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 ヴァルムが立ち去った後の執事室の扉を、ヴァルムの見送りに出ていたオリバーが再びノックした。

「ーー入れ」
「ヴァルム殿がおかえりになりました」

 窓の外に視線を送っていたトビアスは、その言葉にオリバーに視線を移しながら口を開いた。

「そうか。 ……それでお前の見立ては?」

 その表情には笑顔の欠片もなく、ただ無表情にオリバーからの報告を待っていた。

 ヴァルムの要請により今回の旅にオリバーを同行させたのは、ボスハウト家に恩を売りたいという思惑とは別に、リエンヌやリアーヌ、そしてザームの人となりを確認する意味合いもあった。
 ーー殊更、リアーヌに関しては入学当初から問題やトラブルの渦中にあることが多く、王族の一員としての資質があるのかどうか、信頼できる部下に確かめさせたかったのだ。
 
「ーー立ち振る舞いには難がありすぎるかと……」
「……カーテンに隠れて試験を突破してしまうお嬢様だからな?」

 オリバーの言葉に、トビアスはクスリと笑いを漏らしながら答える。

 覚えられる頭があるのであれば、今の実力はどうでも良いと思えた。
 それよりも肝心なのはその人間性ーーいくら陛下が気に入っていようと、ヴァルムが大切にしていようと、これから先王家に仇となるような人物であるならば、今から対応を考えておかなくてはならないーートビアスはそう考えていた。

「純粋な疑問なんですけど、それってがあったりしたんでしょうか……?」

 オリバーは、リアーヌの成績に関して、なんらかの改ざんかあったのか? とたずねていた。

「まさか。 ……しかしその時はすでにリエンヌ様のお顔立ちは知っていたからな、結果次第では心を配っていたやもしれないがーー……行動的でいらっしゃるところはマルガレータ様の血筋やもしれんな?」

 トビアスの言葉にオリバーは苦笑を返すと、大きく息を吐きながらしみじみと呟いた。

「ーー本当に突破しちゃったんですねぇ……」
「しかも座学だけで見るならば三位という才女だ」
「なにかの冗談……ーーいや、知識は豊富なのか……」

 オリバーはそう呟くと、アゴに手を当てブツブツと独り言を話しながらなにかを考え始めた。

「ーーお前の目から見て、リアーヌ様は王族足りえるか? それとも否か⁇」

 トビアスは再び真剣な表情をオリバーに向けると、その答えを静かに待った。

 貴き血筋は厳重に保護してゆかねばならない。
 例えそれが、公にはならない事実だとしても。
 例えそれが、国を捨て、好いた男と駆け落ちするために一芝居打った姫君の孫だとしても。

 この国の明るい未来のために、貴き血筋は決して途絶えさせてはならないのだ。
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