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しおりを挟む翌朝。サラは奇跡的に朝食の時間に起きることができたので、天音とともに食堂へ向かい、またしても7人でテーブルに揃うことができた。食堂にあらわれたサラの姿に、大吾郎はホッとすると同時に嬉しさがこみ上げた。そしてこのままどうにかこの習慣が続いて欲しいと、皆が思った。
「触れるのも面倒だからスルーしてたけど、やっぱり一応聞いとくわ」
食べ終わった食器を重ねながら、眠たくて言葉少なだった高鷹が静かに尋ねた。
「お前きのうどっかの不良と殴り合いのケンカでもしたの?」
ハルヒコの右目に大きく浮かぶ青あざを指差す。珠希も耀介もあえて理由は聞かなかったが、このまま学校に出たらちょっとした騒ぎになりそうなくらい派手なアザだった。
「……いつなんどきも実戦を怠ってはならん。メキシコでの厳しい日々も忘れ、俺はここに来て少しヤワになっていた」
「誰に殴られたの?」
「負かした相手の名は聞かない主義だ」
「天音?」
「違うよ」
天音が無表情で返す。
「この人きのう、風呂場ですべって転んだの」
乾いた声と、爬虫類のように冷たい眼差しに、高鷹たちはやや圧倒されながら「あ、ああ……なるほど……」と、無言で味噌汁をすするハルヒコを見やりながら弱々しく返した。2度目の暴力事件を絶対に発覚させてはならないという天音の無言の圧力が、食卓に重くのしかかる。すべてを見ていた大吾郎とサラもそれについては一言も発さずに、7人は静かな朝食を終えた。
ー「は、ハルヒコくん、それ……」
朝のホームルーム前。池田が恐るおそるハルヒコの右目を指差すと、彼はおもむろにその指を取り、口に突っ込んでレロレロと愛撫するように舐めた。
「ひィィィ!!」
池田が奇声をあげて指を引き抜き、「何すんだよ!!」と異常者を見る目で叫んだ。
「フケ、少しはマシになったんじゃないのか」
「そんなことよりそのアザは何?!ていうか……ああもう、手ェ洗ってこなきゃ……」
「男たるもの、アザのひとつやふたつで女々しく騒ぐな。俺の怪我を心配するのは、俺の女だけでいい」
池田がさっさと水道に走っていき、ハルヒコはふうとため息をついて窓に背中をもたれかけ、さかさまの青空を仰いだ。
「んー……病院行こっかなぁ」
渾身の一撃を喰らって、痛くないわけがなかった。一応冷やしたのに、寝て起きたら目がひらけなくなっていたほどだ。
「あのオカマ野郎、ちょーっと触ったくれえで女みてーにギャースカ騒ぎやがって。童貞どころかまるで処女だな。それかホントはホモなんじゃねえか?」
ひとりでブツブツと話すハルヒコをクラスメイトは遠巻きに見ていたが、やや置いてにわかに教室がざわつき、雲がかかったように誰かの陰に覆われた。
「……む?」
顔を起こすと、目の前にはサラが立っていた。生徒たちの視線はすべて彼に注がれている。
「何だユーレイ」
「僕は幽霊じゃない。じゃがいもくん」
「じゃがいもじゃない。俺はカイザーだ」
「……保健室」
「む?」
「先生に君のこと話したら、保健室に連れてきなさいって。アザ、診てくれるって」
「ふん。治療などいらん。余計な世話を焼くな」
「失明するかもよ」
「……」
「ほっといたら失明するかもよ」
「……失明など」
「失明して、壊死して、そのうち膿とか腐った血が流れてくる」
「……そしたらどうなる」
「脳にアメーバが侵入して、激痛でのたうち回りながら、3日以内に身体ごと溶けて死ぬ」
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