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【さん・Ⅲ】
乙女ゲーム・ヒロインが!転生者編⑥
しおりを挟む体の節々の痛みは収まってきたけど、胸が苦しい……足元が冷え冷えとしてくる。どうしよう何だか体が己の体ではないみたいに感じてしまう。不思議な違和感が己を包んでいる。
「フローラ。着替えを用意しているから、隣の部屋で着替えて来なさい?体が楽になるはずたからね」
第一王子様の言葉で、私の側に侍女が二人やって来た。一人に大きなタオルをかけられ、二人に体を支えられ隣室へ向かう。隣室の壁には、シンプルなベビーピンクのロングワンピースが掛けられていた。
…………私には大きくないかしら?
侍女のお二人がテキパキと私のドレスを脱がせてゆく。借り物のドレスだし体が貧相だからと、通常の女性がするような、コルセットというものが私には必要がない。代わりに沢山のタオルや下着を重ねて着ていた。
「もうこれらは必要ないですね。コルセットも絞めるタイプは必要ありません。上は胸が邪魔にならないように、補正するタイプの物をあてましょう」
全てのタオルや下着をはぎ取られ、胸になにかをあてられ、パンツの上に補正下着というものをはかされた。
「これらは普段着でもして下さいね。動きも楽になります」
私はなすがまま。お洒落のことなんて良くわからないけど、確かに体は楽な感じかする。上手くは言えないんだけれど、腹筋が押さえられて背筋が伸びる感じかしら?
「有り難う。でももう大丈夫よ。服くらい自分で着替えられるわ」
「いえ。もう少しですから、一気に着替えてしまいましょう! お楽しみはそれからです」
お楽しみって……着替えが?
もう一人の侍女が、ワンピースを壁から外して慌てて持ってくる。背中にジグザグに編み込まれたリボンを外し、上からスポンと被せられた。やはり裾が長いが、編み込まれたリボンを使い、腰上に膨らみをもたせて調整している。かなり上半身に手繰りあげられたようだけど、詰め物をしていないけど大丈夫なのかしら?ドレスではないから平気なの?
「こちらのワンピースは中にはくペチコートの膨らみ次第で、膝下丈にもロングにも出来ます。しかしまだ少しサイズが大きかったようですね。ロングでは引きずりそうですので、膝下丈に調整しますね」
私はもう成すすべもなくおまかせするしかない。フンワリとしたボリュームのあるペチコートをはかされ、ウエストを太めの白いリボンで結ばれた。更には次々と小物を装着され、髪の毛までいつの間にか結い上げられている。
「後はこれでお仕舞いです。素敵なレディの誕生ですわ。本当に女神様のようですわね。今から大きな姿見をお持ちします」
…………仕上げにとノースリーブの肩を隠すように、フラフワな白いボレロをはおる。
このボレロ……真珠が織り込まれてる……ワンピースの生地もシルクよね?お高そう…………汚さないように気をつけなきゃ…………
*****
二人の侍女が等身大の姿見を、部屋の隅から運んで来てくれた。促されるままその鏡の前に立つ私。その鏡を見た私の姿は…………
なぜ?どうして?もしかしなくても、多分この胸元のネックレスが魔道具なのだろう。きっと魔力を蓄えることが魔道具。それを私に還元したから、私の体は不足している魔力を吸収した。そしてあの痛みは成長痛だったのだろう。いきなりの成長に体が軋んでしまった。
成長出来たのは嬉しい……
でもこの姿は…………
「とてもお綺麗ですわ。フンワリとした花のイメージがピッタリです。是非皆様に見て戴きましょう」
どうしよう。どうしたら良いの?まさかこんなに似ているなんて、思いもしていなかった。嫌だ!こんなの死んでも嫌だ!
私はこんな顔は嫌よーー!
