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第一章
三十三話
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誰へ向けてなのか、その金の瞳は鋭利なものへと変化する。両方の口角が上がるが、その雰囲気は刺々しく、笑っているようには到底見えない。性別関係なく、可愛い子が好きという変わった性癖を持っているが、ヴィータは基本穏やかな性格の持ち主だ。
そんなヴィータをここまで怒らせるとは一体何をしでかしたのだろうか。
輝人ほどの実力がなければ、ヴィータに圧倒されて畏怖に支配されてしまうであろうこの空間で、ベルはヴィータの瞳を真っすぐに見返した。ヴィータはベルと視線が合うと、少しだけ怒りを和らげてくれた。しかし心に燻る炎はまだ静かに燃えていた。
「初めに言っておくわ。ロゼリア・ラワーフ。彼女はかなり危険な人物よ」
「危険? ロゼリアが? ノアは?」
「ノアに危険性はないわ。ただ……とにかくロゼリアには気をつけなさい」
ベルにはロゼリアの危険性がイマイチわからなかった。蜂蜜色の瞳と髪色をしたロゼリアの姿を脳裏に描く。小柄でなんだか守ってしまいたくなる、ふんわりとした女生徒だった。
ベルが確かめにここまできたのは、ロゼリアとノアの関係性がどこか歪に感じたからだ。しかしそれはベルの勘に過ぎない。だからこうしてここまでやってきた。けれどおかしいとは思っていても、それほど危険だとは思っていなかった。だからこれほどまでに警戒を顕わにしているヴィータに驚いてしまう。
「ロゼリアについて、私が知っていることは全て教えてあげるわ」
「うん、お願い」
そうしてヴィータから聞いたものは、到底信じられないような内容だった。
けれどそれが本当ならば、何かこれから事が起こる前に、何としてでも食い止めなければいけないだろう。ベルはヴィータにまた近いうちに来ると約束すると、獣化したロセウスたちとともに、急いで学院へと向かった。
帰途に関しては、ヴィータが気を利かせて『異界の湖』がある深い森の中から出る最短ルートを作ってくれた。ヴィータは番人であるから、『異界の湖』関係のことは大抵何でもできる。だから言葉の通り、木々を魔法で動かして、一直線の道を作ってくれたのだ。これには感謝の言葉しか出てこない。
おかげで一日もかからず、その日の夜のうちの家に戻ることができたベルたちは、何かあってからでは遅いと、明後日ではなく、明日も学院へ足を運ぶことに決め、すぐに就寝することにした。
しかし普通に特別講師として向かうのでは、些か芸がない。ベルはロゼリア本人からも情報を引き出そうと考え、目立たないように学院の正門からではなく、塀を飛び越えてこっそりと学院内に侵入した。目的のためにはまずルークに会う必要があるので、向かうのは教室ではなく学院内にあるルークの部屋だ。もちろん約束をしていないから、部屋にいない確率の方が高い。部屋にいる、という少ない確率に賭けてみた。
外から、一階にあるルークの部屋の窓をノックする。
すると中から誰かがこちらに近づいてくる気配がした。部屋にいる人物は窓の外にいるのがベルだと知るなり、すぐに開けてくれた。
「ベル様! どうしてこちらに? どうぞ中にお入りになってください」
そう言って中へ入るよう促してくれたのは、二十代ほど外見を持つ黒髪黒目の大人しそうな女性、ルークの契約獣であるソフィだった。
窓から中に入ることははしたないことではあるが、今回に限っては目立たないことが重要なので仕方がない。アーテルに抱き上げてもらい、窓から室内へと入れてもらった。
「ごめんね。窓から中に入れてもらって」
「いいえ、お気になさらないでください。何か訳あってのことなんですよね? ルークなら今、職員室にいるのであと少ししたら戻ってくると思います。でも誰かに呼ばれたりしたら、そのまま授業に入ってしまうので、私呼んできましょうか?」
さすがルークの契約獣をやっているだけあって、頭の回転が速い。すぐにこちらの意図を察した。
「そうしてくれると非常に助かる」
「わかりました。では、こちらの部屋で少々お待ちください」
ソフィは獣化して、猫又の姿に戻るとそのしなやかな体を使って、ルークの元まで走っていった。
