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 ゼクスの言葉にリアーヌは気まずそうに視線を逸らしながら答えを口にする。

「……母さんが見えてないなら“私たちは”大変じゃないと思いますけど……」
「ーー俺たちは、大変かもしれない?」
「……可能性は高いとーーだって騎士がここに来るんですよね?」
「……だよねぇー?」

 ゼクスがそう答えたことを合図に、ラッフィーナート家の面々が立ち上がり、キビキビと指示を出し始める。

「ーー騎士が来るよ! の準備しときなっ!」
「騎士がいる時に、ボスハウト家の安否情報は口にしねぇように徹底しろ」
「ヴァルム殿だろうと、誰だろうとボスハウト家の人間は近づけるなよ!」

 グラントたちが大声で指示を飛ばしながら応接室を出ていくのを見送ったゼクスは、サージュたちに向かいニコリと笑顔を浮かべながら口を開く。

「念の為、この部屋のカーテン閉めますね? 準備だけはさせておきますので、万が一の時は窓から出てうちの馬車で逃げてください。 それとーーお手洗いはこの部屋にないのでお早めにお済ませを」

 そう言って軽く会釈すると、その手配のためかゼクスも応接室を出て行った。

「ーー念の為全員行っとく?」

 トイレに関してはそれほどの緊急性を感じてはいなかったリアーヌだったが、行けないと分かると行きたくなってしまうという、自分の特性を理解していたので、そう提案しながら立ち上がっていた。

「ーーそうね? ザームも行くのよ? 貴方さっきから食べたり飲んだりばっかりなんだから……」
「ーーここの菓子うめぇ」

 応接室に入ってから、延々とテーブルに用意されていた菓子やお茶を飲み食いしていたザームだったが、ボスハウト家の教育の賜物なのか、ちゃんと口の中のものを飲み込んでから喋り始める、というマナーは身につけたようだった。

「そりゃ良かったな。 ほら行くぞ」

 サージュに促され、立ち上がるザーム。

「トイレから帰ったらまた食っていいか?」
「ーー騎士が帰ったら……に、いたしましょうか?」

 ザームの言葉に答えたのは、控えめに一家の後に続いて廊下を歩くアンナだった。
 ザームは一瞬、不満そうに顔をしかめるが、アンナにニコリと微笑まれ、グッと不満を飲み込むと「ワカリマシタ……」と大人しく頷いた。

(……当たり前なんだよなぁ……? これで騎士にバレて捕まっちゃったら、さっきの超絶イヤな予感がすることが、この見どころか、うちにもラッフィーナートにも起こっちゃうんでしょ……? ムリだよ。 多分これ、命に関わる系の“なにか”だよ……)
 
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