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118 毛皮祭
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『終わんね~…』
3体目の皮を剥ぎ取ったマールは山の斜面にどっこいせと座り込んだ。
街道越しの、さらに積み上げた狼越しなので見えなくて済んでいるが、斜面の下には血の池が出来ている。
街道を血塗れにしないために狼を集めてきて1ヵ所で血抜きをしつつ、順に皮を剥いでいるのだ。
もし臭いに引き寄せられた魔物がやって来てもこの場所だけ。もちろん戦える場所を選んでいる。
数が狼だけで20ほどいるので吊るして血抜きは現実的ではなく、山の斜面を利用している。
積み上げた狼の更に下の斜面に穴を掘って血溜りにしている。
血の池を掘るくらいは何て事ないが、狼を埋める穴を掘るとなると一苦労だろう。だったら持って帰るべきだと主張する華に反対する者は無く。
問題は華の安全確保と運搬手段だけだったのでーー。
「勿体ない!」
この華のひと言がすべてだった。
幸いもう町まで1時間もかからない距離まで来ていた事もあり、シアを護衛に華を町に送り届け安全確保。ついでに荷車を持って来る事になった。
馬達も無傷とはいかず、結構な怪我もしていて休ませたいというのもある。
荷車が来るので急ぐことはないが、内臓も血と一緒にここに棄てて行けばずいぶん嵩も重さも減るだろうと、荷車の待ち時間にせっせと3人で皮を剥ぎ取っていたのだ。
積み上げた狼の一番下には山牙王がぺちゃんこになっているはずだが、マールのいる所からははみ出た尻尾しか見えない。
マールが森の王とも呼ばれる魔獣の最期を思い出していると、隣にロイがドカっと腰を下ろした。疲れているのかロイにしては珍しい乱暴な座り方だとマールは思った。
『まったく危なげ無い戦い方だったな』
『へぇー…。それどころじゃなくて見てねえ』
マールは馬の脚にかじりつかれていて、山牙王が倒れる瞬間しか見ていない。
群れのボスだったのだろう魔獣が先に殺られていれば、残りの狼達は逃げ散っていただろう事を考えたら最後の1匹まで片付けられたのは幸いだった。
魔獣は動物が瘴気なるものを取り込んで変化するものだと言われているのだ。逃げた狼が魔獣化して人里を襲わないとも限らない。
『何て言うのかな…』
『三位一体って感じだったな』
『そうだそれ』
『何?サンミ…?』
ロイがシアと華の戦いぶりを思い出していると、黙々と皮を剥いでいたエドワードも思い出したのか、マールの知らない難しい言葉を使った。
『息がぴったりだったってこと』
『へぇー…。………………………こええ』
ロイがざっくりと言い直すと、その情景を想像したマールがぶるった。
『いや、怖いって言うより…』
(キレイだった)
ロイが思い出すのは、上下左右何処からの攻撃も危なげ無くいなす姿で。
流石に一撃でとはいかなかったが、それが正解、正義で手本だというように確実に魔獣が削られていくのを狼と戦いながら見ていた。
馬込みで3対1だったが3がばらばらに攻撃していたのでは倒せずに、狼を片付けたロイ達の出番だったろう。
しかしエドワードが言った三位一体と言うのがしっくり来るほど息が合っていた。
特に華の槍はぱっと見振り回しているのに、よくあるぶんぶん振り回しているのとは違い、くるくると、騎馬に当たらないのが不思議なくらいの取り回し方で、あれに対峙したら斬撃が飛んで来るように見えるのではないかと思われる。
(確かテコノゲンリがどうのって…)
『あ、やっと来た~!』
荷車が来たらしい。
いつになく重く感じる体を起こして立ち上がったロイは、街道の先を見た。
(せっかくだからここで全部皮を剥ぐだけ剥いじまって、手伝いの一人二人連れてきているとありがたいんだが…)
そう思って見ていると、一番大きな荷車を牽いて来てくれたようだ。
あの大きさならロイ達も荷車に乗って、怪我をしている馬達に負担をかけずに済みそうだ。
荷車を操るのはどうやら皮を扱っている職人で、ガーフという老人。
それと、案内をするシアの騎馬ーー。
『おいこら』
『あれ?ハナ、置いて来るって言ってなかったっけ』
『言ったな』
シアの後ろには変わらず華が乗っている。戻って来てしまったらしい。
しかもおまけ付き。
『何でグレイルがこんなところに来てんだ』
『俺わかるー』
『わかるな』
ロイだって分かっている。
グレイルの顔は一切前を向いておらず、頻りに華を見詰めて逸らさない。
『きもい……』
せっかく騎士服を着て立派な騎馬に乗っていても台無しもいいところだった。
3体目の皮を剥ぎ取ったマールは山の斜面にどっこいせと座り込んだ。
街道越しの、さらに積み上げた狼越しなので見えなくて済んでいるが、斜面の下には血の池が出来ている。
街道を血塗れにしないために狼を集めてきて1ヵ所で血抜きをしつつ、順に皮を剥いでいるのだ。
もし臭いに引き寄せられた魔物がやって来てもこの場所だけ。もちろん戦える場所を選んでいる。
数が狼だけで20ほどいるので吊るして血抜きは現実的ではなく、山の斜面を利用している。
積み上げた狼の更に下の斜面に穴を掘って血溜りにしている。
血の池を掘るくらいは何て事ないが、狼を埋める穴を掘るとなると一苦労だろう。だったら持って帰るべきだと主張する華に反対する者は無く。
問題は華の安全確保と運搬手段だけだったのでーー。
「勿体ない!」
この華のひと言がすべてだった。
幸いもう町まで1時間もかからない距離まで来ていた事もあり、シアを護衛に華を町に送り届け安全確保。ついでに荷車を持って来る事になった。
馬達も無傷とはいかず、結構な怪我もしていて休ませたいというのもある。
荷車が来るので急ぐことはないが、内臓も血と一緒にここに棄てて行けばずいぶん嵩も重さも減るだろうと、荷車の待ち時間にせっせと3人で皮を剥ぎ取っていたのだ。
積み上げた狼の一番下には山牙王がぺちゃんこになっているはずだが、マールのいる所からははみ出た尻尾しか見えない。
マールが森の王とも呼ばれる魔獣の最期を思い出していると、隣にロイがドカっと腰を下ろした。疲れているのかロイにしては珍しい乱暴な座り方だとマールは思った。
『まったく危なげ無い戦い方だったな』
『へぇー…。それどころじゃなくて見てねえ』
マールは馬の脚にかじりつかれていて、山牙王が倒れる瞬間しか見ていない。
群れのボスだったのだろう魔獣が先に殺られていれば、残りの狼達は逃げ散っていただろう事を考えたら最後の1匹まで片付けられたのは幸いだった。
魔獣は動物が瘴気なるものを取り込んで変化するものだと言われているのだ。逃げた狼が魔獣化して人里を襲わないとも限らない。
『何て言うのかな…』
『三位一体って感じだったな』
『そうだそれ』
『何?サンミ…?』
ロイがシアと華の戦いぶりを思い出していると、黙々と皮を剥いでいたエドワードも思い出したのか、マールの知らない難しい言葉を使った。
『息がぴったりだったってこと』
『へぇー…。………………………こええ』
ロイがざっくりと言い直すと、その情景を想像したマールがぶるった。
『いや、怖いって言うより…』
(キレイだった)
ロイが思い出すのは、上下左右何処からの攻撃も危なげ無くいなす姿で。
流石に一撃でとはいかなかったが、それが正解、正義で手本だというように確実に魔獣が削られていくのを狼と戦いながら見ていた。
馬込みで3対1だったが3がばらばらに攻撃していたのでは倒せずに、狼を片付けたロイ達の出番だったろう。
しかしエドワードが言った三位一体と言うのがしっくり来るほど息が合っていた。
特に華の槍はぱっと見振り回しているのに、よくあるぶんぶん振り回しているのとは違い、くるくると、騎馬に当たらないのが不思議なくらいの取り回し方で、あれに対峙したら斬撃が飛んで来るように見えるのではないかと思われる。
(確かテコノゲンリがどうのって…)
『あ、やっと来た~!』
荷車が来たらしい。
いつになく重く感じる体を起こして立ち上がったロイは、街道の先を見た。
(せっかくだからここで全部皮を剥ぐだけ剥いじまって、手伝いの一人二人連れてきているとありがたいんだが…)
そう思って見ていると、一番大きな荷車を牽いて来てくれたようだ。
あの大きさならロイ達も荷車に乗って、怪我をしている馬達に負担をかけずに済みそうだ。
荷車を操るのはどうやら皮を扱っている職人で、ガーフという老人。
それと、案内をするシアの騎馬ーー。
『おいこら』
『あれ?ハナ、置いて来るって言ってなかったっけ』
『言ったな』
シアの後ろには変わらず華が乗っている。戻って来てしまったらしい。
しかもおまけ付き。
『何でグレイルがこんなところに来てんだ』
『俺わかるー』
『わかるな』
ロイだって分かっている。
グレイルの顔は一切前を向いておらず、頻りに華を見詰めて逸らさない。
『きもい……』
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