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しおりを挟む「高鷹、さっきから何ずーっと天音のこと見てるの?」
夜。湯船に並んで浸かっている珠希に問われ、天音がシャンプーをしているところを眺めていた高鷹は、焦って目を逸らした。
「み、見てないよお……」
「うそ、見てた」
天音の尻を見ていたとは言えない。珠希相手でなくともだ。
「ねー天音!こーよーがさっきからずーっと君のこと見てるよ」
「バカ、見てねえって!」
すると天音がこちらを振り返り、「こーよーキモーい」と冷たい目で言った。
「お尻見てたの?」
珠希の指摘にギクリとなる。
「ちげえよ、日焼けしてんなあと思って……」
「みんなプールで焼けてるじゃん」
「天音は白いからさ、余計目立つんだよ。ほら見ろよあのケツ、真っ白だ」
「やっぱりお尻見てた」
「だから違うって、俺は日焼けを……」
「ヘンタイ」
珠希がふてくされて湯船から上がり、高鷹は慌てて引き止めようとするが、彼は結局そのまま脱衣所に行ってしまった。
「おい、おめーのせいで怒ったじゃねえか」
「はあ?何で僕のせいなの?君が勝手に僕のこと見てたせいだろ、どんな思考回路してんだ。ていうかホントに見てたんなら何で見てたの?」
「カイザーがお前のケツにチンコはさみたいって言ってたから、そんないいフォルムなのかと思って確認してたんだよ」
高鷹の発言に天音はあからさまな軽蔑の色を浮かべ、「……君だんだんハルヒコとおんなじ人種になっていってるね」と顔を引きつらせた。
「俺は断じてはさみたいなんて思ってねえからな!」
「うん、断じて思ってほしくない。……もうあっち行って」
「あ、何だよそれ!お前本気で俺に引いてるな?」
「引かないわけないだろ。いいから行ってくれ」
「何だよお、俺のこと嫌うなよお!」
「嫌いじゃないよ、嫌いじゃないけど近寄らないで」
「やめろよ、カイザーとおんなじ扱いじゃねえか!嘘だよ、ケツなんて見てない!」
そう言って高鷹が肩に触れようとすると、天音は怪訝な顔で「触んないで」とハルヒコを見るときの目で身体を引いた。
「うわ、友情が崩壊した……俺お前のこと変な目で見たことねえぞ!!カイザーが変なこと言うから……」
「わかったわかった、それより早く珠希に謝りに行きなよ」
「わかってねーだろ!なあ天音くう~ん、お前まで怒らないでくれよ~!」
「別に怒ってないです」
「それ、珠希が怒ってるときとおんなじセリフ」
「早く行けってば」
しっしっと追いはらい、しょんぼりとうなだれて浴室を出て行く高鷹を、天音は野良猫のように警戒した眼差しで見届けた。それにしても、ふたりで何という会話をしているのだと虫酸が走る。立派な性的嫌がらせだ。ラジオの相談室に訴えるべきはこちらの方である。
だがどうにも気になって、風呂から上がると脱衣所の鏡に背中を向け、自分の尻を「確認」してみた。ハルヒコの発言には嫌気がさすが、確かに恋人の家でうつぶせでいると「お前はいいケツしてるなあ」とたびたび顔を乗せられるし、裸のときにペチペチとはたかれたりもする。
(う~ん、わからん!)
それは自分の尻だからかもしれないが、男でも女でも特に尻に着目したことがないので、何をもって「良い」とするのかわからなかった。すると、「何してんの?」といつの間にやって来ていた耀介とサラにその姿を見られてしまい、天音はなぜか尻を抑えて顔を赤くし、「……日焼けしてるなと思って」と小さく答えた。
「珍しい組み合わせだね。ハルヒコは」
「映画観てる。集中してると自分の世界に入っちゃうから、誘わなかった」
「サラはひとりで風呂入れないから、わざわざ俺らの部屋に誘いに来たんだ。天音も高鷹も珠希もいないし、大吾郎はちょーど風呂から出たばっかだったから」
「じゃー今日は耀介がサラのお風呂係だ」
「そゆこと」
「ごめんねサラ、ハルヒコと来るもんだと思ってたから」
「んーん、へいき。ねえそれより、ホットケーキだけどさあ」
「……それ、何なの?」
「何の話?」
「ハルヒコが土曜にホットケーキ作れって言ってきた」
「へえ、何で?」
「何でかは秘密。でも、作ってあげてよ」
「えー、やだ。アイツ今日僕に唾吐きかけてきたんだぞ。謝らなきゃ作らない」
「唾って……」
「ハルヒコが謝れるわけないじゃん」
「それならホットケーキはナシだよ」
「じゃあ謝れば作ってくれる?」
「まあ……」
「わかった」
そう言うとサラはさっさと服を脱ぎ、先に浴室へ入っていった。素っ裸になると、いちばん日焼けをしているのはやはり彼だとよく分かる。
「土曜って何かあるの?」
「さあ」
サラにまで請われて釈然としない顔をするが、ホットケーキの理由を知りたいのもあり、やっぱり作ってみてもいいか、という気持ちに傾き始めていた。
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