「いやーー! 私はイヤ! こんな顔は大嫌いよ!見たくもないの! 誰かお願い……この顔を元に戻して! こんなに怖い顔はやなの……助けて……」
どうしよう。また魔力を抜けば元に戻れる?でもそれは、再度枯渇を誘発する恐れがある。死んでしまう可能性も……でもこの顔で生きるくらいなら、死んだ方がマシかもしれない。
鏡を用意してくれた侍女たちが慌てだす。 隣室から王子様たちが駆け込んできた。後ろに呆然と佇む兄さんが見える。ノロノロと私の前に近付き、突如目前で土下座した。
「フローラすまない。全てを思い出したよ。私は妹の存在を知っていた。なのに何も出来なかった。いやしなかった。私が妹のことを聞くと、両親は妹なんていないという。しまいには虚言だと、母親に折檻されていたんだ……」
まさか……大切な後継のはずの兄さんにまで折檻をしていたの?
「私はそれが怖くて……母親は突然切れるんだ。殴る蹴るを繰り返し、地下牢に私を突っこみ食事を抜く。だが三日ももたずに迎えに来る。すると全てを忘れたように接し、まるで舐めるような激甘加減だ。私が嫌がっても一緒に風呂に入り一緒に眠る。私は何時までも、母親の庇護の元にいることを強制させられた。私の世界には母親だけ。父親は見てみぬふりだった」
「……………………」
「本当にごめん。多分君を忘れたのは、君には兄がいない方が良かったと感じたから……私は養子先で母親になつけなかった。義母にも実母と同じ恐怖を感じてしまったから。私を慈しんでくれているのは感じていた。しかし時折垣間見る視線が怖かった。私は荒れてしまった。妹は私のために……なのに私は……と不甲斐なくて……」
兄さん……私は……己だけを不幸だと感じていたのかもしれない。でも……そう思うことで頑張ってきたの。だから私は謝らない。でもきっと許すことは出来ると思う…………。
「フローラ。綺麗になったね。残りは私の魔力を使うとよい。遺言としてのこそう。私は犯罪に手を染めてしまったからね」
怪しげな薬って……そんなに危ない薬だったの?
「それからね?大丈夫。母親になんてまったく似ていないよ。あの人は真っ赤なバラの花が大好きで、いつも毒々しい真っ赤なドレスだった。高飛車で婿養子の父親を怒鳴り散らしてばさりいたから、余計に父親親族からの後継はまだか!の声が高かったそうだよ。それで心を病んだのは自業自得だ。フローラはまるで春の妖精のようだ。あんな意地悪い口角を歪めてしか笑えない母親になんて、本当にまったく似ていないよ!」
兄さん……
「フローラ……王家は流石に兄への虐待までは気付いていなかった。しかし彼のいっていることに間違いは無いと思う。彼が保護された時、腹部などの服に隠れた部分にかなりのアザがあったそうだ。本人は木登りをしていて落ちたと言ったらしいが、検査の際も母親が放れなかった。きっと話せなかったんだろうね。服装の件も間違いないよ。あ……そういえば……彼女こそ悪役令嬢とやらそのものだったね」
「兄さん!それは話して良いの!? 」
「構わんだろう。君たちの母は若いころ、今の王、つまり私たちの父の婚約者だったんだよ。しかし父王は学園で転校生に色々と教えていた。もちろんこれは生徒会の仲間全員でだ。しかし彼女は婚約者の私を蔑ろにしたと怒り、転校生の子を執拗に虐めしまいには殺そうとした。事件は未然に防がれたけど、もちろん婚約は破棄された。この件もあり、現在は余程のことがない限り、政略結婚による婚約の強制はない」
「そうだったね。一応そういう話しになってるよ。しかし婚約者だった公爵令嬢は虐めているつもりはなかったし、後にすべてが冤罪だと判明した。その証拠に彼女の名誉は保たれている。処分もされていないよね?そしてそのときの転校生の中の一人が私たちの母だ。現王妃だよ。母は庶子で誰かのように庶民として暮らしていた。しかし学園では特待生だったし、誰もがみとめる努力家で、厳しいと言われる王妃教育も満点でこなしたそうだ。因みにフローラもしっかりこなしてるよ。お城での教育に混ぜ込んでいたらしいからね」
なんでー?確かに貴族年鑑を覚えろとか、近隣諸国の情勢やらお偉いさんのゴシップまで習わされたけど……ミラクルマスターは、お偉いさんがお客だったりするから……そうよ!もしかしなくてもそれよね!!
「ならやはり私はヒロインでは無かったの?物語は全て終わっていたのね……王妃様がヒロインでフローラの母親が悪役令嬢。なら私は?私は只の男爵家の養女……しかも男爵の血筋では無いのね……」
自称ヒロインが故男爵に託された箱を抱えて、ブツブツと呟いている。箱のなかには男爵の妻であった女性からの、娘に体する懺悔の手紙。私に取られたと話していたという、実の母親の形見であるというアクセサリー。これは男爵家に引き取られて来たさいに、男爵に新しい物を貰ったからと放置していたらしい。それを母親が拾い、壊れていた部分を補修していた。これは実の父親が、良心の呵責から持たせたのだろう。実の父親は後継が出来ないのは婦人のせいだと思い込み、己が無体を働いても大丈夫だろうと信じ込んでいた。
さらには綺麗な箱に入った白いドレスにアクセサリー類。少女たちのデビュタントの正装だ。母親はこっそりと二度と会えぬ娘のために、これらを用意して隠していた。男爵は妻の意思を尊重した。
自称ヒロインは……ようやく長い夢から目を覚ましたのだろう。白いドレスを抱え涙を流していた。
兄に託された箱には、数種の権利書の書類。そして借金の完済済みの証文に、袋に入った宝石類。実の両親からの手紙と、男爵からの手紙だった。
「それらの手紙を読む前に良いかな?故レイズ男爵の新しい遺言だ。君たちの婚約破棄の願いと爵位返上の件だ。王家はこれを承認する。よってレイズ男爵としての爵位は国へ返還となり、君たちの婚約も破棄された。統治能力が無いため既に代官が送られているから、現状に変化はない。既に分配された遺産については、男爵個人の資産のためそのまま。但し物件や鉱山などの財産は、国に徴収される。君のその箱の中の物は男爵個人からのものだ。だから国とは関係ないよ。ここからは少し離れるが、別宅も有るらしい。君の借金も全額返済されているようだ。この確認が取れずに困っていたんだよ。あちらは支払われていないとごねていたからね。ようやくこれで闇組織の残党を遠慮なく叩けるな。贅沢をしなければ、暮らしに困りはしないだろう」
兄は話を聞いた後、手紙を読みながら嗚咽を漏らしていた……
「さて。最後はフローラの番だね。先ずはそのネックレスは、君の実のご両親からのものだ。ほぼ想像は付いていると思うけど、魔力をため込み譲渡する魔道具だよ。君の両親からの最後の懺悔だ。彼等は処刑されるまでの期間、君が幼い頃にされたように、魔力を抜き取られ続けた。しかしこれは二人からの懇願だった。だがいくら処刑が決定しているとしても、人権侵害にあたるまではできない。だから魔力枯渇まではさせていないよ。しかしそれを知った二人は、枯渇しても良いから搾り取ってくれと懇願してきた。流石にそれは出来ないというと、なら死ぬ間際には一滴残らずに、すべてを搾り取ってくれと……」
お父さん……お母さん……
そして兄さん……
私はあなたたちを許したい。
でもまだ気持ちの整理がつきません……
「フローラ。君は急ぐことはない。我々は罪を犯した。君の幸せだけを祈っている。最後にあえて良かったよ。有り難う……」
「……しかし先程からきになっていたんだが、フローラの兄はなぜ先がないような話をしているんだ?まさかあんなクスリくらいで死刑になるとでも? なら男爵はなぜ遺産を残したんだ。全くこれでは報われんな」
え?どういうこと?クスリはたいしたものではなかったの?
「怪しげなクスリだといっただろう。怪しすぎる偽物だ!俗に媚薬と呼ばれているものを、さらに薄めた粗悪品だよ。完璧に騙されたな。あれが麻薬とよばれる物なら、そこら辺の薬草が大金に化けるぞ! まんま金蔓扱いだよ……男爵もあんな粗悪品に、正規の金額を支払いたくはなかっただろうに……」
自称ヒロインと兄はポカンとしている。
私もビックリよ……
*****
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