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 魔力の暴走が治ると共に、旧イルメラの意識もシュルシュルと萎んでいった。
 それを少しだけ寂しく感じていると、屋敷の方が急に騒がしくなった。

「ーーモナ⁉︎ モナしっかりしてっ⁉︎」
「モナ……⁇」

 聞き覚えのある名前に、ふらり……と無意識のうちに屋敷へと足を進めていた。
「屋敷の方へ行っていなさい」そう声をかけた女の子がモナという名前だということを思い出していたーー

 そして見えてきた人垣の隙間から、人可愛らしい小さな手が見えた瞬間、私は弾かれたかのように走り出した。

「ーーっ⁉︎ どいてっ‼︎」

 人々をかき分けて、女性の腕の中にいたモナに駆け寄る。
 一体なにがあったのか、モナの意識は無く、身体はガタガタと痙攣けいれんしていていた。

 アイツらこんな小さな子に何をしたのよ⁉︎
 怒りに震えながらもモナの身体を確認するがーーハッキリした原因が分からない。
 おそらく頭を打ったせいだと思うけど、それ以外の場合も十分に考えられる……ーーハッキリしないんだったらさっさと全身治す‼︎
 自分に喝を入れるように、グッと手を握り締め、気合を入れ直すと素早く魔法をかけていく。

 ーー全部に治せばいいんだよっ! モナがけんこうになればいいんだからっ‼︎

「ーーぁ……」

 回復魔法をかけ始め、しばらく経つと、モナがフッ……と目を開けた。
 すでに痙攣もなく、顔色に赤みも戻って来ている。 ーーあとは魔力の押し返しがくれば……ーーあ、来た!

「ねぇ……ちゃま……」
「ーーもう大丈夫だよ。 もうどこも痛くないでしょう?」

 そう言って、安心させるように優しく髪をすいていく。

「う……うぁ、あああっ!」

 元気になったモナは、その安心感からか怖かった時のことを思い出したのか、火がついたように大きな声を上げて泣き出した。

 ーーでも、これだけ大きな声が出せるならもう安心だね。

「……姉様ここ痛いの……」

 もうモナは平気なのだと理解したのか、モナ一緒に遊んでいた男の子が、甘えるように自分の手のひらを見せながら近寄って来た。
 ズボンの膝あたりに泥がついているので、転んでしまったのかもしれない。

「あらら……」

 そう言って少し血の滲んだ手を握り回復魔法をかけた。 元気よく押し戻しが返ってきたので、この子はいたって健康なようだ。

  それをきっかけに、様子を伺っていた子供たちがわらわらと寄ってきて、次第に大人たちが混じり始めた。

「はいはい、順番に見ますからねー。 ちゃんと全員直しますのでー」

 ーーさっき暴走させたから、過去一かこいち魔力の残量が不安だけどー。
 ……次からは無駄にしないように気をつけよ。

「ーーな、なんですのっ⁉︎ あんなにちからを見せびらかしてっ‼︎ なんてはしたない!」

 遠くの方でレベッカがムカつくことをわめいている気がする……

「ーー黙れ」

 治療を続けながらも、チラリと視線を送ると、怒りのオーラを纏ったエド様がレベッカを睨みつけていた。

「……エド、アルド様……?」
「ーー誰のせいでっ‼︎ ……君が傷つけた者たちのほとんどが、我が領の民であることを忘れるなよ……?」
「あ……あの、それはっ!」

 再びエド様に近づこうとしたレベッカだったが、再び兵士たちに止められ、その兵士たちを睨みつけている。

 ーーいや、他領に兵士を連れ込んだ挙句、それを領主が「許さないって」明言しちゃったんだから、もう貴女の出来ることは、身を小さくして存在感を殺すか、平謝りかのどちらかなのよ……?

 ーーでも、貴女がヘタを打ってくれたおかげで、エド様が怒ってくれて、ちょっとスッとしたわー……

 いくら頭に来たからって、こんなに大勢のケガ人放っておいたーーなんて、師匠の耳に入ったら、冗談抜きで本当にペンペンされてしまうかもしれない……!

「皆さん大丈夫ですかー? 周りに歩けないほどの重傷者や気分が悪そうにしている人はいませんかー⁇ 遠慮しないでどんどん声かけてくださいねー」

 そう言いながら、ジーノさんたちと一緒に庭の中を巡り歩く。

 ーー大切なお客さまたちだ。 ちゃんと守れず怖い思いをさせてしまったが、せめて健康な状態でもお帰りいただきたい……

 ーーだから今日は褒めても追加は無しだってば!
 ……え、さっきは本物のお嬢様みたいだったって?
 えっ、カッコよかった⁇ 憧れちゃう⁉︎

 ……ーーんもぉー、しょうがないなぁー。 ちょっとだけだよぉー?
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