召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第一章

十九話

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 雑貨屋パステルをあとにし、再びロセウスと腕を絡ませながら懐かしい店舗や新しい店舗、気になる店舗に全て中に入った。もちろんゆっくりしていると、王都ほどではないにせよ騒ぎになってしまうので、ちらっとどんなものが売っているか覗くだけではあったが、それでも楽しいことに変わりはない。元の現実世界でいうところのウインドウショッピングをしている気分だ。

 ただ付き合わされているロセウスは少々暇かもしれない。そう思いながら一瞥すれば、たまたまロセウスもベルの方を見ていて、視線がばっちりと合ってしまった。

「ん? どうしたんだい? どこか寄りたいところでもあった?」

「ううん、そうじゃない。ただ、私が見たいところばかり寄っているから、疲れてないかなと思っただけ」

「疲れてないよ。こうしてベルと回ることが、楽しくて仕方ないくらいだからね。ああでも、お腹が少し空いてきたから何か食べる物を買いたいかな」

 男性が女性の買い物に付き合うのは、暇な部分が必ずどこかにあるはずだ。それを見せることなく、こうしてさり気なく休憩を誘ってくれるロセウスは優しい。色んな人たちに私の恋人はすごいでしょ、と自慢したいくらいだ。

 空を見上げればちょうど真上に太陽が昇ってきていた。

「そっか、もうお昼だもんね。セスは何か食べたいものはある?」

「いや、特にはないかな。せっかく街に来たんだし、ベルの食べたいものを今日は優先しよう」

「わざわざ気を遣わなくてもいいのに。……そうだ! セスのおすすめの食べ物ってある? それが食べたいな」

 ゲームの時は味覚まで再現されていなかったので、それがどんなものか説明はできても、実際に味を知ることはできなかった。なのでここはロセウスに聞いた方が一番いいだろう。

「おすすめの食べ物か……。なら、ここから近いところにテイクアウトできる店があるから、そこに行こうか」

「うん!」

 ロセウスのおすすめする店は、ベルたちがいた場所から徒歩十五分ほどのところにあった。雑貨屋パステルよりも大きな店構えで、昼時ということもあって順番待ちで数十人の人たちが列をなしていた。その最後尾にロセウスと並ぶと、並んでいた人たちからやはり視線を浴びることとなった。整列させていた女性店員は、慌てて店の中へ戻っていこうとしたので、ベルは女性店員の肩を掴んで足を止めさせた。

「あの、特別扱いはしなくていいので」

「いや、でも……」

「お願いします。今日は輝人としてでも召喚術師としてでもなく、ただのベルとして食べに来ただけなので」

「ベルもこう言っていることだ。そういう訳でよろしく頼むよ」

 ロセウスがこうして肩を持ってくれたこともあって、女性店員は迷った末に頷いてくれた。

「ではこちらをどうぞ」

 女性店員から、前に並んでいる人たちが持っているものと同じメニュー表を渡される。そのメニュー表には美味しそうなイラストと、商品の名前、金額が書かれていた。どれも手ごろな価格で美味しそうである。テイクアウトしやすいように、ハンバーガーやサンドイッチ、トルティーヤなどが主流なようだ。

「セス、どれがおすすめなの?」

「私も数回食べたことがある程度だけれど、これとこれがおすすめかな。ベルは甘いものが好きだから、飲み物はこれがいいと思うよ」

 セスが指をさしたのは、野菜たっぷりのトルティーヤで、中にはキャベツの千切りや、スライスされたトマトなど七種類の野菜と特製の甘辛だれで味付けされた肉が入っているらしい。そしてもう一つは、チーズとアボカド、ハンバーグを挟んだハンバーガーだ。このハンバーガーは醤油ベースで味付けされているらしく、男性だけではなく女性にも人気のハンバーガーだそうだ。

 ベルは悩んだ末、野菜たっぷりのトルティーヤと、ロセウスが勧めてくれた飲み物を注文することにした。ロセウスはベルが選ばなかったハンバーガーと飲み物に紅茶を注文することにしたようだ。互いに注文を決めると、回転が早いのか、すぐにベルたちの番が回ってきた。

 ベルたちの注文をとることになった店員は緊張をしているようで、声が若干震えていた。けれどそれを突っ込むのは可哀想なので、気づかないフリをして注文をした。お金を店員に渡し、受け取り口で商品の入った紙袋を受け取ると、せっかくテイクアウトをするならここで食べよう、と店まで歩いてきたときに話していた場所に向かうことになった。

 そこは街の中にある、一番大きな公園だった。遊具というほど立派なものはないが、代わりに広大な面積を誇っていた。

 子どもたちは家から持ってきたおもちゃで子どもたちが楽しく遊んでいたり、おいかけっこをしたりしている。大人数で遊ぶにはちょうどいい公園なのだろう。広いから子どもたちにも人気だが、色とりどりの花が咲いていたり、公園の雰囲気に合わせて作られた小川があったりして、デートスポットとしても人気のようだ。

 親が座りながら子どもを見たり、友達や恋人同士でゆっくり話せるように、等間隔でベンチも設置されていた。

 その中の一つにベルたちは腰を下ろすことにした。公園が広いおかげなのか、ベルたちはさほど注目をされずにすんだ。

 紙袋から食べ物と飲み物を取り出し、各々トルティーヤとハンバーガーにかぶりついた。

「んー、おいしい!」

 ロセウスが勧めるだけのことはあって、野菜が新鮮でみずみずしいし、何より特製の甘辛だれが肉と絡んでよくあっている。

「それはよかった。こちらもおいしいから一口食べてみるかい?」

 最初からそのつもりだったのだろう。ロセウスはベルの口元へハンバーガーを近づけてくれた。

「じゃあ交換だね」

 ベルはハンバーガーにかじりつくと、今度はロセウスの口元へトルティーヤを持っていった。ロセウスは長い髪の毛がトルティーヤにつかないよう、耳にかけるとトルティーヤを持っていたベルの手をとって、上品にかじりついた。

 その一連の流れがトルティーヤを食べているだけなのに、なんともいえない上品さがあった。さすがロセウスである。

 トルティーヤを食べていると、さすがに喉が渇いてきたので、合間にロセウスの勧めてくれた飲み物を飲んでみることにした。

「なにこれ、すごくおいしいんだけど!」

 飲み物は、チェツと呼ばれる元の世界にはない果実を使ったジュース。勧めてくれたから、と飲んでみればベルの想像以上に美味しかった。味は桃と苺、マンゴーを足したような味で、牛乳も入ってない百パーセント果実ジュースなのに、とてもまろやかで甘い。もう一杯、二杯と飲んでみたくなるような味だった。

「気に入ったのならよかった。三年前ほどに開発された果物らしくてね。女性の間では人気ナンバーワンの果物だそうだよ」

 トルティーヤとチェツのジュースを飲み終わっても、チェツの味が忘れられなくて、もう一度店へ寄ろうかと迷っていると、ロセウスから果実店へ行こうかと誘われた。

「チェツ、売ってるの!?」

「もちろんだとも。少し値は張るが、どこの果実店でも売っているはずだよ」

「行く、絶対に行って買う!」

 多少値が張ろうとも問題ない。なにせベルにはゲーム時代に貯めたたくさんのお金があるからだ。それにこれから召喚術師として働けば、チェツを大量に買ったとしてもなにも問題はないだろう。

 とはいえ、まだ食べた終えたばかりで時間もたくさんある。なのでベルたちは公園をゆっくりと散歩してから、果実店へ向かうことにした。
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