【完】天使と悪魔の政略結婚。~真実の愛は誰のもの~

桜 鴬

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【本編】天使な姫君 side。

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 天使の国と悪魔の国は、長きにわたりいがみ合ってきました。しかしそれではいけないことであると、互いに歩み寄り王家の者たちが婚約を結ぶことにより、戦争を締結し両国の友好を結ぶこととなったのです。

 私は天使国の第一王女、フランシスと申します。私が五才の時に悪魔との友好条約が結ばれ、同時に悪魔国の第一王子との婚約が結ばれました。私は今年十八才になり、来年の春には悪魔国へ嫁ぎます。

 今日はそのお相手の婚約者である、グランデ王子とのお茶会です。グランデ王子は政務で多忙だといわれ、月に一度のお茶会にも中々いらしてくれません。しかしそれは真っ赤な嘘だとか。かなりの数の妖艶な美女を侍らして、豪遊しているとのお話です。

 このお話が本当であるならば、私は彼を生涯の伴侶として、敬い支えることができそうもありません。そもそも政略結婚なのです。愛など最初からあるわけがございません。それでも互いに歩み寄り、尊重しあえる関係を育むのが政略結婚というものなのです。

 私はそう教えられてきました。しかしさすがに国同士の婚約を破棄はできません。なぜならそれは、ようやく叶った友好を壊すことに繋がるのですから……まことに遺憾ではありますが、私が我慢すれば済むことなのです。

 おや。何でしょう?扉の向こうが騒がしいですね。なにかあったのでしょうか?扉を見ると突如大きな音を立てて開きました。おや?グランデ王子が、来られたみたいです。しかし騒がしいです。マナーがなっていませんね。

 「フランシス! 貴様との婚約は破棄だ! 大人しくつまらないお前とは、一生を過ごすことが苦痛だからな! しかもキスすらさせやしない! たいした体でもないくせに、勿体つけすぎなんだよ! だいたい天使は貞操観念が強すぎるんだ! これでは次期王である私の後継を、孕めるかを確かめることすらできんわ! 」

 はあ……たしかに私は悪魔族の女性のように、豊満な肉体ではありません。しかし私だって本当は、あなたのような筋肉マッチョは嫌いなんですよ。でも政略結婚だからと、我慢して良いところを見つけようとしているのです。

 まったく見つかりませんでしたけど。

 それにまったく正反対の天使族と悪魔族の婚姻には、神に祈る正式な誓約が必要なのです。それまで体液の交換になるような行為はできません。つまりキスも無理なのです。その訳を知っているならば、貞操うんねんなど言えないはずです。しかも孕めるか確かめるってどうするのでしょう? 婚前に孕んでしまったら、天使国では大問題になってしまいます。それに体の関係を持ったとしても子ができるかなんて、神さまでも解らないでしょう?

 まったく……教育はキチンと受けていらっしゃるのでしょうか?まさかこれほどの脳筋だとは……悪魔の国の将来が心配になってしまいますね。

 「そうですか……しかし私たちの婚約は、国同士の和平を結ぶための政略結婚です。それを勝手に破棄してもよろしいのですか? 」

 「ふん! 天使族など恐れるに足らんわ。私が軍を率いれば、すぐにでも滅ぼせる。さすれば貴様を愛妾にしてやっても良いぞ。愛する私に捨てられては、さすがに可哀想だからな」

 いえいえ結構です。あなたの愛妾なんてお断りです。それより今凄いことを宣言なさいましたね?私があなたを愛している?冗談は寝言だけにしてください。まあですがたった今婚約破棄を宣言されましたし、私はあなたの寝言を一生耳にすることはないでしょう。しかも天使の国に戦をしかけるおつもりですか?宣戦布告とは良い度胸です。これは悪魔国の王もご存知なのでしょうか?

 知らぬなら大変なことです。

 さらにはご自分を次期王だと仰いましたね。それは自国の王に反逆の意思ありと、受け取られても文句は言えません。悪魔族も天使族も、長子相続ではございません。実力を神に認められてこそ、真の後継者となりうるのです。

 「婚約破棄の件は了承いたしました。慰謝料はいりません。破棄していただき助かりましたもの。ですが手続きの方はそちらでお願いしますね。もしもこのことで和平が崩れた場合の損害は、もちろん悪魔国の責任でお願い致します。それではお帰りください」

 「…………」

 なんなの?さっさと帰りなさいよ。私はこれから父王に面会をして、婚約破棄後の対策を練らなきゃならないんだから!

 「グランデ第一王子? お帰りはあちらですよ。入ってきた扉を忘れてしまいましたか? 」

 あらあらお顔が真っ赤だわ。嫌みに気づいたのかしら?

