴びることが幾度となくあったからか、注目を浴びても緊張することがなくなってきた。
(慣れって怖いなあ)
そんなことを思いながらも、それだけ『召喚術師はじめました』の世界に馴染んできたのだとしみじみと感じる。
ロセウスたちと教壇に立つと授業の概要を説明した。
「初めまして、輝人であり、召喚術師でもあるベル・ステライトです。急にではありますが、少しだけこの授業の講師をすることになりました。といっても、輝人なので魔法は使えないのですが……。なので私の召喚獣たちが皆の講師をすることになります」
そういって、三人の名前と得意な魔法を紹介した。
魔術師専攻の生徒は、一様にロセウスたちの魔法を見て目を輝かせていた。教室内だから手加減をしているとはいっても、生徒たちが見たこともないような綺麗で威力のある魔法だったからだろう。
魔術師専攻はその名の通り、魔術を学ぶ専攻だ。そこで魔法と魔術は違うのかという疑問が、知らない人からすれば出てくるだろう。魔法と魔術。その違いは、魔術の方が一工程が多いだけなのだ。なので教える内容にほぼ変わりはない。
魔術というものは、呪文を唱えたり、魔法陣を書いたり、杖などを媒体にして威力を上げた魔法のことを指す。だから魔法しか使わないロセウスたちでも、十分に先生役をすることができるのだ。むしろ魔術を使わず、純粋な魔力だけで戦闘が出来るほど強力な魔法を放つことができるから、教えるにはぴったりなのかもしれない。
三人も手ほどきをする者がいるので、契約獣の人化をベルが教えていたときよりも、スムーズに教えることができた。しかし本題は教えることではなく、生徒たちにかかっていた記憶改ざん魔法が解除されているかどうかの確認だ。
ベルは魔力の流れを視て、こう流した方が威力が高まり、無駄な魔力を使わずに済むなどとたまに先生として加わりながら、それとなく話を聞いていった。
0
お気に入りに追加
672
あなたにおすすめの小説
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話
めるの
恋愛
仕事に疲れたアラサー女子ですが、気付いたら超絶美少女であるアナスタシアのからだの中に!
魅了の魔力を持つせいか、わがまま勝手な天才魔術師や犬属性の宰相子息、Sっ気が強い王様に気に入られ愛される毎日。
幸せだけど、いつか醒めるかもしれない夢にどっぷり浸ることは難しい。幸せになりたいけれど何が幸せなのかわからなくなってしまった主人公が、人から愛され大切にされることを身をもって知るお話。
※主人公以外の視点が多いです。※他サイトからの転載です
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!
結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)
でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない!
何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ…………
……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ?
え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い…
え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back…
ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子?
無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布!
って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない!
イヤー!!!!!助けてお兄ー様!
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる