召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第一章

二十八話

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「私がルーク先生にお願いした件なんだけど、ちょっと相談したいことがあってさ。三人ともちょっとこっちへ来てくれる?」

 家に着いて遅めの昼食を食べ終えたあと、ベルは三人の意見を聞くために口を開いた。

 ゆっくりと三人の意見を聞けるよう、キッチンに設置してある椅子から、リビングにあるソファへと移動する。 

「ロゼリアとノアの件だね」

 ベルの言いたいことはルークにお願いをしたこともあって、粗方想像がついていたのだろう。ロセウスがベルの隣に腰かけると、一人と一匹の名前を上げた。

「そう。皆も薄々気づいてはいると思うけど、あの契約術師と契約獣のペアはどこかおかしいと思うの」

 魔力の流れに関して、実際に視覚として見ることができるのは、龍脈を整える役割を持つ輝人のみ。召喚獣であっても見ることはできない。

 しかし何かがおかしい、と感じてはいたのだろう。ベルがルークにお願いした際に、プラスでここを調べてほしいと付け加えていた。

「言動におかしいところは見受けられなかった。けど、雰囲気がどうも変な感じがしたからな」

 ほんの些細なことなのだろう。クラスメイトやルークたちがそのことに気づいていないくらいなのだ。ベルだって、魔力を誘導するときに直接感じなければわからなかった。

 机を挟んだ場所にもう一つ設置されているソファへ、アーテルとアルブスが座る。

「お嬢のように魔力を視ることはできないけど、お嬢が気になっているのはすぐにわかったからな」

「だから気にして見ていたんだ。そうしたら、契約獣の方はともかく、契約術師の方がどこか演技がかっているように見えてな」

 ベルには演技なのかもわからなかったが、どうやら二人の目にはそう映っていたらしい。余計に怪しく思えてきたロゼリアのノアの関係に首を傾げた。

「だとしたら余計に変な話だよね。契約獣と契約するには、『異界の湖』へ足を運ぶ必要がある。そこで結んだ契約獣との絆は些細なことでは崩れないはず。でもロゼリアとノアの関係は、崩れる以前の問題でどこかおかしい気がするの」

(そう、まるで他人から関係を奪ったような……)

 言い方は悪いが、率直な言葉を選べばそうなる。しかし実際に契約術師と契約獣の関係を奪うのは無理な話だ。なにせ契約術師と契約獣には二人にしかわからない繋がりがある。双方が望まない限り、その繋がりは誰にも断ち切ることはできない。それだけ強力な繋がりだからだ。

 契約獣は契約術師と絆を結ぶとき、自身の主となる契約術師を見極めるために一定の期間、契約獣ではなくただの異界の獣として傍にいることがある。もちろんベルも例外ではなく、ロセウス、アーテル、アルブスとそういった期間があった。

 その期間を得て、契約術師と契約獣になっても、恋人という関係にすぐにはなれない。当たり前だ。数日で恋愛感情が互いに芽生えることは難しい。少しずつ寄り添っていって、芽生えるものなのだから。だからベルは、そこからさらに年月をかけて絆を深めていった。三人との関係はその上で成り立っている。

「だから『異界の湖』まで足を運んで調べたいなあと思って」

「『異界の湖』、ね。確かめるにはちょうどいいかもしれないね。あそこには番人がいるから」

「うん」

 『異界の湖』。そこは名前の通り、異界と繋がりを持つ湖だ。この世界で契約獣と契約をすることができる唯一の場所。だからこそ、番人と呼ばれる獣がずっとそこを守っている。誰かが悪さをしないように。

 番人ならば何か知っていることがあるかもしれない。そうベルは踏んでいた。

「行くとしたらいつにするんだ?」

「あそこまで背中に乗せて走ってもらっても、片道一日はかかる。だから明日の早朝に出る必要があるかな、と」

 三日もあれば、多少何かあっても帰ってこられるはずだと踏んで、次の授業までに三日間空けてもらった。

 本当ならばすぐにでも出発したいが、今回はこの世界にきて初めての遠出だ。準備はそれなりに必要だろう。アーテルやアルブスに乗るための鞍なども欲しかったが、一般的な大きさのものではないため、特注になるからすぐに手配するのは難しい。今回はロセウスに頑張ってもらう必要があるので、早朝まで休んでいてほしい気持ちもあった。

 その旨を三人に説明をすると、アーテルとアルブスが食料の買い出しを引き受けてくれた。

「買い出しついでに、鞍とかも注文してくるから。だから今度は俺たちの背中に乗ってくれよ、お嬢」

「いつもロセウスばかりはずるいからな」

 どうやら買い出しよりも、鞍などの注文の方がメインだったらしい。鞍や手綱をつけることを嫌がるかなと思いもしたが、それは杞憂だったようだ。むしろ率先してつけてくれることに安堵を覚える。これでロセウスの負担も今後は減ることだろう。

 二人が街に出かけている間に、ベルとロセウスは着替えやタオルなど、遠出に必要なものをカバンに詰めていくことにした。初めての作業なので、何がいるのかさっぱりわからなかったのだが、ロセウスの助言のおかげでスムーズに支度を終えることができた。

 準備したカバンを邪魔にならないように、リビングの隅に置き、ソファで一息つく。

「セス、明日からずっと私を背中にほぼ一日中に乗せて走ることになるから、部屋で休んできてもいいよ?」

 少しでも早く休んで明日に備えてほしい。そんな意味合いを込めて言ったのだが、ロセウスは大丈夫だと首を横に振った。

「休みはいらないから、代わりにベルがほしい。……だから今から少しだけ、付き合ってくれるかい?」

「へ……?」

 ロセウスはソファに座るベルの顎を持ち上げ、唇に軽くキスを落とした。
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