 「フッフランシスは……婚約破棄をされても良いのか? この私が愛妾にならしてやると言っているのだぞ? 」

 「はあ? 良いのかって、グランデさまが宣言なさったのでは? この婚約は政略結婚です。しかし私はあなたの良いところを見つけようと努力はいたしました。しかしあなたは愚鈍で身勝手で、良いところなど皆無です。好きでもないあなたの愛妾だなんて、私はまっぴらごめんです。ちょうど良かったですわ」

 「貴様はー! 負け惜しみを言いやがって! 私が情けをかけて愛妾にしてやると言っているんだ! 貴様が悪魔国へくれば問題はない! それで和平は保てるだろうが! フランシス! ごたくを並べるのもいい加減にしろ! 」

 「婚約はたった今破棄されたのです。私を名前で呼び捨てないでください。女性に対して馴れ馴れしいです。それにいつまでも二人きりは良くないです。 さっさと退出してください。これくらいの常識も解らないのですか? バカにつける薬は無いと聞きます。王子はバカなのですか? 」

 「なんだと! 意地を張るのもいい加減にしろ! 」

 はあ? 意地なんてまったく張っていませんわ。しかし愛妾で和平が保てると?天使国は敗戦国ではないのです。あなたは本当にお馬鹿さんなんですね。するといきなり、私に向かい突進してくる姿が!これは不味いわ!護衛はどうしたのかしら?

 「キャァー! 誰か! 誰か来てー」

 グランデ第一王子が私を突き飛ばし馬乗りになり、無理やり唇を奪ってきました。私は思いきり唇に噛みつき、さらには急所を蹴りあげます。王族たるもの、護身術くらいは嗜んでいるんですよ。それよりも……

 「ウギャー! いっ痛い! しかもくっ苦しい! 貴様! 何しやがった! 」

廊下が騒がしくなり、護衛と兵士が駆け込んできます。

 「姫様ご無事ですか? 申し訳ございません! グランデ王子に結界を張られ、中に突入できませんでした! 」

 へー。一人前に結界なんて張ってたの?と言うより張れるんだ?でも少し痛いくらいで弱まる結界なんて、まるで大したことがないわよね。

 「不覚にもキスを奪われちゃったけど、苦しみは己に返るから構わないわ。ファーストキスは済んでるし。そういえばあの子は大丈夫だったのよね。不思議だわ」

 このバカ王子との初めて見合わされた時に、悪魔城の庭を散策をしていた時に会った男の子。私が転んだところを助けてくれた。そのときにキスしちゃったの。もちろん事故だけど。あのときはまだ体液の交換なんて知らなかったから、彼が大丈夫だったのかはわからない。でも苦しんでいるようには見えなかった。助けてくれた時に飛び出した羽は黒かったから、彼は悪魔族だったのに我慢してくれたのかしら?でも我慢できないほどの痛みのはず。やせ我慢させてしまったの?

 今思えばあれが私の初恋だったのかしら?

 私たちは有事以外は羽は仕舞っているのよ。生活するのに邪魔だからね。あれ?そういえば擦りむいた手を、彼は癒してくれたわよね?悪魔族は戦闘特化で癒しの魔法は使えないはずだけど……

 なんて考えている間に、グランデ王子は兵士たちに引きずられ、悪魔国へ強制送還されました。その後私は父王に面会し、ことの次第をすべて告白しました。

 「そうか……グランデ王子はかなりの愚者の様だな。お前も知ってはいるだろうが、悪魔族は性に奔放だ。和平前には天使族はかなりの被害を受けた。それを神が嘆かれ、神の誓約が誕生したのだ。特に互いの王家には厳しく知らされているはずだが……これは神の悪魔族へ対する制裁だ。それを蔑ろにするとはな……神への冒涜だな……」

 そうです。神の誓約については親から子へ、しっかりと口伝されるはずです。学び舎でも授業で習いますし、天使と悪魔対戦のお話は、絵本や書籍となり国中に伝えられているのです。両国の和平うんたらよりも、神の怒りの方が恐ろしいですよね。

 「父上……私が至らぬせいですみません」

 私が王子を諌められなかったから……しかし王子は聞く耳を持たないし、会う機会さえほとんどなかったのです。

 「お前のせいではない。あの愚者が愚か者なのだ。政略結婚を理解しておらん! しかし来週は婚姻前の両家での合同お披露目会談だ。そう言えば正式な結婚リングは届いているのか? 」

 「届いていませんわ。パーティーでのパートナーとしても、一度だって来国してくれたことがないではありませんか。もちろんあちらへお招きされたこともございません。誕生日の贈り物さえない。パートナーとしての、色あわせのドレスさえ贈られていません。そんな王子に父王は、なにを期待されていたのでしょうか? 」

 私は婚約者の義務として、贈り物もしていたし、パートナーのお願いもしていたわよ。でもすべてを無視されたわよ。

 「期待はしとらんかったが……たしか公爵家のザイールが、毎回お前のパートナーをつとめてくれていたな。お前はザイールをどう思っているのだ? 」

 どうって……従兄のお兄ちゃんじゃない。優しくて素敵なお兄ちゃんよ。いつも優しく遊んでくれたわ。父親を早くに亡くし母親と暮らしていた彼は、私が十才の時に公爵家の養子になったの。父王の年の離れた姉君が母上なのよね?たしか一回りは違ったと聞いているわ。

 「満更ではないようだな。ならばザイールをパートナーとして、披露会談にでたらよい。ついでに婚約を発表しよう。奴はお前が初恋の君だと公言しとるから、喜んでドレスや結婚リングを贈ってくるだろう」

 はい?いきなりなにをおっしゃっているのですか?

 「お父様? 」

 「よいよい。心配するな。代替わりした悪魔族の現国王は、息子の教育には失敗したようだが、中々に話のわかる奴だ。私が話をつけておこう。来週の披露会談が楽しみだな! ガハハハハ! 」

 ……なにがそんなに楽しいのかしら?私にはまったく理解ができません。

 ※※※※※※※
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