6 / 21
【本編】天使な姫君 side。
⑥
しおりを挟むしかしそんな二人の幸せは長くは続かなかったといいます。幼いザイールと愛する夫を残し、呆気なくエレノア姫は亡くなってしまったのです。死因は父王に受けた暴行による、脳の障害によるものでした。そんな中現王は、父王の死亡を知ります。さらには兄弟たちが王位を争い、すべてが死に絶えてしまいました。
ザイルの母上であるエレノア姫の方が、先に亡くなっていたのね。ならば公爵家に引き取られた経緯は、建て前なのでしょう。
「私はとうとう悪魔国の貴族たちに見つかってしまった。ザイールを人質に取られ連れ戻され、無理やり王に担がれた。しかし王になりたくさんの事実を知った。父王を始め一部の悪魔族が、天使族の女性たちに酷い扱いを強いていたことをね。だから私は一度抜け出しあの屋敷に戻り、神に祈り願ったんだよ。悪魔族の罪の継続がなされませんようにと……」
その願いを神が叶えてくれたのね。そしてこのお屋敷は、神の審判が行われる場所となった。さらには両国での婚姻は正式な婚姻後でなければ、体液の交換にあたる行為には制裁が下るようになる。つまり悪魔国の現王が願ったから、このお屋敷で神の審判が行われる様になったのね。
「ザイールは離宮に軟禁状態だったが、時折城に来て私とともに過ごしていた。しかし一部の頭の固い老害たちが、ザイールを排除しようとしたんだ。私が妃を娶らないから後継者が誕生しない。まさかハーフを王にするのかと、暗殺者まで送りおった」
隣のザイルをそっと見る。彼は両の掌を合わせて握りしめ、じっと話を聞いている。私は白くなるくらいに握り困れている、その両の拳にそっと掌を重ねた。
「ザイールは羽は黒かったが、体質は母親から受け継いでいた。悪魔族には使えない、癒しの魔法が使えたんだ。もちろん攻撃魔法も使用できる。どちらも使えるなんて凄いことではないか! 私はそう訴えたが、老害どもは異端だと認めなかった。だから私は……」
妃を娶ったのね。それによりザイールへの暗殺者はいなくなった。しかしグランデ王子が誕生すると、またもや暗殺者が送られる様になってしまった。なんとそれはグランデ王子の母親が送っていたそうよ。王はそれにいたく激怒し、妃を処刑し一族を下界へおとしたと言う。しかし……
「愚息の周囲に要らぬことを吹き込む輩がおってな。愚息は兄であるザイールを毛嫌いしおった。さらには私と城で過ごしていると、嫌がらせまでする始末だ。本人は兄の存在すら忘れているようだがな! 」
このため現王は、貴族の大粛正を始めた。天使国との和平を目指したのだ。そしてそのための私とグランデ王子の政略結婚。やがて両国の王が懇意になったとき、悪魔国の現王は、天使国の現王にすべてを告白した。姉であるエレノア姫の行方は、天使国では突き止められていなかった。そのため天使国の者たちは大変驚いたという。
「フラン。私が天使国へ行きたいと望んだんだよ。たとえ結ばれなくとも、フランの側にいたかったのです。私は天使族である母の体質を色濃く受け継ぎました。フランとのファーストキスでは制裁が発動せず、そのことをよけいに強く意識したのです。私は羽さえ出さねばハーフだとはわかりません。色彩も天使族に近いのです。目の色は悪魔族の父からですが……」
「ザイール……」
そうよね。悪魔族は漆黒や深紅。紫などの原色系が多い。逆に天使族は淡い色彩が多いもの。銀髪のザイルは、天使族に混じった方が目立ちにくいわよね。
「私は息子の望みを叶えた。天使国の王に託したんだよ。やがて息子が差別されない悪魔国を作ると決心してね。そしてようやく叶ったんだ。もうザイールを日陰者になんてさせやしない。姫とザイールの婚姻式では、我が妻エレノアのことも大々的に発表したい。エレノアだけが私の生涯の伴侶だ。元妻とは婚姻無効を神に認められている」
グランデ王子がいたのに、婚姻無効とはなぜなの?
「グランデよ。この話を聞いても、貴様はロゼッタとやらとの関係が、真実の愛だったと言えるのか? 貴様はなにを得たかったのだ? たしかに政略結婚を強いたのは私たちだ。しかし初めから愛はなくとも、信愛の情は育めたはずだ。お前が姫を大切にし、婚姻までたどり着いたならば、血は繋がらずとも王にするつもりだったんだよ」
衛兵がグランデ王子の猿ぐつわを外す。とたんに大声が響き渡る!
「父上! 母上は病死だったのでは?なぜ処刑なんて! 母上がそんなに邪魔だったのですか? それに血が繋がらないとはどういうことですか? 私は父上と母上の子です! 」
たしかにそうよね。暗殺者は未遂だし、処刑に一族郎党下界落ちは厳しいかも……それより血が繋がらないって……
「お前は前宰相と元妃の子だ。私は悪魔国を差別のない国にし、やがてはザイールを王にするつもりだった。だから妃とは子を作らなかった。妃は気付かなかった様だが、義務の閨では私は避妊をしていたからね。魔法薬なので確実だよ」
妃が宰相の子を身籠った……
「そんな! だが母上を蔑ろにしたあなたが悪いのではないのか? いくらなんでも刑が重すぎる! 」
たしかにそうね。でも……
「宰相はもと妃の父方の従兄だ。宰相の勧めで召し上げたが、貴様とロゼッタとやらと同じく、学生のころからの仲だったそうだ。私は大切にしたつもりだよ。心はエレノアに残したから愛せない。だが信愛の情を育もうとはしたんだ。だが! 結婚後も宰相との関係は続いていた。王族には影がついている。まさか式の一週間後には、宰相と関係を持っていたとは恐れ入ったよ」
王の子ではない者を王子だと偽る。たしかにこれは大罪よね。ならばあの罪の重さも理解できるわ。
「そんな……嘘だ! ならなぜ私を王にしようなんて思うんだ! それになぜ一族郎党を下界落ちにしたんだ! 」
「宰相と元妃の一族は、天使国との友好に難色を示していた。あわよくば私とザイールを弑逆し、宰相は己の子を王位につけ、己の傀儡にしようと目論んでいた。宰相の母は父王の姉君、つまり私たちは従兄弟だ。だからか良く似ていたし、黒髪赤目も同じ。だから解らないとでも思ったのだろう。しかし反逆は大罪だ。国を乱すものは間違いなく処刑だよ」
宰相と元妃は、初めから悪魔国を乗っ取るつもりだったのね。
「 宰相は王家の血を引いている。さらには貴様とフランシス姫との婚約だ。私の血を引かぬとも、両国の血を受け継ぐ子が次期王となる。貴様が愚息でも、優秀な姫なら不足を補ってくれる。後継者に期待がもてる。そう考えたからだ! 姫と婚約破棄をした貴様はもう用なしだ! 」
「ならば! フランシス! 私ともう一度婚約をしてくれ! お前だけを愛すると誓おう。真実の愛を捧げよう。どうだ? 嬉しいだろう。泣いて喜ぶが良い! ワハハハハ! 」
「…………」
沈黙が室内を凍りつかせる。グランデ王子?いえ、もう王子ではないのですよね?あなたの頭はどうなっているのですか?一度死ななければなおらないのでは?
あなたも羽をもがれ記憶を消去され、下界落ちした方が良さそうですね。
※※※※※※※
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる