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第一章

五十三話

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 もう一つの目的。それはイトナとロゼリアが入れ替わっていた魔術師専攻の教室だった。

 ロゼリアの魔法がイトナ以外で一番強くかかっていたのは、契約術師専攻と魔術師専攻の生徒と担任の先生たちだ。ルーク以外も記憶改ざん魔法が解けているかどうか確かめるには、この二クラスを確認した方が手っ取り早い。契約術師専攻は、アンジェリカと軽く話した感じでは大丈夫そうだった。残るは魔術師専攻だけである。授業が始まってしん、となった廊下を召喚獣三人と歩いていく。別の専攻なだけあり教室は離れていたが、ロセウスたちが教室の場所をしっかりと覚えていてくれたおかげで道に迷わずに済んだ。

 しかしある一つの壁がベルの前に立ちはだかる。

「そうだった。外から授業の様子が見えないんだった」

 教室で実践することもあるので、建物自体が強固に作られている。安全重視の設計をしているため、ガラス等は一切ない。教室の中を覗くには教室の扉を開けなければいけなかった。

 どうしようかと悩んでいると、背後から声をかけられた。

「ベル様? どうしてこちらに?」

 振り返ると、そこにはラシードがいた。

 ラシードには昨日の段階で学校に来ると告げてあったが、どうして魔術師専攻の教室魔にいるのか不思議だったのだろう。簡単に理由を説明すれば、なるほどと顎に手を当てて何かを考えていた。

「ベル様はこちらの教室にいる生徒たちにかけられた、記憶改ざん魔法が解除されたかどうかを確認をしたいのですね」

「はい。ですが理由もなく訪ねるのもいかがなものかと、思案していたところなのです」

 ベルが訪ねたところで、教師や生徒は何も言わないだろうが、不信感を抱くものは必ず出てくるはずだ。抱かなくていい不信感をわざわざ覚えさせる必要はない。

「そうですね……。ところでベル様の召喚獣、ロセウス様、アーテル様、アルブス様は魔法をお使いになられますよね」

「もちろん」

「ではこうしたらどうでしょう? ベル様の召喚獣様たちが魔術師専攻の生徒へ魔法を教えるというのは。この大義名分でしたら、怪しまれず教室の中へ入れると思います」

 ラシードの口から出てきたのは、ありがたい助け船で。ベルたちはその案に乗っかることにした。

 お願いをすると、ラシードが早速教室の扉のノックし、中に入っていく。ナツゥーレ国の王子だから、ラシードの顔は誰もが知っている。そんな王子がまさか魔術師専攻の教室へ尋ねてくるとは思ってもみなかったのだろう。教室は廊下にいるベルにもわかるほどざわついていた。

 少ししてラシードが先生を伴って廊下に出てきた。表情を見る限り許可は取れたようだ。

 この教室の担任である女性の先生は、恐れ多いと思っているのか、ひたすらベルに頭を下げていた。ベルの私用でもあるので、なんだか申し訳なくなってくる。けれど詳細を語るわけにはいかないので、ベルは苦笑するしかなかった。

 教室の中に入ると、生徒からの視線を一身に浴びる。

 最近では注目を浴びることが幾度となくあったからか、注目を浴びても緊張することがなくなってきた。

(慣れって怖いなあ)

 そんなことを思いながらも、それだけ『召喚術師はじめました』の世界に馴染んできたのだとしみじみと感じる。

 ロセウスたちと教壇に立つと授業の概要を説明した。

「初めまして、輝人であり、召喚術師でもあるベル・ステライトです。急にではありますが、少しだけこの授業の講師をすることになりました。といっても、輝人なので魔法は使えないのですが……。なので私の召喚獣たちが皆の講師をすることになります」

 そういって、三人の名前と得意な魔法を紹介した。

 魔術師専攻の生徒は、一様にロセウスたちの魔法を見て目を輝かせていた。教室内だから手加減をしているとはいっても、生徒たちが見たこともないような綺麗で威力のある魔法だったからだろう。

 魔術師専攻はその名の通り、魔術を学ぶ専攻だ。そこで魔法と魔術は違うのかという疑問が、知らない人からすれば出てくるだろう。魔法と魔術。その違いは、魔術の方が一工程が多いだけなのだ。なので教える内容にほぼ変わりはない。

 魔術というものは、呪文を唱えたり、魔法陣を書いたり、杖などを媒体にして威力を上げた魔法のことを指す。だから魔法しか使わないロセウスたちでも、十分に先生役をすることができるのだ。むしろ魔術を使わず、純粋な魔力だけで戦闘が出来るほど強力な魔法を放つことができるから、教えるにはぴったりなのかもしれない。

 三人も手ほどきをする者がいるので、契約獣の人化をベルが教えていたときよりも、スムーズに教えることができた。しかし本題は教えることではなく、生徒たちにかかっていた記憶改ざん魔法が解除されているかどうかの確認だ。

 ベルは魔力の流れを視て、こう流した方が威力が高まり、無駄な魔力を使わずに済むなどとたまに先生として加わりながら、それとなく話を聞いていった。
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