11 / 129
4
しおりを挟む翌朝。サラは奇跡的に朝食の時間に起きることができたので、天音とともに食堂へ向かい、またしても7人でテーブルに揃うことができた。食堂にあらわれたサラの姿に、大吾郎はホッとすると同時に嬉しさがこみ上げた。そしてこのままどうにかこの習慣が続いて欲しいと、皆が思った。
「触れるのも面倒だからスルーしてたけど、やっぱり一応聞いとくわ」
食べ終わった食器を重ねながら、眠たくて言葉少なだった高鷹が静かに尋ねた。
「お前きのうどっかの不良と殴り合いのケンカでもしたの?」
ハルヒコの右目に大きく浮かぶ青あざを指差す。珠希も耀介もあえて理由は聞かなかったが、このまま学校に出たらちょっとした騒ぎになりそうなくらい派手なアザだった。
「……いつなんどきも実戦を怠ってはならん。メキシコでの厳しい日々も忘れ、俺はここに来て少しヤワになっていた」
「誰に殴られたの?」
「負かした相手の名は聞かない主義だ」
「天音?」
「違うよ」
天音が無表情で返す。
「この人きのう、風呂場ですべって転んだの」
乾いた声と、爬虫類のように冷たい眼差しに、高鷹たちはやや圧倒されながら「あ、ああ……なるほど……」と、無言で味噌汁をすするハルヒコを見やりながら弱々しく返した。2度目の暴力事件を絶対に発覚させてはならないという天音の無言の圧力が、食卓に重くのしかかる。すべてを見ていた大吾郎とサラもそれについては一言も発さずに、7人は静かな朝食を終えた。
ー「は、ハルヒコくん、それ……」
朝のホームルーム前。池田が恐るおそるハルヒコの右目を指差すと、彼はおもむろにその指を取り、口に突っ込んでレロレロと愛撫するように舐めた。
「ひィィィ!!」
池田が奇声をあげて指を引き抜き、「何すんだよ!!」と異常者を見る目で叫んだ。
「フケ、少しはマシになったんじゃないのか」
「そんなことよりそのアザは何?!ていうか……ああもう、手ェ洗ってこなきゃ……」
「男たるもの、アザのひとつやふたつで女々しく騒ぐな。俺の怪我を心配するのは、俺の女だけでいい」
池田がさっさと水道に走っていき、ハルヒコはふうとため息をついて窓に背中をもたれかけ、さかさまの青空を仰いだ。
「んー……病院行こっかなぁ」
渾身の一撃を喰らって、痛くないわけがなかった。一応冷やしたのに、寝て起きたら目がひらけなくなっていたほどだ。
「あのオカマ野郎、ちょーっと触ったくれえで女みてーにギャースカ騒ぎやがって。童貞どころかまるで処女だな。それかホントはホモなんじゃねえか?」
ひとりでブツブツと話すハルヒコをクラスメイトは遠巻きに見ていたが、やや置いてにわかに教室がざわつき、雲がかかったように誰かの陰に覆われた。
「……む?」
顔を起こすと、目の前にはサラが立っていた。生徒たちの視線はすべて彼に注がれている。
「何だユーレイ」
「僕は幽霊じゃない。じゃがいもくん」
「じゃがいもじゃない。俺はカイザーだ」
「……保健室」
「む?」
「先生に君のこと話したら、保健室に連れてきなさいって。アザ、診てくれるって」
「ふん。治療などいらん。余計な世話を焼くな」
「失明するかもよ」
「……」
「ほっといたら失明するかもよ」
「……失明など」
「失明して、壊死して、そのうち膿とか腐った血が流れてくる」
「……そしたらどうなる」
「脳にアメーバが侵入して、激痛でのたうち回りながら、3日以内に身体ごと溶けて死ぬ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる