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【本編】天使な姫君 side。
⑦本編・姫君side・END
しおりを挟むこれはもう駄目ね。どうにもならないわ。ザイルがかなり怒っているのがわかる。でもさすがにここは私が引導を渡さなければならないわ。でなければこのバカはいつまでも、私が己を愛していると宣うのでしょう。私はザイルを手で制し席を立ち、室内の皆さんに正式な礼をする。すると私の意思が伝わったようで、二人の王が頷き私の行動に許可を与えてくれる。私はその場から移動し、騒いでいる本人の元へ歩いてゆく。
「フランシス! やはり来てくれたのか! 早くこの縄を解いてくれ! そして直ぐにでも神の審判を受けよう。そのまま籠って子作り開始だ! 朝まで寝かせないからな! 」
……にやつかないでよ。気持ち悪いわね……
私は思いきり拳を握りしめ、ぐるぐる巻きにされている腹部めがけ、パンチを入れた。
「グッ……グフゥ……なっ……何をするんだ……」
縄でぐるぐる巻きにされているから、そんなに痛くはないはずよ。
「フランシス? 拗ねているのか? 私はロゼッタに騙されたのだ。私だけを愛していると言ったのに……しかし私は真実の愛に気付いたのだ! フランシスは気高い! たしかに体は貧弱だが、それは追々私が育ててやろう。だから気にすることはない。堂々と私との真実の愛を育もう! 」
不味いわね。この口を塞がないと、ザイルが怒りで殺してしまいかねないわ。背後からヒシヒシと、怒りのオーラを感じてしまう。しかも私を貶めているわけ?貧弱じゃないわよ!そりゃ悪魔族の女性のように、グラマラスとは言えないけど人並みにはあるわよ!
「ふざけないで! いい加減にしろ! 婚約者としての義務も果たさないバカが! なぜ己が愛されていると思えるの? 私は婚約者としての義務で付き合っていただけよ。あなたは前妃と同じことを私にしたの。私はあなたを愛そうと努力した。無理でも信愛の情を育もうとした。しかしそれを踏みにじったのは己じゃない! なのになぜ愛されていると思えるのよ。 この腐れ外道が! 地獄に落ちろ! 」
再度握りしめた拳を腹部に打ち込む。さすがに二度目は効果があったようだ。
「ウゥ……グッ……私が母上と同じことをを? 」
「そうですよ。あなたは婚約者である私を蔑ろにし、公式の場で一度もパートナーをつとめてはくれなかった。今回だってそうです。一度お話しましたが、この私のドレスとお飾りはザイルから贈られたものです。己の色を相手に纏わせることで、相手は私のものだと周囲に知らしめるのです。この贈り物は男性側の婚約者としての義務なんですよ」
「…………」
少し話がずれてしまったわね。でも少しは堪えているみたい。項垂れて沈黙しているわ。
「悪魔国の現王も、あなたの母上を信愛の情で寄り添おうと努力しました。しかしそれを裏切ったのはあなたの母上です。裏切ったのか、元からそのつもりだったのかは解りません。しかしあなたの母上にも、現王には愛がなかったのでしょう。あなたも母上も、政略結婚の意味を理解していなかったのです」
「ならば今からでも……」
「もう遅いんです。私はザイルの手を取りました。私を初恋だと言ってくれ、ずっと見守ってくれていたのです。私はザイルなら愛せます。いえ、たぶんもう愛していますわ。私にはザイルが真実の愛なのです。あなたはもうお呼びではないのです」
いつの間にか背後に気配を感じる。ザイルが優しく背後から抱き締めてくれた。振り向くとその場にザイルが膝をつき、私の手を取り愛を囁く。
「フランシス。私は悪魔国の庭であなたを受け止めたときからずっと、あなただけを愛して来ました。結ばれない運命だと諦めていたこの手を、今正式にとれる幸せが信じられません。どうか私と生涯をともに歩いてください。私はあなたしかいりません……」
手の甲に軽いキスが落ちる。小さな箱から銀色に輝くリングを取りだし、私の指にはめてくれた。細かい細工とともに、キラキラと輝く宝石が散りばめられている。とても綺麗……
それより! 悪魔国の庭で私を受け止めたって、それってつまりザイルが私の初恋の人ってこと?私たちって初恋同士だったの?
「ありがとう。私もあのときの男の子が初恋だったの。あの子がまさかザイルだとは思いもしなかった。でもそれならば、私たちは初恋同士ね。とても嬉しい……それに家族でない男性からの贈り物なんて、このドレスとお飾りについで二度目よ。本当にありがとう……」
ザイルの顔が真っ赤に染まる。私が初恋……? なんて呟きが聞こえてくるけど大丈夫かしら?
「今日の会談前に贈れなくてすみませんでした。つい細工に拘ってしまい、納期がギリギリになってしまったのです。ドレスやお飾りは贈りたくて、以前から用意をしていたのですが、さすがにリングは……」
ザイルの優しい言葉に、涙がポロポロと流れ落ちてくる。ザイルがハンカチを渡してくれる。そのまま己の指にお揃いのリングをはめようとしているのを見て、私はそれを制し箱を受け取った。驚くザイルの手をとり指先にキスを落とし、リングを取りだしその指に滑り込ませた。
「婚約は突然だったんだもの仕方がないわ。なのにこんなに素敵な品を用意して貰えるなんて……至らぬ私ですが、あなたに相応しくあれる様に頑張ります。二人で幸せになりましょう」
私たちは固く手を握りあい、互いに見つめあう。見上げるザイルの顔が近づき、額に頬に軽いキスが落とされた。
「おおー! こりゃ神もせっかちだな。どうやら婚姻が成立してしまった様だぞ。今日は婚約の誓約予定だったのだが……まあめでたい! 天使国の王よ。早々に姫を貰い受けて悪いな。我が国で必ず幸せにすると誓おう。これからもよしなに頼む」
お父様が悪魔国の王に、うんうんと頷いている。いきなり婚姻ってどういう……えー!これって!
天井から深紅と純白の薔薇の花びらが舞い落ちてくる。その花びらは次々と、まるで床に吸い込まれるように消えてゆく。その内の一部が花冠となり、紅白の花冠が私の頭に乗っかった。すべての紅白の花びらがなくなると、やがてピンク色の花びらが舞い始め、床一面に降り積もってゆく。
「これは……掃除が大変ね……」
私が呟くと床一面の花びらが宙に舞い、大きな花束を形どる。その花束はポンと、私の腕の中に収まった。
「純白の花嫁と深紅の花婿。姫には純白の花嫁衣装が、ことのほか似合いそうだ。婚姻式は盛大にしなくてはな! ピンクの花束は孫の色だな。花束の薔薇の数ほど孫が抱けたら素晴らしいな! 楽しみにしているよ……」
室内の人々から拍手が沸き上がる。しかし薔薇の数ほどの孫はさすがに無理よ……私はもう恥ずかしくて仕方がない。そんな私をしっかりと抱き締め、ザイルが耳もとで囁いた。
「今夜はこのお屋敷に泊まれるそうです。神の審判にて正式に婚姻が認められました。フランを愛するのに、なんの障害もなくなりました。私にフランを美味しくご馳走させてくださいね」
ザッザイル……式はまだじゃない!
「両家の許可は戴いています。結婚式は半年後に盛大に行います。私も準備に奔走したんですよ。長年あなたを思い続けた私を哀れに思ってくださるなら、私にフランを愛する権利をください。あなたを思いきり愛したい……もう我慢ができないのです……」
顔中に軽いバードキスが落とされる。もう!みんないるのよ。恥ずかしいじゃない!しかも目前ではぐるぐる巻きにされ、呆然と私たちを眺めている方もいるし……
「ほら! 公衆の面前でいちゃつくな! ザイールよ。娘は初心者だ。お手柔らかに頼むぞ」
おっお父様! なにを仰っているの!
「ザイール。若さに任せて抱き潰すなよ。女性は優しく扱わねばならん。だが式までは孕ませてはならん。それだけはけじめだ。この約束を守れるなら抜けても良いぞ」
王様! そんなにあからさまに言わないでください! ザイルも『魔法はしっかり覚えているから大丈夫』だとか言いながら頷かないで!
「ではフラン。許可はでた様です。神のもと、真の夫婦になりに行きましょう。真実の愛をあなたに刻み込んであげますよ」
私をヒョイと横抱きにして、スタスタと歩きだすザイル。背後でなにかをわめく大声が聞こえてきたけど、今の私には気にする余裕はなかった。
その日私たち二人は真実の愛を確かめあい、 本当の夫婦となりました。
半年後には天使国と悪魔国とをあげて、盛大な結婚式が行われました。そんなに遠くない未来に、両国にはハーフがどうこうという柵はなくなるでしょう。二人のたくさんの孫たちは両国の橋渡しとなり、二国は神の審判が要らなくなるほど、友好的な国へと発展して行きました。
さすがに薔薇の数ほどは無理でしたよ。
国のために……婚約者様を愛そうと努力をし、我慢し続けたあの婚約者時代。突然の婚約破棄には戸惑いもありました。しかし私はもと婚約者様が叫んでいた、真実の愛を見つけたのです。それはあの婚約破棄があったからこそ、手に入れられた宝物なのです。
だからこそもと婚約者様とロゼッタさんにも、いつか幸せを見つけて欲しい……
真実の愛を手に入れて欲しい。
魂は輪廻転生すると神様は仰っております。今世が無理ならば来世でも……いつか魂が救われます様に。
お二人がいつか真実の愛にたどり着けることを、心から願っております。
そういえば……あのグランデ王子とロゼッタさんの審判の結果は、果たしてどの様な結果になったのでしょう?
私には知らせて貰えませんでした。
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