それから待ったのは数分のことで、扉越しに誰かが走る足音が聞こえてきた。それは部屋の前でピタリと止まり、扉が開かれる。現れたのは息を切らしたルークと、ルークの肩で心配そうにその姿を見ているソフィだった。
「すみません、待たせてしまって」
「いえ、それほど待っていないので。それより急かせてしまったみたいでごめんなさい」
まさか走ってくるとは思わなかったので、肩を上下させながら息をするルークの姿に罪悪感を覚える。
ルークの息が整うのを待って、話しかけることにした。
「一日早いけど、例の調べものについて聞いても大丈夫かな?」
「はい、問題ありません。基本簡単な調べものだったので」
ルークは机の引き出しに鍵を差し込み開けると、そこから一枚の紙を取り出した。それをベルに渡し、なんともいえない表情を作っていた。その表情の原因は、ベルが調べてほしいと頼んだことが関係しているのだろう。ベルがそれに目を通せば、普通の人ならば目を疑うようなことが書かれていた。
ヴィータから教えてもらった内容と合わせれば、おおよその流れが見えてくる。そしてこれからどう行動すればいいのか、も。
人化をしてベルの後ろにも控えている三人にも目を通してもらい、最後にロセウスに頼んで跡形もなく紙を燃やしてもらった。
「ルーク先生、念の為の確認なんだけど、あの紙に書かれた内容を誰にも教えてないよね?」
「一緒に調べたソフィ以外は誰にも」
「なら安心。ここにいる皆、これから何が起ころうとも、絶対に自ら動き出さないで」
ベルは全ての内容を頭に入れて整理して、一つの策を決行することにした。
「ここにいる皆、ということは私たちもかい?」
納得がいかない、という表情でベルを見るロセウス。言葉には出していないが、アーテルとアルブスも同じようだ。
「セス、アーテ、アル、三人もできれば動かずに、流れに身を任せてほしい。大丈夫、上手くいく自信はある」
心配ごとは幾つかある。それでも、その策が一番だと思った。できるなら一番被害が少なく、騒ぎも最小限に抑えたい。
「お嬢の意向なら従う。だがな、これだけは覚えておいてほしい」
「その身に危険が迫るなら、俺たちはお嬢の命令を無視してでも助ける」
アーテルとアルブスの瞳は真剣そのもので、真っすぐにベルを見据えていた。ベルもその瞳から逸らすことなく頷いた。
そんなヴィータをここまで怒らせるとは一体何をしでかしたのだろうか。
輝人ほどの実力がなければ、ヴィータに圧倒されて畏怖に支配されてしまうであろうこの空間で、ベルはヴィータの瞳を真っすぐに見返した。ヴィータはベルと視線が合うと、少しだけ怒りを和らげてくれた。しかし心に燻る炎はまだ静かに燃えていた。
「初めに言っておくわ。ロゼリア・ラワーフ。彼女はかなり危険な人物よ」
「危険? ロゼリアが? ノアは?」
「ノアに危険性はないわ。ただ……とにかくロゼリアには気をつけなさい」
ベルにはロゼリアの危険性がイマイチわからなかった。蜂蜜色の瞳と髪色をしたロゼリアの姿を脳裏に描く。小柄でなんだか守ってしまいたくなる、ふんわりとした女生徒だった。
ベルが確かめにここまできたのは、ロゼリアとノアの関係性がどこか歪に感じたからだ。しかしそれはベルの勘に過ぎない。だからこうしてここまでやってきた。けれどおかしいとは思っていても、それほど危険だとは思っていなかった。だからこれほどまでに警戒を顕わにしているヴィータに驚いてしまう。
「ロゼリアについて、私が知っていることは全て教えてあげるわ」
「うん、お願い」
そうしてヴィータから聞いたものは、到底信じられないような内容だった。
けれどそれが本当ならば、何かこれから事が起こる前に、何としてでも食い止めなければいけないだろう。ベルはヴィータにまた近いうちに来ると約束すると、獣化したロセウスたちとともに、急いで学院へと向かった。
帰途に関しては、ヴィータが気を利かせて『異界の湖』がある深い森の中から出る最短ルートを作ってくれた。ヴィータは番人であるから、『異界の湖』関係のことは大抵何でもできる。だから言葉の通り、木々を魔法で動かして、一直線の道を作ってくれたのだ。これには感謝の言葉しか出てこない。
おかげで一日もかからず、その日の夜のうちの家に戻ることができたベルたちは、何かあってからでは遅いと、明後日ではなく、明日も学院へ足を運ぶことに決め、すぐに就寝することにした。
しかし普通に特別講師として向かうのでは、些か芸がない。ベルはロゼリア本人からも情報を引き出そうと考え、目立たないように学院の正門からではなく、塀を飛び越えてこっそりと学院内に侵入した。目的のためにはまずルークに会う必要があるので、向かうのは教室ではなく学院内にあるルークの部屋だ。もちろん約束をしていないから、部屋にいない確率の方が高い。部屋にいる、という少ない確率に賭けてみた。
外から、一階にあるルークの部屋の窓をノックする。
すると中から誰かがこちらに近づいてくる気配がした。部屋にいる人物は窓の外にいるのがベルだと知るなり、すぐに開けてくれた。
「ベル様! どうしてこちらに? どうぞ中にお入りになってください」
そう言って中へ入るよう促してくれたのは、二十代ほど外見を持つ黒髪黒目の大人しそうな女性、ルークの契約獣であるソフィだった。
窓から中に入ることははしたないことではあるが、今回に限っては目立たないことが重要なので仕方がない。アーテルに抱き上げてもらい、窓から室内へと入れてもらった。
「ごめんね。窓から中に入れてもらって」
「いいえ、お気になさらないでください。何か訳あってのことなんですよね? ルークなら今、職員室にいるのであと少ししたら戻ってくると思います。でも誰かに呼ばれたりしたら、そのまま授業に入ってしまうので、私呼んできましょうか?」
さすがルークの契約獣をやっているだけあって、頭の回転が速い。すぐにこちらの意図を察した。
「そうしてくれると非常に助かる」
「わかりました。では、こちらの部屋で少々お待ちください」
ソフィは獣化して、猫又の姿に戻るとそのしなやかな体を使って、ルークの元まで走っていった。
それから待ったのは数分のことで、扉越しに誰かが走る足音が聞こえてきた。それは部屋の前でピタリと止まり、扉が開かれる。現れたのは息を切らしたルークと、ルークの肩で心配そうにその姿を見ているソフィだった。
「すみません、待たせてしまって」
「いえ、それほど待っていないので。それより急かせてしまったみたいでごめんなさい」
まさか走ってくるとは思わなかったので、肩を上下させながら息をするルークの姿に罪悪感を覚える。
ルークの息が整うのを待って、話しかけることにした。
「一日早いけど、例の調べものについて聞いても大丈夫かな?」
「はい、問題ありません。基本簡単な調べものだったので」
ルークは机の引き出しに鍵を差し込み開けると、そこから一枚の紙を取り出した。それをベルに渡し、なんともいえない表情を作っていた。その表情の原因は、ベルが調べてほしいと頼んだことが関係しているのだろう。ベルがそれに目を通せば、普通の人ならば目を疑うようなことが書かれていた。
ヴィータから教えてもらった内容と合わせれば、おおよその流れが見えてくる。そしてこれからどう行動すればいいのか、も。
人化をしてベルの後ろにも控えている三人にも目を通してもらい、最後にロセウスに頼んで跡形もなく紙を燃やしてもらった。
「ルーク先生、念の為の確認なんだけど、あの紙に書かれた内容を誰にも教えてないよね?」
「一緒に調べたソフィ以外は誰にも」
「なら安心。ここにいる皆、これから何が起ころうとも、絶対に自ら動き出さないで」
ベルは全ての内容を頭に入れて整理して、一つの策を決行することにした。
「ここにいる皆、ということは私たちもかい?」
納得がいかない、という表情でベルを見るロセウス。言葉には出していないが、アーテルとアルブスも同じようだ。
「セス、アーテ、アル、三人もできれば動かずに、流れに身を任せてほしい。大丈夫、上手くいく自信はある」
心配ごとは幾つかある。それでも、その策が一番だと思った。できるなら一番被害が少なく、騒ぎも最小限に抑えたい。
「お嬢の意向なら従う。だがな、これだけは覚えておいてほしい」
「その身に危険が迫るなら、俺たちはお嬢の命令を無視してでも助ける」
アーテルとアルブスの瞳は真剣そのもので、真っすぐにベルを見据えていた。ベルもその瞳から逸らすことなく頷いた。
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