【完】天使と悪魔の政略結婚。~真実の愛は誰のもの~

桜 鴬

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【本編】天使な姫君 side。

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 しかしそんな二人の幸せは長くは続かなかったといいます。幼いザイールと愛する夫を残し、呆気なくエレノア姫は亡くなってしまったのです。死因は父王に受けた暴行による、脳の障害によるものでした。そんな中現王は、父王の死亡を知ります。さらには兄弟たちが王位を争い、すべてが死に絶えてしまいました。

 ザイルの母上であるエレノア姫の方が、先に亡くなっていたのね。ならば公爵家に引き取られた経緯は、建て前なのでしょう。

 「私はとうとう悪魔国の貴族たちに見つかってしまった。ザイールを人質に取られ連れ戻され、無理やり王に担がれた。しかし王になりたくさんの事実を知った。父王を始め一部の悪魔族が、天使族の女性たちに酷い扱いを強いていたことをね。だから私は一度抜け出しあの屋敷に戻り、神に祈り願ったんだよ。悪魔族の罪の継続がなされませんようにと……」

 その願いを神が叶えてくれたのね。そしてこのお屋敷は、神の審判が行われる場所となった。さらには両国での婚姻は正式な婚姻後でなければ、体液の交換にあたる行為には制裁が下るようになる。つまり悪魔国の現王が願ったから、このお屋敷で神の審判が行われる様になったのね。

 「ザイールは離宮に軟禁状態だったが、時折城に来て私とともに過ごしていた。しかし一部の頭の固い老害たちが、ザイールを排除しようとしたんだ。私が妃を娶らないから後継者が誕生しない。まさかハーフを王にするのかと、暗殺者まで送りおった」

 隣のザイルをそっと見る。彼は両の掌を合わせて握りしめ、じっと話を聞いている。私は白くなるくらいに握り困れている、その両の拳にそっと掌を重ねた。

 「ザイールは羽は黒かったが、体質は母親から受け継いでいた。悪魔族には使えない、癒しの魔法が使えたんだ。もちろん攻撃魔法も使用できる。どちらも使えるなんて凄いことではないか! 私はそう訴えたが、老害どもは異端だと認めなかった。だから私は……」

 妃を娶ったのね。それによりザイールへの暗殺者はいなくなった。しかしグランデ王子が誕生すると、またもや暗殺者が送られる様になってしまった。なんとそれはグランデ王子の母親が送っていたそうよ。王はそれにいたく激怒し、妃を処刑し一族を下界へおとしたと言う。しかし……

 「愚息の周囲に要らぬことを吹き込む輩がおってな。愚息は兄であるザイールを毛嫌いしおった。さらには私と城で過ごしていると、嫌がらせまでする始末だ。本人は兄の存在すら忘れているようだがな! 」

 このため現王は、貴族の大粛正を始めた。天使国との和平を目指したのだ。そしてそのための私とグランデ王子の政略結婚。やがて両国の王が懇意になったとき、悪魔国の現王は、天使国の現王にすべてを告白した。姉であるエレノア姫の行方は、天使国では突き止められていなかった。そのため天使国の者たちは大変驚いたという。

 「フラン。私が天使国へ行きたいと望んだんだよ。たとえ結ばれなくとも、フランの側にいたかったのです。私は天使族である母の体質を色濃く受け継ぎました。フランとのファーストキスでは制裁が発動せず、そのことをよけいに強く意識したのです。私は羽さえ出さねばハーフだとはわかりません。色彩も天使族に近いのです。目の色は悪魔族の父からですが……」

 「ザイール……」

 そうよね。悪魔族は漆黒や深紅。紫などの原色系が多い。逆に天使族は淡い色彩が多いもの。銀髪のザイルは、天使族に混じった方が目立ちにくいわよね。

 「私は息子の望みを叶えた。天使国の王に託したんだよ。やがて息子が差別されない悪魔国を作ると決心してね。そしてようやく叶ったんだ。もうザイールを日陰者になんてさせやしない。姫とザイールの婚姻式では、我が妻エレノアのことも大々的に発表したい。エレノアだけが私の生涯の伴侶だ。元妻とは婚姻無効を神に認められている」

 グランデ王子がいたのに、婚姻無効とはなぜなの? 

 「グランデよ。この話を聞いても、貴様はロゼッタとやらとの関係が、真実の愛だったと言えるのか? 貴様はなにを得たかったのだ? たしかに政略結婚を強いたのは私たちだ。しかし初めから愛はなくとも、信愛の情は育めたはずだ。お前が姫を大切にし、婚姻までたどり着いたならば、血は繋がらずとも王にするつもりだったんだよ」

 衛兵がグランデ王子の猿ぐつわを外す。とたんに大声が響き渡る!

 「父上! 母上は病死だったのでは?なぜ処刑なんて! 母上がそんなに邪魔だったのですか? それに血が繋がらないとはどういうことですか? 私は父上と母上の子です! 」

 たしかにそうよね。暗殺者は未遂だし、処刑に一族郎党下界落ちは厳しいかも……それより血が繋がらないって……

 「お前は前宰相と元妃の子だ。私は悪魔国を差別のない国にし、やがてはザイールを王にするつもりだった。だから妃とは子を作らなかった。妃は気付かなかった様だが、義務の閨では私は避妊をしていたからね。魔法薬なので確実だよ」

 妃が宰相の子を身籠った……

 「そんな! だが母上を蔑ろにしたあなたが悪いのではないのか? いくらなんでも刑が重すぎる! 」

 たしかにそうね。でも……

 「宰相はもと妃の父方の従兄だ。宰相の勧めで召し上げたが、貴様とロゼッタとやらと同じく、学生のころからの仲だったそうだ。私は大切にしたつもりだよ。心はエレノアに残したから愛せない。だが信愛の情を育もうとはしたんだ。だが! 結婚後も宰相との関係は続いていた。王族には影がついている。まさか式の一週間後には、宰相と関係を持っていたとは恐れ入ったよ」

 王の子ではない者を王子だと偽る。たしかにこれは大罪よね。ならばあの罪の重さも理解できるわ。

 「そんな……嘘だ! ならなぜ私を王にしようなんて思うんだ! それになぜ一族郎党を下界落ちにしたんだ! 」

 「宰相と元妃の一族は、天使国との友好に難色を示していた。あわよくば私とザイールを弑逆し、宰相は己の子を王位につけ、己の傀儡にしようと目論んでいた。宰相の母は父王の姉君、つまり私たちは従兄弟だ。だからか良く似ていたし、黒髪赤目も同じ。だから解らないとでも思ったのだろう。しかし反逆は大罪だ。国を乱すものは間違いなく処刑だよ」

 宰相と元妃は、初めから悪魔国を乗っ取るつもりだったのね。

「 宰相は王家の血を引いている。さらには貴様とフランシス姫との婚約だ。私の血を引かぬとも、両国の血を受け継ぐ子が次期王となる。貴様が愚息でも、優秀な姫なら不足を補ってくれる。後継者に期待がもてる。そう考えたからだ! 姫と婚約破棄をした貴様はもう用なしだ! 」

 「ならば! フランシス! 私ともう一度婚約をしてくれ! お前だけを愛すると誓おう。真実の愛を捧げよう。どうだ? 嬉しいだろう。泣いて喜ぶが良い! ワハハハハ! 」

 「…………」

 沈黙が室内を凍りつかせる。グランデ王子?いえ、もう王子ではないのですよね?あなたの頭はどうなっているのですか?一度死ななければなおらないのでは?

 あなたも羽をもがれ記憶を消去され、下界落ちした方が良さそうですね。

 ※※※※※※※
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