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第1章
捨てる神あれば拾う神あり3
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容姿が優れておらず、おまけに同性愛者。水面下で父様と敵対する貴族たちかは侮蔑の眼差しを向けられてきた。
だから天にも昇るような心地で、涙した。こんな僕のことを、エドワードさまのような引く手あまたな見目麗しい王子様が「好き」と言ってくださった。夢を見ているみたいで……僕のような人間を恋愛対象として好きになってくれる人が、この世界にいた事実に感動したんだ。
僕はエドワード様の虜になり、身も、心もすべて捧げた。
たとえ結婚はできなくてもパートナーとして彼を支えると心に決めたんだ。
僕らは死が分かつそのときまで、ともに生きることを『愛』の神の前で誓った。
だけど彼は――神の前でした神聖な誓いを、いとも容易く破ったのだ。
ノエルさまの出現以来、僕とエドワードさまが会話する時間は、めっきり減った。あれほど毎日していた情交もパタリとなくなり、約束をすっぽかされることは当たり前。
「エドワードさまが王宮内で人目もはばからずノエルさまへ熱烈にアプローチをしている姿を見た」と王宮に出仕している多くの者が、その現場を目撃していたのである。だけど彼は、そんなのお構いなしで昼夜関係なく、ノエルさまを口説いていた。ところ構わず抱き合い、口づけをしているという噂もあった。
家族や友達、職場の人たちからも心配され、「エドワードさまとは別れたほうがいい」とまで言われた。
それでも僕は、エドワードさまがそんなことをする人だとは思わなかった。彼のことを信じていたからだ。
周りの人間の心配の声や助言、苦言、嫌味も全部聞かなかったふりをして耳を塞ぐ。
せめて――あの方が一言「別れてくれ」と告げてくだされば、僕だって潔く身を引いた。何よりノエルさまとエドワードさまの幸せを願えたし、気持ちの整理がついた。
それなのにエドワードさまは、僕の目の前に現れては「本当に愛しているのはおまえだけだ。信じてくれ」と残酷な言葉を口にして、やさしいキスと抱擁をする。
胸が引き裂かれるように痛くて、泣き叫びたくなっても我慢して「わかっています。僕もエドワードさまのことを信じていますから」と笑ったんだ。
そして――運命の日がやってきた。
その日はいつものように王宮で働いていた。僕の働いている部署に飛び込んできた兄から「エドワードさまがノエルさまと結婚する」という話を聞かされたんだ。事の次第をエドワードさまに聞くために、昼休みになったら急いで彼の私室へ向かった。
そうして事の真意を尋ねたら……「ああ、その話は本当だ。俺はノエルと結婚するよ。おまえと違って、神子は『愛』の女神の加護を受けているから男でも子を孕むことができる。父上も王妃様も、ノエルとの結婚を快く承諾してくださった。問題なく結婚できる」
「そんな……! エドワードさまは僕を捨てて、ノエルさまと結婚するというのですか?」
失意の底に沈んでいる僕の顔をじっと見て、エドワードさまが口の端を上げて笑う。
「王族である俺が、おまえのような器量の悪い男を本気で愛すると思ったか? 母上の復讐のために利用できると思い、近づいてみたもののこんなにグズで、役立たずだとは夢にも思わなかった」
何を言われているのか理解できなかった。
この人はエドワードさまの皮をかぶった別人……? それとも悪魔?
恐ろしい悪夢を見ているようだ。彼の口から、そんな残酷な言葉が出てくるとは思えなくて、呆然とする。
ゴクリとつばを飲み込み、カラカラに渇いた喉から声を絞り出す。
「な、何を仰っているのですか? おまえだけを愛していると言ってくれたではありませんか。 ふたりで『愛』の女神様の前で誓いの言葉を……」
「全部嘘だ」
「えっ?」
清々しいほどの笑みをエドワードさまが浮かべた。
でも――「ルキウスのことが好きだ。世界で一番、愛してる」といつものように愛の言葉を、ささやいてはくださらなかった。
「あれは、おまえを懐柔するために、やったこと。そんなことにも気づかないとは愚鈍だな」
「エドワードさま……」
「俺は、おまえのことなんて最初から愛していない。むしろ大嫌いだったよ」
今度こそ頭の中が真っ白になって、何も言えなくなってしまう。
「おまえの機嫌をとるために退屈な会話をしたり、デートをするのが苦痛でならなかったんだ。そばかすだらけで不細工なおまえを抱くときは、いつも吐き気がした。こんなやつと寝なくてはいけないと思うと吐き気を催したよ。炎のように赤い髪も、毒のような緑の目も気味が悪くて、いやでいやで堪らなかったんだ」
まるで奈落の底へ突き落とされ、真っ逆さまに落ちていくようだ。全身を絶望が包んでいく。
「おまけに痩せぎすで口淫も、手淫もへたと来た! 俺のことを愛しているのなら態度や言葉で示すなり、性技を磨くなりすればいいものを……」
「それは……」
「結局、おまえも本当は俺のことを愛してなんかいなかったんだ。ただ誰でもいいから愛されたかっただけ。そうだろう?」
「違います!」
そう叫んで反論したいのに口を開くことができない。口を開いてしまったら、エドワードさまを苛立たせてしまうような情けない声が出そうだったから……。
だから天にも昇るような心地で、涙した。こんな僕のことを、エドワードさまのような引く手あまたな見目麗しい王子様が「好き」と言ってくださった。夢を見ているみたいで……僕のような人間を恋愛対象として好きになってくれる人が、この世界にいた事実に感動したんだ。
僕はエドワード様の虜になり、身も、心もすべて捧げた。
たとえ結婚はできなくてもパートナーとして彼を支えると心に決めたんだ。
僕らは死が分かつそのときまで、ともに生きることを『愛』の神の前で誓った。
だけど彼は――神の前でした神聖な誓いを、いとも容易く破ったのだ。
ノエルさまの出現以来、僕とエドワードさまが会話する時間は、めっきり減った。あれほど毎日していた情交もパタリとなくなり、約束をすっぽかされることは当たり前。
「エドワードさまが王宮内で人目もはばからずノエルさまへ熱烈にアプローチをしている姿を見た」と王宮に出仕している多くの者が、その現場を目撃していたのである。だけど彼は、そんなのお構いなしで昼夜関係なく、ノエルさまを口説いていた。ところ構わず抱き合い、口づけをしているという噂もあった。
家族や友達、職場の人たちからも心配され、「エドワードさまとは別れたほうがいい」とまで言われた。
それでも僕は、エドワードさまがそんなことをする人だとは思わなかった。彼のことを信じていたからだ。
周りの人間の心配の声や助言、苦言、嫌味も全部聞かなかったふりをして耳を塞ぐ。
せめて――あの方が一言「別れてくれ」と告げてくだされば、僕だって潔く身を引いた。何よりノエルさまとエドワードさまの幸せを願えたし、気持ちの整理がついた。
それなのにエドワードさまは、僕の目の前に現れては「本当に愛しているのはおまえだけだ。信じてくれ」と残酷な言葉を口にして、やさしいキスと抱擁をする。
胸が引き裂かれるように痛くて、泣き叫びたくなっても我慢して「わかっています。僕もエドワードさまのことを信じていますから」と笑ったんだ。
そして――運命の日がやってきた。
その日はいつものように王宮で働いていた。僕の働いている部署に飛び込んできた兄から「エドワードさまがノエルさまと結婚する」という話を聞かされたんだ。事の次第をエドワードさまに聞くために、昼休みになったら急いで彼の私室へ向かった。
そうして事の真意を尋ねたら……「ああ、その話は本当だ。俺はノエルと結婚するよ。おまえと違って、神子は『愛』の女神の加護を受けているから男でも子を孕むことができる。父上も王妃様も、ノエルとの結婚を快く承諾してくださった。問題なく結婚できる」
「そんな……! エドワードさまは僕を捨てて、ノエルさまと結婚するというのですか?」
失意の底に沈んでいる僕の顔をじっと見て、エドワードさまが口の端を上げて笑う。
「王族である俺が、おまえのような器量の悪い男を本気で愛すると思ったか? 母上の復讐のために利用できると思い、近づいてみたもののこんなにグズで、役立たずだとは夢にも思わなかった」
何を言われているのか理解できなかった。
この人はエドワードさまの皮をかぶった別人……? それとも悪魔?
恐ろしい悪夢を見ているようだ。彼の口から、そんな残酷な言葉が出てくるとは思えなくて、呆然とする。
ゴクリとつばを飲み込み、カラカラに渇いた喉から声を絞り出す。
「な、何を仰っているのですか? おまえだけを愛していると言ってくれたではありませんか。 ふたりで『愛』の女神様の前で誓いの言葉を……」
「全部嘘だ」
「えっ?」
清々しいほどの笑みをエドワードさまが浮かべた。
でも――「ルキウスのことが好きだ。世界で一番、愛してる」といつものように愛の言葉を、ささやいてはくださらなかった。
「あれは、おまえを懐柔するために、やったこと。そんなことにも気づかないとは愚鈍だな」
「エドワードさま……」
「俺は、おまえのことなんて最初から愛していない。むしろ大嫌いだったよ」
今度こそ頭の中が真っ白になって、何も言えなくなってしまう。
「おまえの機嫌をとるために退屈な会話をしたり、デートをするのが苦痛でならなかったんだ。そばかすだらけで不細工なおまえを抱くときは、いつも吐き気がした。こんなやつと寝なくてはいけないと思うと吐き気を催したよ。炎のように赤い髪も、毒のような緑の目も気味が悪くて、いやでいやで堪らなかったんだ」
まるで奈落の底へ突き落とされ、真っ逆さまに落ちていくようだ。全身を絶望が包んでいく。
「おまけに痩せぎすで口淫も、手淫もへたと来た! 俺のことを愛しているのなら態度や言葉で示すなり、性技を磨くなりすればいいものを……」
「それは……」
「結局、おまえも本当は俺のことを愛してなんかいなかったんだ。ただ誰でもいいから愛されたかっただけ。そうだろう?」
「違います!」
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