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 そのトビアスの言葉にヴァルムはそっと小さく息を吐き、ホッと胸を撫で下ろした。
 “ボスハウト家”と言い添えたと言うことは、陛下がこれから先もリアーヌたちをボスハウト家の人間として扱うという、意思表示だと思えたからだ。

 ヴァルムの忠誠はあくまでもボスハウト家に捧げられている。
 例え思いやりや深い愛情からであっても、ようやく見つけたボスハウト家の跡取りたちを王家に差し出すわけには行かなかったのだ。

「ーー主に代わり、御礼申し上げます」

 深々と頭を下げるヴァルムがなにを警戒していたのか、手に取るように理解していたトビアスはクスリと小さな微笑みを浮かべた後、再び神妙な面持ちで語りかける。

「つきましては、ボスハウト家がご嫡男ザーム様のご結婚をぜひ祝福させてほしいと……」
「そ、れは……ーー当家と致しましては願ってもいないことでございますが……」

 珍しくヴァルムは言葉を詰まらせながら答える。

 それもそのはず、先ほどの発言は、国王陛下がザームの結婚式に出席する。 という宣言にほかならなかった。
 ボスハウト家が子爵であることを考えれば、それは異例のことであり、先ほどの国王の言葉がウソでも社交辞令でも無いのだと知らせるようなものだった。

「ーー陛下はマルガレータ様を大変に良くしていただいたのだと……今でも大変慕っておいでです……ーー苦労多き時を過ごされていたと知ってからは、少しでもお力になりたいと……」
「ーー陛下の心配りに感謝するばかりにございます」

 トビアスの言葉に深々と頭を下げながらヴァルムは言った。
 頭の中では、国王を招くに恥ずかしくない結婚式にする為、今から準備しなくては……! と必死に考えを巡らせながら……

「ーーそれが無くともボスハウト家は王家に連なる家……常々お心を砕かれておいでなのですよ」

 そんなトビアスの言葉にヴァルムはその目を大きく見開いた。
 そして呆然とした表情でトビアスを見つめ返す。

(なんのウソも付いていない……?)

 その驚きはヴァルムに決して少なくはない喜びを与えることになった。

 ヴァルムとて、昔のボスハウト家が周りからどのように思われていたのかぐらいは理解していた。
 仕えている自分ですら眉をひそめるような状況だった時、国王がボスハウト家に心を砕いていたーー……結果、どうにもならなかったとしても、その事実がたまらなく嬉しかったのだ。

「もったいないお言葉でございます……」

 穏やかな笑顔を浮かべたヴァルムはトビアスを通じ、国王陛下その人へ、深々こうべを垂れたのであったーー
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